万歳!国外追放?まあ、なんて素敵なのでしょう!

恋の箱庭

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王宮の夜会から命からがら(?)帰宅したアニエスを待っていたのは、怒髪天を突く勢いの父、ラ・メール公爵だった。
重厚な書斎の扉が開くと同時に、雷鳴のような怒声が響き渡る。

「アニエス! 貴様、一体何をやらかした! 王太子殿下から、婚約破棄と国外追放の通達が届いたぞ!」

アニエスは、父の怒りを「娘の門出を祝う情熱」と受け取り、パッと顔を輝かせた。

「お父様! お耳が早いですわね。そうですの、殿下ったら粋な演出がお好きで……。会場の皆様の前で、大々的に私の『卒業』を宣言してくださったのですわ!」

「卒業だと!? 断罪だろうが! お前が男爵令嬢に嫌がらせをしたという証拠まで突きつけられたのだぞ!」

公爵は机を叩き、震える手で書類を指し示した。
そこにはアニエスの罪状がこれでもかと書き連ねてある。
アニエスはそれを覗き込み、感心したように頷いた。

「まあ、これほど細かく私の活動を記録してくださっていたなんて。殿下は実のところ、私の熱烈なファンだったのかもしれませんわね。この『冷水を浴びせた』という項目も、熱中症対策としての功績を称えてくださっているのでしょう?」

「……お前の脳内はどうなっているんだ。いいか、アニエス。我が公爵家に泥を塗った罪は重い。私は決断した。本日をもって、お前を勘当する!」

勘当。
それは家族としての縁を切り、後ろ盾をすべて失うことを意味する。
並の令嬢であれば、その場で気を失ってもおかしくない宣告だ。

「カンドウ……。まあ、お父様! なんて素晴らしい響きでしょう!」

アニエスは頬を赤らめ、うっとりと手を合わせた。

「『感動』のフィナーレ、ということですわね? お父様の元を離れ、一人の女性として羽ばたく私への、最高の褒め言葉……。私、お父様の深い愛情に、今まさに『カンドウ』しておりますわ!」

「違う! 漢字が違うし意味も違う! 縁を切ると言っているんだ! 二度とこの敷地を跨ぐな、一文無しで出て行けという意味だぞ!」

「ええ、分かっておりますわ。つまり『自立支援プログラム』の開始ですね! 親の七光りに頼らず、自分の力で人生を切り拓けという、お父様流のスパルタ教育……。なんて教育熱心な親バカ様かしら!」

アニエスは、涙ぐむ公爵(実際には怒りと絶望で目が潤んでいるだけである)の手に、そっと自分の手を重ねた。

「安心してくださいませ。私、お父様の期待に応えてみせます。隣国で、立派な『自立した女』になって、いつかお父様を驚かせて差し上げますわ!」

「……もういい。勝手にしろ。おい、誰か! この救いようのない娘を外へ連れ出せ! 馬車は一台だけ用意してやる。それ以降の面倒は見ん!」

「まあ! タクシー代まで出していただけるなんて。どこまでも過保護なお父様ですこと。大好きですわ!」

アニエスは、泡を吹いて倒れそうになっている父に投げキッスを送り、軽やかなステップで書斎を後にした。
廊下では、長年アニエスに仕えてきた老執事が、ハンカチで涙を拭いながら待っていた。

「アニエスお嬢様……。旦那様も、あんなに仰らなくてもよろしいのに……」

「あら、セバス。そんなに悲しまないで。お父様は照れ屋さんだから、あんな風に厳しく装っているだけですわ。本当は、私の新しい門出を誰よりも応援してくださっているの」

「お嬢様……そのポジティブさ、もはや国宝級でございますな」

「あら、褒めても何も出ませんわよ? あ、そうだわ。セバス、旅の準備は整ったかしら? お徳用の干し肉と、冒険者風のハット。それから、万が一のためのピコピコハンマーは入れた?」

「……はい。公爵家の令嬢が隣国へ行く荷物としては、あまりにも前衛的ですが、ご用意いたしました」

セバスは、アニエスが「国外追放」を「高級サバイバルツアー」だと本気で信じていることに、もはやツッコミを入れる気力を失っていた。
むしろ、このまま隣国へ行けば、向こうの国の方がパニックになるのではないかという危惧さえ抱いている。

アニエスは、玄関ホールに整列した使用人たちに向かって、大きく手を振った。

「皆様! しばしのお別れですわ! 私が隣国で『伝説の自立女子』になったら、皆様を特別招待して差し上げますからね! それまで、お父様の愚痴に付き合ってあげてくださいまし!」

「「「お、お気をつけて、アニエスお嬢様……!」」」

使用人たちの声は、悲鳴に近い見送りだった。
彼らは知っている。アニエスが去った後の屋敷が、いかに静かで、そしていかに「ツッコミ不在」で寂しくなるかを。

アニエスは、父が用意した(といっても、家紋を消されたボロボロの)馬車に乗り込んだ。

「さあ、御者さん! 未知なる大地、隣国へ向かって出発進行ですわ! 窓の外の景色、全部私の『新しい庭』だと思って楽しみますからね!」

馬車が走り出し、アニエスの実家が遠ざかっていく。
普通なら絶望のどん底であるはずのシチュエーションで、アニエスは手持ちの干し肉を齧りながら、ワクワクと目を輝かせていた。

「ふふっ、まずは国境の街で、美味しい屋台巡りから始めましょうかしら。追放生活、楽しみすぎて夜も眠れそうにありませんわ!」

こうして、史上最も明るい追放者が、隣国へと向かう過酷な(アニエス視点では豪華な)旅路についたのである。
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