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1-3.男娼王子の療養と王国のこれから
三十話
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「あ゛ぁ゛……」
断末魔を上げ終え、既に命の灯が消えているであろう女が呻く。
悔い破られた喉。血に染まったドレス。ところどころ欠けた肉。あっという間に自分を襲ったアンデッドと同じモノへと堕ちた女にそれ以上の興味が湧く事もない。
愚かな第二王子もすでに女と同じ有様となり、亡者の群れに混じっている。そして、それらの興味は……この場で唯一の生者である俺へと向けられていた。
俺の隣にいるフィラム王妃殿下が俺への興味を示していなかった為、今までは安全であったが、今ここで周りを囲むアンデッドへと指示を出せば、奴らは間違いなく俺を襲う事だろう。
まあ、ただ襲われるつもりもないが。
視線を隣にいるフィラム王妃殿下へと向ければ、光のない目が俺を見上げている。どうやら、ようやく認識してくれたようだった。
「どうも、フィラム王妃殿下」
改めて挨拶してみるも反応はない。まあ、亡者であるアンデッドと生者である俺とでは言語も違うのかもしれない。
しばらく視線を交わらせていると、周りの亡者共が騒がしくなる。フィラム王妃殿下の復讐を終えたからだろうか、どうも統率が乱れてきているようだ。
「あー、うるせぇな」
じわじわと俺へと距離を詰めてくるアンデッドを一睨みして、パチンと指を鳴らす。
込めた魔力は、聖属性。この町全てを浄化できるほどに練り上げたそれが音と共に広がり、蠢いていた死者達を灰へと返していく。
「……さすがに貴方は堪えるか」
復讐を終えたと言えど、アンデットキングであるフィラム王妃殿下は変わらず俺の側で佇んでいる。
腐り果てた亡者も新たにこさえられたぴちぴちの亡者も全てが灰へと変わった玉座の間で、死者の王と二人佇む。
さて、邪魔は入らなくなったがどうしたものか。
敵意は見られないとは言え、災害級……天災級とまで判断された存在。倒すべきなのはわかっているが、フレデリック様のご母堂であるから複雑な心境である。
せっかくだからフレデリック様に会わせてみる?いや、自身の母親がアンデッドになっているのを見るのは複雑だろうし、フィラム王妃殿下としてもアンデッドとなった自分がフレデリック様の前に現れるのは望んでいないと思う。
となると、やはりここで消滅させるのが最良なのだが……。
などと、自分の中で踏ん切りがつかないままでいると、俺を見上げていたフィラム王妃殿下が自身の頭に乗るティアラへと手を伸ばす。
繊細な細工を施されたティアラがその頭から降ろされ、フィラム王妃殿下は両手でティアラを持ち直すと俺へと差し出す様にティアラを掲げた。
……これは、受け取れと?いや、だが……。
俺へと差し出されるように掲げられたティアラの正面は俺ではなく、フィラム王妃殿下の方を向いている。そう、戴冠式で新たな王に王冠を被せる時のように。
その事を察した俺は、フィラム王妃殿下へと向き合うように跪く。
正直、敵意が無くともアンデッドの眼下に首筋を晒す事など正気の沙汰ではない。だが、今はそうしたいと思ったのだ。
下げたままの視界の端で、フィラム王妃殿下のティアラを持った手の影が俺の頭の影へと重なる。
頭に感じる僅かな重み。そして、フィラム王妃殿下の手が離れていったのを見て視線を上げた。
そこには、今まで人形のように無表情だった顔を緩めて笑みを浮かべるフィラム王妃殿下の姿があった。
この国では、王妃のティアラは個別に用意され、その者しか身に着ける事は許されない。
だが、フィラム王妃殿下の故国では、王冠が王から王へと受け継がれるように、王妃から王妃へも同じティアラが受け継がれる。
今ここで、託されたと言う事は……俺がフィラム王妃殿下からフレデリック様の伴侶として認められたのだろう。
生前あった事のない、死して初めて対面した義母となるはずだったフィラム王妃殿下が何を知って、何を感じて俺にこれを託したかまではわからない。だが……。
「……あの方と、フレデリック様と命が分かつ時まで……いえ、分かたれようとも共にいる事を貴方に誓います」
一度は離れてしまったあの方を、もう二度と一人にしないという誓いをたてる。俺の事を認めてくれたフィラム王妃殿下に誓えるのはこれぐらいしかないのだから。
俺の誓いを聞き届けたフィラム王妃殿下はもう一度微笑み、その体が崩れていく。復讐を終え、最後の未練も俺へと託せたからだろう。
体の全てが灰となり、王宮の床にいくつかの装飾品が落ちる。それらを拾い上げ、灰も収納魔法から取り出した瓶へと詰めた。
復讐を果たしたとはいえ、この国の奴らと同じ場所に眠らせるのは可哀想だからな。
いつかフレデリック様が外出できるようになったら二人でフィラム王妃殿下の故国と撒きに行くのもいいし……今後フレデリック様が定住したい国があれば、そこに埋葬してもいい。
そんな事を考えながら、頭に乗ったティアラを外す。
これは、どうすべきか……俺が託されたものでもあるが、他の装飾品と共に形見でもあるんだよな……。とりあえずは、フレデリック様に尋ねてから考えるか。
ひとまず保留と結論付けて、ティアラも形見も灰も収納魔法へと放り込んでおく。
さーて、少しセンチメンタルな気持ちになったけど、王都外の残党殲滅してくるとしようか。
