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ヴァンドーム王宮が一年で最も華やぐ夜、大舞踏会の幕が上がろうとしていた。
会場には隣接する諸国からも貴族が集まり、豪華絢爛なドレスと正装が渦を巻いている。
そんな喧騒の舞台裏で、ギルベルト王子は困り顔でアニエスの控室の前に立っていた。
「アニエス、準備はいいかい? 今日はメイドとしてではなく、僕の正当なゲストとしての参加なんだ。……一番目立つ格好をしてきてくれと言ったけれど、大丈夫かな?」
扉の向こうから、凛とした、しかしどこかズレた決意に満ちた声が返ってくる。
「もちろんですわ、ギルベルト様! 私、皆様の視線を釘付けにする『究極の正装(タクティカル・フォーマル)』を完成させましたの。今、最後の安全装置を確認しておりますわ!」
「……安全装置? ドレスにそんなものが必要なのかい?」
不安げなギルベルトの隣で、同じく招待されたセドリック王子が苦々しく口を開いた。
「ギルベルト、あいつに『目立つ格好』などと注文をつけるのが間違いなのだ。ラ・メール王国にいた頃も、あいつは園遊会に『害虫駆除用』と称して全身防護服のようなドレスで現れようとした前科があるんだぞ」
「……それはそれで見てみたかったけれど。おや、扉が開くよ」
ギギ、と重厚な扉が開くと、そこには眩いばかりの光を放つアニエスの姿があった。
二人の王子は、同時に目を剥き、言葉を失った。
アニエスが纏っていたのは、最高級のシルク……の上に、全身を覆うほどの「白銀のプレートアーマー」を部分的に配置した、前代未聞のドレスだった。
頭には小さなティアラと共に、なぜか頑丈そうなバイザーが装着されている。
「お待たせいたしましたわ! これぞ、アニエス特製『移動要塞・プリンセス・モード』ですわ! これなら、どんなに激しいダンスの衝突にも耐えられますし、万が一の奇襲にも即座に対応可能ですわね!」
「……アニエス。それは、ドレスというより……重装歩兵の装備だね?」
ギルベルトが頬を痙攣させながら尋ねると、アニエスは誇らしげに胸元の甲冑を叩いた。
コーン、と乾いた金属音が響く。
「いいえ、ギルベルト様。これは『鉄壁の淑女』をテーマにした最新のトレンドですわ! ほら、このスカートの裾には、護身用のピコピコハンマーを吊るすためのホルダーも完備しておりますの。まさに、美しさと破壊力の融合ですわね!」
「破壊力はいらないんだ! アニエス、君は……君は普通にドレスを着るだけで、誰よりも美しいというのに……!」
セドリックが頭を抱えて崩れ落ちた。
「まあ、セドリック殿下。私をそんなに褒めてくださるなんて! でも大丈夫ですわ、このアーマー、軽量化魔法をかけたお徳用のアルミ製ですから、ステップも軽やかですのよ。ハイ、ワン、ツー!」
アニエスが金属音を響かせながら華麗なターンを決めると、バイザーがシャキーンと自動で下がった。
「準備万端ですわ! さあ、戦場……もとい、舞踏会という名の演習場へ乗り込みましょう! 私が皆様に、本当の『輝き(物理)』を教えて差し上げますわね!」
アニエスはカシャカシャと音を立てて歩き出し、呆然とする二人の王子を置き去りにして会場へと突進していった。
大舞踏会の広間に、銀色の怪光を放つ令嬢(?)が乱入した瞬間、オーケストラの演奏が止まった。
貴族たちが「何事だ!?」「隣国の最新ファッションか!?」「いや、暗殺者か!?」とパニックに陥る中、アニエスは堂々と中央まで進み、バイザーを上げた。
「皆様、ご機嫌よう! 本日、ヴァンドームの平和を物理的に守るために参上いたしました、アニエス・ド・ラ・メールですわ! さあ、私と踊ってくださる勇敢な戦士(パートナー)はいらっしゃいませんこと?」
アニエスの満面の笑顔と、照明を反射してキラキラと輝く白銀のボディ。
そのあまりの神々しさとシュールさに、会場全体が一周回って「……なんて前衛的な美しさなんだ」という謎の感動に包まれ始めた。
「……ギルベルト。……あいつ、やっぱり王妃(軍司令官)に向いているんじゃないか?」
セドリックが遠い目で呟くと、ギルベルトは深い溜息をつきながら、正装の手袋を嵌め直した。
「……負けていられないね。僕もあのアニエスという名の『嵐』に、全力でエスコートの戦いを挑むとしよう」
こうして、伝説の「アーマー舞踏会」が幕を開けた。
