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2-1.転生冒険者と男娼王子の新しい日常
四十五話
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遅めの昼食となったが、フレデリック様は俺の作った食事を旨そうに食べてくれた。
基本的にはポーカーフェイスだが、好みのものを食べると口の端が僅かに上がるのが作り手としては嬉しい。
「どうでしたか?」
「旨かったぞ」
欲深いと思いながらも尋ねればフレデリック様は口元を緩めるように笑みを浮かべる。
その様子に内心ガッツポーズを作りながら、俺も残りの食事を終わらせた。
食べ終わった後は、軽く食器を片付けてからフレデリック様を自室へと運ぶ。
片付けを終えた頃には、体の疲れと満腹感からうつらうつらとしていたフレデリック様だったが、自室にたどり着いた頃には穏やかに寝息を立てていた。
できれば、食後は寝るのを控えてほしかったのだが……疲れさせたのは俺の為、反省することしかできない。
後悔していないあたり、俺自身も楽しんでしまった自覚はあった。
「ん……」
フレデリック様をクッションを積んだベッドに座らせる様に寝かせて、その頬に触れる。
肉付きの良くなった頬は健康的だ。
痩せていた頃は、人形のような美しさと神々しさを合わせたようなお姿だったが、その細さゆえに心配の方が先立っていた。
今もまだ華奢だとは思うが、それでも十分に成人男性の体型と言えるだろう。
アルフレッドからも運動させて良いと言われたし、もう少し筋肉がついたらフレデリック様の神々しい美しさがより引き立てられるはずだ。
その姿を誰にも見せたくないという考えも過るが……。
ただでさえ美しいのだ。それを他の人間に見せたら絶対に虜になるだろう。
華奢な姿で踊り子の様な格好をさせられてなお数多の男を虜してきた……いや、させられてきたのだ。
ここに健康的な男らしさを加えてみろ老若男女百人中二百人が虜になったっておかしくない。
ずっとずっと囲っていたい……冒険者の仕事も何もかも放棄して囲いたい。
だが、それではあまりにも健全ではない……。
あの王宮の奴らと変わらないような事をしたくはないのだ。
フレデリック様が囲われる事を望むのならやぶさかではないが……。
頬を撫でていた手を滑らせて、フレデリック様の金糸の様な髪を一房手に取った。
手入れだけは未だに続けているから美しさは保っている。
幼い頃、フレデリック様の髪はこんなにも長いものではなかった。
これもフレデリック様からしたら重い枷のようなものなのだろか……。
艶やかな髪に指を絡めながら梳く。
美しい長い髪。
だが、俺の知らないフレデリック様の年月がこの髪に刻まれている。
そう思うと忌々しくもあった。
「っ……にこら……?」
「っ!?起こしてすみません!痛かったですか!?」
指先にほんの少し力が入り、そのせいで僅かにフレデリック様の髪を引っ張ってしまったらしい。
僅かに顔をしかめ、起きたフレデリック様に謝るがフレデリック様は、俺を招くように手を揺らした。
「……こい」
「あの……フレデリック様?」
「座ってないで……一緒に寝ろ」
まだ夢うつつなフレデリック様だったが、その言葉には俺の逆らうことのできない力が込められている。
「はい」
声に導かれるようにベッドに入り、クッションへともたれ掛かればフレデリック様が俺の腕の中に潜り込んできた。
「どうした……お前にしては、顔が強ばっていたぞ」
俺の腕に収まり、目を瞑りながらもフレデリック様が尋ねてくる。
「いえ、その……髪が……」
「髪?」
「今のフレデリック様の髪には俺の知らないフレデリック様の記録が刻まれているのだと思うと……己の無力さと言うか……御身に触れた男共への怒りと言うか……」
「……くだらん」
フレデリック様の髪から感じる悔いを言葉にすれば、一刀両断された。
「そんな事を思うなら切るか?」
「う……その、俺の意見で御髪を切るのは……」
「なら、考えるだけ無駄だろう。それにお前は長い方が好きだろうに」
フレデリック様から出た切るという言葉に良い澱んでいるとフレデリック様が呆れたように呟く。
「そ、そういうことは……」
「湯上がりの時、いつも楽しそうにしている」
「え……本当ですか?」
フレデリック様の世話が出きること自体が嬉しいので、そう言われても自覚がなかった。
「嘘は言わん」
それはわかっている。だからこそ、少し気恥ずかしくもある。
「フレデリック様は、長い髪は面倒ではありませんか?」
「特には。お前は、抱く時に髪を掴んだりしないしな」
「そんな事されたんですか?」
日常を語るように呟かれた言葉に怒りが沸き上がった。
誰だ。こんな美しい髪をぞんざいにあつかった輩は。
「怒るな。どうせ死んでいる。先の騒動でな」
「と言うことは、母国の人間だと……」
誰かは知らんが、アンデッドに喰われるだけで死ねただけ良かったと思え……。と呪詛を心の中で唱えてたら、頬をフレデリック様に摘まれた。
「……眠い。寝ろ」
不満そうな顔が腕の中から俺を見上げてくる。
「……はい」