さっさと終わらせて、フレデリック様の所に帰らなければならないんでね。
断末魔を上げ終え、既に命の灯が消えているであろう女が呻く。
悔い破られた喉。血に染まったドレス。ところどころ欠けた肉。あっという間に自分を襲ったアンデッドと同じモノへと堕ちた女にそれ以上の興味が湧く事もない。
愚かな第二王子もすでに女と同じ有様となり、亡者の群れに混じっている。そして、それらの興味は……この場で唯一の生者である俺へと向けられていた。
俺の隣にいるフィラム王妃殿下が俺への興味を示していなかった為、今までは安全であったが、今ここで周りを囲むアンデッドへと指示を出せば、奴らは間違いなく俺を襲う事だろう。
まあ、ただ襲われるつもりもないが。
視線を隣にいるフィラム王妃殿下へと向ければ、光のない目が俺を見上げている。どうやら、ようやく認識してくれたようだった。
「どうも、フィラム王妃殿下」
改めて挨拶してみるも反応はない。まあ、亡者であるアンデッドと生者である俺とでは言語も違うのかもしれない。
しばらく視線を交わらせていると、周りの亡者共が騒がしくなる。フィラム王妃殿下の復讐を終えたからだろうか、どうも統率が乱れてきているようだ。
「あー、うるせぇな」
じわじわと俺へと距離を詰めてくるアンデッドを一睨みして、パチンと指を鳴らす。
込めた魔力は、聖属性。この町全てを浄化できるほどに練り上げたそれが音と共に広がり、蠢いていた死者達を灰へと返していく。
「……さすがに貴方は堪えるか」
復讐を終えたと言えど、アンデットキングであるフィラム王妃殿下は変わらず俺の側で佇んでいる。
腐り果てた亡者も新たにこさえられたぴちぴちの亡者も全てが灰へと変わった玉座の間で、死者の王と二人佇む。
さて、邪魔は入らなくなったがどうしたものか。
敵意は見られないとは言え、災害級……天災級とまで判断された存在。倒すべきなのはわかっているが、フレデリック様のご母堂であるから複雑な心境である。
せっかくだからフレデリック様に会わせてみる?いや、自身の母親がアンデッドになっているのを見るのは複雑だろうし、フィラム王妃殿下としてもアンデッドとなった自分がフレデリック様の前に現れるのは望んでいないと思う。
となると、やはりここで消滅させるのが最良なのだが……。
などと、自分の中で踏ん切りがつかないままでいると、俺を見上げていたフィラム王妃殿下が自身の頭に乗るティアラへと手を伸ばす。
繊細な細工を施されたティアラがその頭から降ろされ、フィラム王妃殿下は両手でティアラを持ち直すと俺へと差し出す様にティアラを掲げた。
……これは、受け取れと?いや、だが……。
俺へと差し出されるように掲げられたティアラの正面は俺ではなく、フィラム王妃殿下の方を向いている。そう、戴冠式で新たな王に王冠を被せる時のように。
その事を察した俺は、フィラム王妃殿下へと向き合うように跪く。
正直、敵意が無くともアンデッドの眼下に首筋を晒す事など正気の沙汰ではない。だが、今はそうしたいと思ったのだ。
下げたままの視界の端で、フィラム王妃殿下のティアラを持った手の影が俺の頭の影へと重なる。
頭に感じる僅かな重み。そして、フィラム王妃殿下の手が離れていったのを見て視線を上げた。
そこには、今まで人形のように無表情だった顔を緩めて笑みを浮かべるフィラム王妃殿下の姿があった。
この国では、王妃のティアラは個別に用意され、その者しか身に着ける事は許されない。
だが、フィラム王妃殿下の故国では、王冠が王から王へと受け継がれるように、王妃から王妃へも同じティアラが受け継がれる。
今ここで、託されたと言う事は……俺がフィラム王妃殿下からフレデリック様の伴侶として認められたのだろう。
生前あった事のない、死して初めて対面した義母となるはずだったフィラム王妃殿下が何を知って、何を感じて俺にこれを託したかまではわからない。だが……。
「……あの方と、フレデリック様と命が分かつ時まで……いえ、分かたれようとも共にいる事を貴方に誓います」
一度は離れてしまったあの方を、もう二度と一人にしないという誓いをたてる。俺の事を認めてくれたフィラム王妃殿下に誓えるのはこれぐらいしかないのだから。
俺の誓いを聞き届けたフィラム王妃殿下はもう一度微笑み、その体が崩れていく。復讐を終え、最後の未練も俺へと託せたからだろう。
体の全てが灰となり、王宮の床にいくつかの装飾品が落ちる。それらを拾い上げ、灰も収納魔法から取り出した瓶へと詰めた。
復讐を果たしたとはいえ、この国の奴らと同じ場所に眠らせるのは可哀想だからな。
いつかフレデリック様が外出できるようになったら二人でフィラム王妃殿下の故国と撒きに行くのもいいし……今後フレデリック様が定住したい国があれば、そこに埋葬してもいい。
そんな事を考えながら、頭に乗ったティアラを外す。
これは、どうすべきか……俺が託されたものでもあるが、他の装飾品と共に形見でもあるんだよな……。とりあえずは、フレデリック様に尋ねてから考えるか。
ひとまず保留と結論付けて、ティアラも形見も灰も収納魔法へと放り込んでおく。
さーて、少しセンチメンタルな気持ちになったけど、王都外の残党殲滅してくるとしようか。
さっさと終わらせて、フレデリック様の所に帰らなければならないんでね。
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