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1-1.転生冒険者は男娼王子を攫う
一話
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「ニコラウス。七つ星以上の冒険者に急務の指名依頼が入っている。セーファス国からだ」
そう言われたのはなんとなく立ち寄った冒険者ギルドでの事。懐かしくも近寄らないようにしていた母国の名前に俺のような七つ星冒険者に依頼するようなモンスターが現れた事を悟った。
「何が出た」
「アンデットキングだ。確認もとれている」
アンデットキング。それは名前の通り死者の王。数多の死者やモンスターの死骸を引き連れた災害級モンスターの一角だ。
アンデットモンスターは肉体の耐久性自体は脆いが痛みを感じず、すでに死んでいるので聖魔法で浄化するか火で消滅するまで燃やすしかない。
それ以外の方法だと殲滅が難しく、一国の騎士団や冒険者だけで討伐するのは困難と言えよう。むしろ、生半可な戦力で挑めば犠牲者を増やし、死者の軍勢を増やすことになりかねない。
それゆえ、災害級モンスター以上のモンスターを単騎やパーティーで倒せる六つ星以上の冒険者に頼むのが普通だった。
「だが、アンデットキングくらいなら俺じゃなくてもいいだろ?六つ星行かせろよ」
「行かせた。だが、向かわせた六つ星冒険者パーティーからは天災級に匹敵するだろうと言われている」
「天災級のアンデットキングね……そりゃあ、アンデットエンペラーとでも名付けた方がよさそうだ」
一流冒険者である六つ星すら怖気づかせてしまうのだから、俺に依頼を受けさせたいのはわかる。下手すりゃ国が滅びかねないほどの大災害だからな。
「死者の軍勢は?もう進攻してるのか?」
「いや、まだ軍勢を集めている状態のようだが……どうにもアンデットドラゴンやアンデットギガンテス何かもいるらしい」
「あー、それらがいるって事は発生したのは霊峰の麓か……」
ドラゴンは最弱でも災害級からなるモンスター。死してアンデットともなればワンランク下がるがそれでも脅威な事に間違いはない。
そして、ギガンテスは巨人系に属する亜人の一種類で、その身長は最低でも十メートル。普段は霊峰などで大地の魔力を喰らい、少数の部族で暮らしている種族なのだが、敵対すると厄介な奴らだ。モンスターではないが一人で災害級、複数人で天災級のモンスターと渡り合える。それがアンデットとなっているのだからまた厄介だ。
「俺以外の七つ星に依頼は?」
「あんた以外が捕まるわけないだろう。あんただって稀にしかギルドによらないからこっちだって必死なんだ」
ため息を吐く老齢のギルドマスターにまあ、そりゃあそうだろうなぁと思う。俺以外の七つ星なんて皆人間卒業済みの人外ばかりだ。長命種でもないのに不老不死の人間や生きながらにアンデットになった吸血鬼の始祖な元人間もいる。
それらが冒険者として登録されているのは死なないのもあるが、敵に回すよりはどこかの機関に所属させていて多少の動向を把握できるようにしたいという人間側の都合もある。
そんな人外魔境な七つ星冒険者の中にまだ人間の俺がいるのもいかがなものかと思うが、戦力的には人間卒業した天災そのものだと言われたので納得は言っていないが七つ星の称号自体は便利なので活用させてもらっている。その分依頼も多いけどな。
「なら、しょうがねぇなぁ……とりあえず国に行ってから考えるわ」
逃げるように母国から出奔して十五年。親兄弟はどうでもいいが、死んでほしくない人も一人だけいる。
共に国を盛り立ててほしいと願われたのに、何も言わずに出てきてしまった元婚約者の事だった。
俺は今でこそ育ちに育ち、二メートルを軽く越えた筋骨隆々とした筋肉ゴリラになっているが出奔当時の俺は、男ながらに小柄で艶やかな黒髪と大きな黒い瞳のぱっちりとした目。小さな鼻と薄紅色の唇と美少女中の美少女だった。
正直自分でも育ち過ぎて引いているレベルだが、冒険者として生きていくにはこれくらいのガタイがあった方が喧嘩も売られないし楽ではある。
どうせならほどほどの高身長な美丈夫で止まってくれと思ったが上手くいかないのが世の中だ。
そして、美少女時代の俺の婚約者は、母国の第一王子で金髪碧眼の王子様らしい王子様だった。さらりとした金髪に鋭く冷たさすら感じる碧い瞳。鼻は筋が通ったように形がよく、唇は薄めでよく不敵に笑っている人だったのを覚えている。
俺も相当な美少女だったが、婚約者も婚約者で相当な美少年だったのでこれが自分の事でなければ鑑賞用としては最高だったのにと思ったものだ。
俺としては、家から言われた事だから仕方なく従っていたのだが、婚約者はどういうわけか俺の事をいたく気に入り、特別に笑いかけてくれるような人だった。
