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三章:寝不足

30:助けてくれる神様の名前 ★

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 前立腺を押しつぶされた瞬間……渉の絶叫が辺りへと響く。

「っあああああ⁉」

 与えられたのは、渉にとって未知の快楽。それは渉の背筋を伝い、脳を焼けつくような快楽だった。

「やだ、いやっ!あぁあっ!あっ!あぁあああっ⁉」

 ぐにぐにと、押し潰すような指の動きに渉は悲鳴じみた嬌声を上げ、逃げようと身を捩る。だが、その抵抗も虚しく、雄芯からこぼれた白濁が渉の顔を汚すだけだった。

「あぁあっ、ああっ!いやぁあああっ!」

 望まぬ快楽が絶えず湧き上がり、受け入れがたいその快楽に渉は涙を流しながら拒絶する。しかし、体は余すことなく快楽を受け入れ、その頂へと押し上げていった。

「あぁあ……ぁ……」

 繰り返される容赦のない快楽に、子供のように泣きじゃくっていた渉だが、徐々にその顔から表情が抜け落ちていく。 

「ぁ……」

 壊れたおもちゃのように、ビクリ……ビクリ……と体を震わせるだけになった渉は、ぼんやりと虚空を見つめる。

 だが、やがて果てのない快楽を受け入れたかのような甘い嬌声が漏れ始めた。

「……あっ!ぁあっ!んぁあっ!」

 快楽に媚びた声が響き、渉の体がしなやかに踊る。

(なんで、なんでこんな事になってるんだっけ……)

 幸か不幸か。快楽に浸る自分の体と切り離された思考で渉は考える。

(えっと……寝不足で、原因が家だって……誰が?)

 まるで頭に靄《もや》がかかったように霞む思考。誰かと一緒にいたはずなのに思い出せない事に渉は首を傾げた。

 だが、その誰かの言葉を少しだけ思い出す事ができたおかげで、今の状況が理解できた。

 寝不足の原因だと思われる無数の手に嬲られる体。与えられる快楽。

「やぁっ!あっ!あああっ!」

 自分のものではないように思える体が、嬌声を上げる姿を他人事のように感じながら、渉は諦めたように笑う。

(ははっ……寝る度に、こうやって犯されてたなら、寝不足になるのもそりゃそうだ……)

 自嘲し、自分自身を軽蔑した時……。

「あっ、ああっ!ちくび、きもちいっ!」

 白い手が胸の二つの突起を嬲り、その快楽を喜ぶように渉の体が卑猥な言葉を発した。

(やめろ、そんなこと言うんじゃないっ!)

 諦めかけていた渉だったが、あまりの自分との剥離に苛立つように心の中で叫ぶ。

(諦めたら、だめだ……諦めたら……そう言ったのは、誰だっけ?)

 抵抗するように霞《かすみ》がかった記憶をが繰り寄せようと渉は思考を巡らせる。

(だれ?誰?)

 心の中で、最も信頼し、助けてくれて来た面影が浮かぶ。だが、その姿は思い出せれど、名前が出てこない。

(そうだ、いつも助けてくれた人がいた。助けを呼べと言ってくれた人がいた)

 助けを求めれば、応えてくれる。そんな確信があるのに、言葉が出ない。

(思い出せ、思い出せ、思い出せ……!)

 輝く金髪。赤い瞳。古めかしくも明るく落ち着いた声。そして、その頭についた狐耳を思わせる狐のような笑み……だけど、渉にとって安心できる笑み。

(っ!)

 そこで、渉の頭の中を覆っていた靄《もや》が晴れる。

「穂!助けてっ!」

 離れていた心と体が重なり、白い手の影響を酷く受けていた体の主導権を取り返した渉が穂の名を叫んだ。

「穂!穂!っ、うぐっ……!」

 名を呼べば応えてくれると核心を持って何度も呼び続けていた渉の抵抗を咎めるように白い手は、渉の口に指をねじ込む。

(穂、たすけて!)

 それでも、渉は諦めることなく穂を呼び続けた。
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