転生冒険者と男娼王子

海野璃音

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2-1.転生冒険者と男娼王子の新しい日常

四十六話

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 真っ暗な部屋の中。のそりと体を起こし窓の外を見る。

 カーテンの開いたままの窓から見えるのは、星の煌めく夜空。

 ……なんたる、なんたる自堕落な生活!

 昼前にフレデリック様を抱き、遅い昼食を食べ、昼寝というには長い惰眠を貪ったという事実に顔をしかめる。

 フレデリック様には、のびのびと過ごしていただきたいが、その為には俺の働きが不可欠だというのにのんびりと寝てしまった……。

 ベッドサイドの明かりを点け、側にある時計に視線を向ければ、すでに夜八時を過ぎている。どうやら、四時間以上寝ていたらしい。

 ここまで寝るつもりはなかったのに……!

 弛んでると思いながら、夕食をどうするか悩む。

 今から作ってもいいが、普段の夕食と同じものを作るには遅すぎるし、おそらく寝起きのフレデリック様の胃には重い。

 軽く食べられるスープかリゾットあたりを作っておくべきか……。

 などと頭を悩ませていたら、隣で眠っていたフレデリック様が身動ぐ。

「っ……ん?……んー?」

 目を閉じたまま、俺の寝ていた場所を手で探りながらフレデリック様が俺を呼ぶ。

「ここに居ますよ」
「……ん」

 俺の温もりを探るように動かしていた手に手を重ねれば、フレデリック様は安心したように頬を緩める。

 ……これは、ここから離れられないな。

 起こすのもはばかられる仕草に口元が緩むのを感じながらフレデリック様の手に指を絡める。

 この調子では、しばらく目を覚ましそうにない。

 ……なんだかんだ体力が増えてきたといえど、まだまだか弱い方だ。

 控えたとはいえ、昼前から抱いてしまったから疲れきっているのだろう。

 抱いた後に寝込む事はなくなっただけ、マシなのだか。

 穏やかに眠るフレデリック様と指を絡めたまま、その寝顔を眺める。

 過ごす時間が長くなっていくほどに、フレデリック様の寝顔は柔らかなものになっていると思う。

 この方の心安らげる場所になりたいと思っているからこうやって無防備に寝てもらえると嬉しかった。

 手を重ねたまま、体をずらし、枕が代わりに使っているクッションに背中を預ける。

 そして、収納魔法の中からワインとパン、ツマミになる燻製肉を取り出して、サイドテーブルに置いた。

 いささか行儀は悪いがたまには、こんな晩酌もいいだろう。

 クッションに身を預けながら、パンをかじり、ボトルにはいったままのワインで流し込む。

 ツマミとしての燻製肉はあるが、フレデリック様の寝顔を酒の肴にしながら一杯やると言うのは、なかなかに乙なものだ。

 パンをかじり、燻製肉をつまみ、ワインを飲みながら、フレデリック様を眺める。

 弛んでる。自堕落だな。と、思いながらもたまには贅沢な時間の使い方をしても良いだろうと自分を甘やかした。

 そんな晩酌を二時間ほど、続けているとフレデリック様が身動いだ後、ゆるゆると目蓋を開く。

 今度こそ起きたらしい。

「……にこら」

 しばらくぼんやりとしていたフレデリック様が俺へと視線を向け、起きたばかりの声で俺を呼ぶ。

「はい、こちらに」
「……よる、か?」

 返事をすれば、薄暗い部屋に日が暮れた事を確認するかのように尋ねられた。

「ええ、すでに夜の十時を過ぎております」
「そうか……お前、夕食は……?」
「こちらで晩酌しながら食べてました」

 体を起こしたフレデリック様にサイドテーブルを指差す。

 パンと燻製肉。そして、二本ほど空いたワインボトルと三本目のワインボトルが並んだサイドテーブルにフレデリック様が険しい顔をする。

「……簡単に済ませるにしてもほどがあるだろう」
「たまには良いかと思いまして」

 怒るフレデリック様に曖昧に笑う。

 俺としては、贅沢な食事だったと思うのだが、フレデリック様的にはダメだったらしい。

「まったく……冒険者は体が資本なのだろう?食べるものは、しっかりと食べないか」

 呆れの混じる言葉だったが俺の体を心配しての事だったらしい。

 まあ、フレデリック様の寝顔を肴に晩酌する事は増えるだろうが……。

 なんというか……本当に贅沢で至福な時間だったんだよ。

「以後、気をつけます」
「そうしてくれ」

 フレデリック様に正直に話すと怒られそうなので、返事だけは、素直に頷いておく。

 今後は、バレないようにひっそりとやろう。

「だが、私も小腹が空いたな」
「簡単に何か作りましょうか?」

 俺の問いにフレデリック様が首を横に振った。

「いや……私もお前と同じようなもので良い」
「いやいやいやいや!フレデリック様にこんな簡単なの食べさせられませんよ!?」

 フレデリック様の言葉を全力で否定する。

 今食べてるのは、非常食というか、携帯食だ。

 味自体は拘っているがワインも安物だし、パンも燻製肉も保存期間重視のものばかり。

 そんなもの食べさせるわけにはいかなかった。

「たまには良いんだろう?」

 俺を見上げたフレデリック様が不敵に笑みを浮かべる。

「あの、えっと……それは、俺だからであってですね……」
「ニコラ」

 フレデリック様が笑みを深める。

 ……勝てるわけがない。勝てるわけがなかった。

「ふむ、保存食という割には美味いな」
「お気に召したのなら幸いです……」

 俺に寄りかかりながら、固めのパンと燻製肉をかじり、ワインをボトルで飲むフレデリック様に今後は本当に気をつけようと反省した。

「ニコラ」
「……なんですか?」

 小腹を満たしたフレデリック様が楽しげに笑みを浮かべる。

「たまには良いな。こうやって過ごすのも」
「……そうですね」

 子供のように笑うフレデリック様に、ご満足いただけたのならまあいいか。と、思いながらちょっと自堕落で贅沢な時間を深夜まで過ごし、フレデリック様との何気ない一日を終えるのだった。
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