そんな婚約者にこの人と共に国を支えるのも悪くはないと思ったが、王子妃教育より苛烈さを増していく実家での教育が俺の精神を蝕んでいった。
鞭で打たれ、雇われた家庭教師に罵られ、出来の悪さを父親から叱咤される。婚約者との時間が唯一の癒しであったが、容姿を整える為に飯を制限され、運動も禁止され、どんどんと拘束のきつくなっていく環境に俺の精神は一年で限界を迎える事となった。
おそらく、俺が異端でなければ早々に壊れて人形のようになっていただろう。だが、俺には記憶があった。
こことは異なる世界での記憶。そこそこの大人になるまで生きた記憶が。前世と言える人間がどうやって死んだかまでの記憶はない。だが、そのおかげで俺は壊れる前に逃げる事ができた。
婚約者に情はあったが、前世の記憶を持ちえた俺にとって恋愛対象は女性に限られており、婚約者は友人で弟のようにしか思えなかった。
俺が婚約者として選ばれたのは、生まれながらの魔力が多かった事。国の結界を維持するためには王家の直系の魔力が必要とされる。俺に求められたのは次代を産むための胎だった。
だが、国には俺には劣るものの魔力が多く、家格が俺の家より高い令嬢も多くいた。その令嬢たちからすれば俺は魔力だけで次期国王の婚約者の座を勝ち取っただけの存在で疎ましかったのだろう。
それなりに嫌味を言われたがそれだけだ。実家での教育が熾烈だったせいで可愛い女の子が吠えているなぁ……としか思わなかった。
まあ、出奔した際に王宮へ一通り言われた事を手紙へとしたためて、証拠の映像魔石と共に提出したけど。あと、実家の俺への行いも。
復讐にはいささか行儀が良いと思うが俺に嫌味を言った令嬢や両親が王家に重用される事はなくなるから十分だったと思っている。
俺が隣国へ出た後、母国が俺を探していると知ったが戻る気はさらさらなかった。
婚約者には俺以外の性格の良いお嬢さんが婚約者になればいいと思っていたし、せっかくのファンタジーな世界。どうせなら旅して生きたいと思うのはゲーマーの性だろう。
そんなこんなで十三歳で出奔して十五年。久しぶりに帰る母国はどうなっているのか……。
婚約者だったフレデリック様は元気にしているだろうか。数年前に母国の国王が代替わりしたというのは聞いたが、その時は遠くの国にいた為詳しくは知らない。
あの人は、王族らしい高慢さはあれど、民を思う気持ちは本物だったのでいい国王になっているだろう。
そんなほんの少しの期待を胸に、俺は母国へと向かうのだった。
そう言われたのはなんとなく立ち寄った冒険者ギルドでの事。懐かしくも近寄らないようにしていた母国の名前に俺のような七つ星冒険者に依頼するようなモンスターが現れた事を悟った。
「何が出た」
「アンデットキングだ。確認もとれている」
アンデットキング。それは名前の通り死者の王。数多の死者やモンスターの死骸を引き連れた災害級モンスターの一角だ。
アンデットモンスターは肉体の耐久性自体は脆いが痛みを感じず、すでに死んでいるので聖魔法で浄化するか火で消滅するまで燃やすしかない。
それ以外の方法だと殲滅が難しく、一国の騎士団や冒険者だけで討伐するのは困難と言えよう。むしろ、生半可な戦力で挑めば犠牲者を増やし、死者の軍勢を増やすことになりかねない。
それゆえ、災害級モンスター以上のモンスターを単騎やパーティーで倒せる六つ星以上の冒険者に頼むのが普通だった。
「だが、アンデットキングくらいなら俺じゃなくてもいいだろ?六つ星行かせろよ」
「行かせた。だが、向かわせた六つ星冒険者パーティーからは天災級に匹敵するだろうと言われている」
「天災級のアンデットキングね……そりゃあ、アンデットエンペラーとでも名付けた方がよさそうだ」
一流冒険者である六つ星すら怖気づかせてしまうのだから、俺に依頼を受けさせたいのはわかる。下手すりゃ国が滅びかねないほどの大災害だからな。
「死者の軍勢は?もう進攻してるのか?」
「いや、まだ軍勢を集めている状態のようだが……どうにもアンデットドラゴンやアンデットギガンテス何かもいるらしい」
「あー、それらがいるって事は発生したのは霊峰の麓か……」
ドラゴンは最弱でも災害級からなるモンスター。死してアンデットともなればワンランク下がるがそれでも脅威な事に間違いはない。
そして、ギガンテスは巨人系に属する亜人の一種類で、その身長は最低でも十メートル。普段は霊峰などで大地の魔力を喰らい、少数の部族で暮らしている種族なのだが、敵対すると厄介な奴らだ。モンスターではないが一人で災害級、複数人で天災級のモンスターと渡り合える。それがアンデットとなっているのだからまた厄介だ。
「俺以外の七つ星に依頼は?」
「あんた以外が捕まるわけないだろう。あんただって稀にしかギルドによらないからこっちだって必死なんだ」