アニエスが回るたびに周囲の令嬢たちが物理的に弾き飛ばされそうになるのを、二人の王子が必死にフォローして回るという、世界一過酷でハッピーなダンスの時間が始まったのである。
会場には隣接する諸国からも貴族が集まり、豪華絢爛なドレスと正装が渦を巻いている。
そんな喧騒の舞台裏で、ギルベルト王子は困り顔でアニエスの控室の前に立っていた。
「アニエス、準備はいいかい? 今日はメイドとしてではなく、僕の正当なゲストとしての参加なんだ。……一番目立つ格好をしてきてくれと言ったけれど、大丈夫かな?」
扉の向こうから、凛とした、しかしどこかズレた決意に満ちた声が返ってくる。
「もちろんですわ、ギルベルト様! 私、皆様の視線を釘付けにする『究極の正装(タクティカル・フォーマル)』を完成させましたの。今、最後の安全装置を確認しておりますわ!」
「……安全装置? ドレスにそんなものが必要なのかい?」
不安げなギルベルトの隣で、同じく招待されたセドリック王子が苦々しく口を開いた。
「ギルベルト、あいつに『目立つ格好』などと注文をつけるのが間違いなのだ。ラ・メール王国にいた頃も、あいつは園遊会に『害虫駆除用』と称して全身防護服のようなドレスで現れようとした前科があるんだぞ」
「……それはそれで見てみたかったけれど。おや、扉が開くよ」
ギギ、と重厚な扉が開くと、そこには眩いばかりの光を放つアニエスの姿があった。
二人の王子は、同時に目を剥き、言葉を失った。
アニエスが纏っていたのは、最高級のシルク……の上に、全身を覆うほどの「白銀のプレートアーマー」を部分的に配置した、前代未聞のドレスだった。
頭には小さなティアラと共に、なぜか頑丈そうなバイザーが装着されている。
「お待たせいたしましたわ! これぞ、アニエス特製『移動要塞・プリンセス・モード』ですわ! これなら、どんなに激しいダンスの衝突にも耐えられますし、万が一の奇襲にも即座に対応可能ですわね!」
「……アニエス。それは、ドレスというより……重装歩兵の装備だね?」
ギルベルトが頬を痙攣させながら尋ねると、アニエスは誇らしげに胸元の甲冑を叩いた。
コーン、と乾いた金属音が響く。
「いいえ、ギルベルト様。これは『鉄壁の淑女』をテーマにした最新のトレンドですわ! ほら、このスカートの裾には、護身用のピコピコハンマーを吊るすためのホルダーも完備しておりますの。まさに、美しさと破壊力の融合ですわね!」
「破壊力はいらないんだ! アニエス、君は……君は普通にドレスを着るだけで、誰よりも美しいというのに……!」
セドリックが頭を抱えて崩れ落ちた。
「まあ、セドリック殿下。私をそんなに褒めてくださるなんて! でも大丈夫ですわ、このアーマー、軽量化魔法をかけたお徳用のアルミ製ですから、ステップも軽やかですのよ。ハイ、ワン、ツー!」
アニエスが金属音を響かせながら華麗なターンを決めると、バイザーがシャキーンと自動で下がった。
「準備万端ですわ! さあ、戦場……もとい、舞踏会という名の演習場へ乗り込みましょう! 私が皆様に、本当の『輝き(物理)』を教えて差し上げますわね!」
アニエスはカシャカシャと音を立てて歩き出し、呆然とする二人の王子を置き去りにして会場へと突進していった。
大舞踏会の広間に、銀色の怪光を放つ令嬢(?)が乱入した瞬間、オーケストラの演奏が止まった。
貴族たちが「何事だ!?」「隣国の最新ファッションか!?」「いや、暗殺者か!?」とパニックに陥る中、アニエスは堂々と中央まで進み、バイザーを上げた。
「皆様、ご機嫌よう! 本日、ヴァンドームの平和を物理的に守るために参上いたしました、アニエス・ド・ラ・メールですわ! さあ、私と踊ってくださる勇敢な戦士(パートナー)はいらっしゃいませんこと?」
アニエスの満面の笑顔と、照明を反射してキラキラと輝く白銀のボディ。
そのあまりの神々しさとシュールさに、会場全体が一周回って「……なんて前衛的な美しさなんだ」という謎の感動に包まれ始めた。
「……ギルベルト。……あいつ、やっぱり王妃(軍司令官)に向いているんじゃないか?」
セドリックが遠い目で呟くと、ギルベルトは深い溜息をつきながら、正装の手袋を嵌め直した。
「……負けていられないね。僕もあのアニエスという名の『嵐』に、全力でエスコートの戦いを挑むとしよう」
こうして、伝説の「アーマー舞踏会」が幕を開けた。
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