俺はそこまで眠くないのだが……フレデリック様に逆らうわけもない。
なによりも大切なフレデリック様を抱き締めて、ひとまず瞼を閉じるのだった。
基本的にはポーカーフェイスだが、好みのものを食べると口の端が僅かに上がるのが作り手としては嬉しい。
「どうでしたか?」
「旨かったぞ」
欲深いと思いながらも尋ねればフレデリック様は口元を緩めるように笑みを浮かべる。
その様子に内心ガッツポーズを作りながら、俺も残りの食事を終わらせた。
食べ終わった後は、軽く食器を片付けてからフレデリック様を自室へと運ぶ。
片付けを終えた頃には、体の疲れと満腹感からうつらうつらとしていたフレデリック様だったが、自室にたどり着いた頃には穏やかに寝息を立てていた。
できれば、食後は寝るのを控えてほしかったのだが……疲れさせたのは俺の為、反省することしかできない。
後悔していないあたり、俺自身も楽しんでしまった自覚はあった。
「ん……」
フレデリック様をクッションを積んだベッドに座らせる様に寝かせて、その頬に触れる。
肉付きの良くなった頬は健康的だ。
痩せていた頃は、人形のような美しさと神々しさを合わせたようなお姿だったが、その細さゆえに心配の方が先立っていた。
今もまだ華奢だとは思うが、それでも十分に成人男性の体型と言えるだろう。
アルフレッドからも運動させて良いと言われたし、もう少し筋肉がついたらフレデリック様の神々しい美しさがより引き立てられるはずだ。
その姿を誰にも見せたくないという考えも過るが……。
ただでさえ美しいのだ。それを他の人間に見せたら絶対に虜になるだろう。
華奢な姿で踊り子の様な格好をさせられてなお数多の男を虜してきた……いや、させられてきたのだ。
ここに健康的な男らしさを加えてみろ老若男女百人中二百人が虜になったっておかしくない。
ずっとずっと囲っていたい……冒険者の仕事も何もかも放棄して囲いたい。
だが、それではあまりにも健全ではない……。
あの王宮の奴らと変わらないような事をしたくはないのだ。
フレデリック様が囲われる事を望むのならやぶさかではないが……。
頬を撫でていた手を滑らせて、フレデリック様の金糸の様な髪を一房手に取った。
手入れだけは未だに続けているから美しさは保っている。
幼い頃、フレデリック様の髪はこんなにも長いものではなかった。
これもフレデリック様からしたら重い枷のようなものなのだろか……。
艶やかな髪に指を絡めながら梳く。
美しい長い髪。
だが、俺の知らないフレデリック様の年月がこの髪に刻まれている。
そう思うと忌々しくもあった。
「っ……にこら……?」
「っ!?起こしてすみません!痛かったですか!?」
指先にほんの少し力が入り、そのせいで僅かにフレデリック様の髪を引っ張ってしまったらしい。
僅かに顔をしかめ、起きたフレデリック様に謝るがフレデリック様は、俺を招くように手を揺らした。
「……こい」
「あの……フレデリック様?」
「座ってないで……一緒に寝ろ」
まだ夢うつつなフレデリック様だったが、その言葉には俺の逆らうことのできない力が込められている。
「はい」
声に導かれるようにベッドに入り、クッションへともたれ掛かればフレデリック様が俺の腕の中に潜り込んできた。
「どうした……お前にしては、顔が強ばっていたぞ」
俺の腕に収まり、目を瞑りながらもフレデリック様が尋ねてくる。
「いえ、その……髪が……」
「髪?」
「今のフレデリック様の髪には俺の知らないフレデリック様の記録が刻まれているのだと思うと……己の無力さと言うか……御身に触れた男共への怒りと言うか……」
「……くだらん」
フレデリック様の髪から感じる悔いを言葉にすれば、一刀両断された。
「そんな事を思うなら切るか?」
「う……その、俺の意見で御髪を切るのは……」
「なら、考えるだけ無駄だろう。それにお前は長い方が好きだろうに」
フレデリック様から出た切るという言葉に良い澱んでいるとフレデリック様が呆れたように呟く。
「そ、そういうことは……」
「湯上がりの時、いつも楽しそうにしている」
「え……本当ですか?」
フレデリック様の世話が出きること自体が嬉しいので、そう言われても自覚がなかった。
「嘘は言わん」
それはわかっている。だからこそ、少し気恥ずかしくもある。
「フレデリック様は、長い髪は面倒ではありませんか?」
「特には。お前は、抱く時に髪を掴んだりしないしな」
「そんな事されたんですか?」
日常を語るように呟かれた言葉に怒りが沸き上がった。
誰だ。こんな美しい髪をぞんざいにあつかった輩は。
「怒るな。どうせ死んでいる。先の騒動でな」
「と言うことは、母国の人間だと……」
誰かは知らんが、アンデッドに喰われるだけで死ねただけ良かったと思え……。と呪詛を心の中で唱えてたら、頬をフレデリック様に摘まれた。
「……眠い。寝ろ」
不満そうな顔が腕の中から俺を見上げてくる。
「……はい」
俺はそこまで眠くないのだが……フレデリック様に逆らうわけもない。
なによりも大切なフレデリック様を抱き締めて、ひとまず瞼を閉じるのだった。
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