ため息を吐く老齢のギルドマスターにまあ、そりゃあそうだろうなぁと思う。俺以外の七つ星なんて皆人間卒業済みの人外ばかりだ。長命種でもないのに不老不死の人間や生きながらにアンデットになった吸血鬼の始祖な元人間もいる。
それらが冒険者として登録されているのは死なないのもあるが、敵に回すよりはどこかの機関に所属させていて多少の動向を把握できるようにしたいという人間側の都合もある。
そんな人外魔境な七つ星冒険者の中にまだ人間の俺がいるのもいかがなものかと思うが、戦力的には人間卒業した天災そのものだと言われたので納得は言っていないが七つ星の称号自体は便利なので活用させてもらっている。その分依頼も多いけどな。
「なら、しょうがねぇなぁ……とりあえず国に行ってから考えるわ」
逃げるように母国から出奔して十五年。親兄弟はどうでもいいが、死んでほしくない人も一人だけいる。
共に国を盛り立ててほしいと願われたのに、何も言わずに出てきてしまった元婚約者の事だった。
俺は今でこそ育ちに育ち、二メートルを軽く越えた筋骨隆々とした筋肉ゴリラになっているが出奔当時の俺は、男ながらに小柄で艶やかな黒髪と大きな黒い瞳のぱっちりとした目。小さな鼻と薄紅色の唇と美少女中の美少女だった。
正直自分でも育ち過ぎて引いているレベルだが、冒険者として生きていくにはこれくらいのガタイがあった方が喧嘩も売られないし楽ではある。
どうせならほどほどの高身長な美丈夫で止まってくれと思ったが上手くいかないのが世の中だ。
そして、美少女時代の俺の婚約者は、母国の第一王子で金髪碧眼の王子様らしい王子様だった。さらりとした金髪に鋭く冷たさすら感じる碧い瞳。鼻は筋が通ったように形がよく、唇は薄めでよく不敵に笑っている人だったのを覚えている。
俺も相当な美少女だったが、婚約者も婚約者で相当な美少年だったのでこれが自分の事でなければ鑑賞用としては最高だったのにと思ったものだ。
俺としては、家から言われた事だから仕方なく従っていたのだが、婚約者はどういうわけか俺の事をいたく気に入り、特別に笑いかけてくれるような人だった。
そんな婚約者にこの人と共に国を支えるのも悪くはないと思ったが、王子妃教育より苛烈さを増していく実家での教育が俺の精神を蝕んでいった。
鞭で打たれ、雇われた家庭教師に罵られ、出来の悪さを父親から叱咤される。婚約者との時間が唯一の癒しであったが、容姿を整える為に飯を制限され、運動も禁止され、どんどんと拘束のきつくなっていく環境に俺の精神は一年で限界を迎える事となった。
おそらく、俺が異端でなければ早々に壊れて人形のようになっていただろう。だが、俺には記憶があった。
こことは異なる世界での記憶。そこそこの大人になるまで生きた記憶が。前世と言える人間がどうやって死んだかまでの記憶はない。だが、そのおかげで俺は壊れる前に逃げる事ができた。
婚約者に情はあったが、前世の記憶を持ちえた俺にとって恋愛対象は女性に限られており、婚約者は友人で弟のようにしか思えなかった。
俺が婚約者として選ばれたのは、生まれながらの魔力が多かった事。国の結界を維持するためには王家の直系の魔力が必要とされる。俺に求められたのは次代を産むための胎だった。
だが、国には俺には劣るものの魔力が多く、家格が俺の家より高い令嬢も多くいた。その令嬢たちからすれば俺は魔力だけで次期国王の婚約者の座を勝ち取っただけの存在で疎ましかったのだろう。
それなりに嫌味を言われたがそれだけだ。実家での教育が熾烈だったせいで可愛い女の子が吠えているなぁ……としか思わなかった。
まあ、出奔した際に王宮へ一通り言われた事を手紙へとしたためて、証拠の映像魔石と共に提出したけど。あと、実家の俺への行いも。
復讐にはいささか行儀が良いと思うが俺に嫌味を言った令嬢や両親が王家に重用される事はなくなるから十分だったと思っている。
俺が隣国へ出た後、母国が俺を探していると知ったが戻る気はさらさらなかった。
婚約者には俺以外の性格の良いお嬢さんが婚約者になればいいと思っていたし、せっかくのファンタジーな世界。どうせなら旅して生きたいと思うのはゲーマーの性だろう。
そんなこんなで十三歳で出奔して十五年。久しぶりに帰る母国はどうなっているのか……。
婚約者だったフレデリック様は元気にしているだろうか。数年前に母国の国王が代替わりしたというのは聞いたが、その時は遠くの国にいた為詳しくは知らない。
あの人は、王族らしい高慢さはあれど、民を思う気持ちは本物だったのでいい国王になっているだろう。
そんなほんの少しの期待を胸に、俺は母国へと向かうのだった。
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