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九話
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王国との和平は結ばれ、冬が来た。
捕らえていた王国軍の捕虜は、王国から派遣された兵として砦に残り、私の部隊と共に砦を守る任務についている。最初は遺恨も残っていたゆえに衝突しない方が難しい状況だったが、時間が経つにつれて状況は改善していた。それも、大使として派遣されたフェルディナンドがその職務を全うしているからだろう。
「説得は無理でした」そう困ったように笑って、調印された文書を持って帰ってきたフェルディナンドは、親善大使として、王国との交渉や物資補給の管理を任せている。Ωとして迫れば私の逆鱗に触れると察しているのか私に迫ることもない。部下として扱うのであれば優秀な人材である。
帝国軍の捕虜はと言うと、Ωになってしまった者以外は冬が来る前に解放した。Ωになった者は未だ恐慌状態になる事も多く、王国軍のΩ達に世話を任せている。一部は世話をしていた私の部下のαに懐いた?者もいる為、懐かれた者には気にかけるように言っている。懐かれた者もまんざらでは無さそうなので、囲われるΩもいることであろう。
エミリオに捧げた氷の薔薇は、腕からこぼれ始めたがエミリオはまだ目を覚まさない。
冬が終わり、春が来た。
雪が溶け切った頃に帝国がまた攻めてきたが、特に問題なく撃退した。今回もΩに目覚めた者がいたのでその者達は引き取り、残りは歩ける程度に治療してから解放する。Ω達はやはりと言うか恐慌状態に陥っているが、王国兵のΩ達もいるゆえ、前回よりは比較的早く落ち着いた。
前回の変異者の中には兵としてではないが砦内の雑務を出来るようになった者もいる。今回の者達も季節が一つ変わる頃には、Ωとしての体質にも慣れ、砦内で生活が出来るようになるだろう。
砦内の雰囲気は、冬の頃より格段に良くなった。時折物資の補給を運んでくる部隊との関係も良好になりつつある。
エミリオに捧げた薔薇は百を軽く超えた。寝台を埋め尽くすまでに目覚めるだろうか……。
夏が来た。
王国から近くの町までなら、帝国出身の兵でも外出させてもいい許可が出た。部下達の息抜きになるであろうと、休日であれば外出しても良い許可を出す。王国兵のΩに手を引かれて外出する部下の顔がにやけていた。王国の思惑に嵌った気もするが、業務に差し支えなければ好きにさせていいだろう。
一人、二人とΩと親しい者が現れると、人間と言うのはそれなりに欲が出てくるらしい。一応釘を刺しておいたが効果はどれだけあるだろうか……。あまりに浮かれ気分が続くのなら、私直々に訓練をつけても良いのかもしれない。などと思っていたら、それを察したのか多少浮かれた雰囲気は落ち着いた。
つまらん。仕方ないので、武術大会と魔術大会を開いた。Ωの兵士や女性兵士にいい所を見せようとした部下達がこぞって参加したのを全部叩きのめした。やはりたるんでいる。訓練を見直すべきだろう。ハンスは苦笑していたが、お前も対象だからなと告げたら顔が引きついっていた。
エミリオはまだ眠っている。顔色もよく、寝息は穏やかなままだ。目覚めるのが待ちどおしい。
秋が来た。そろそろエミリオと出会ってから一年が経とうとしているが、未だエミリオは眠り続けていた。
少しは話すようになったエルネストが言うに、最低でも一年は眠り続けるそうだ。最長では十年待ち続けたαもいたようだが、そのαは長年目覚めぬΩに耐え切れなくなって心中したらしい。十年……私はそれだけの……それ以上の……時を待つことができるであろうか……。
エミリオの目覚めを待ちながら、日々を過ごし、秋の収穫時期が終わった頃にまた帝国からの軍がやって来た。去年の秋はわからんでもなかったが、冬目前で食料などの物資を消費するのはいかがなものか……。今は敵国である母国の考えのない行動に頭を抱えたくなった。
攻めてきた帝国軍を適当に追い返し、捕虜を回収して、治療し、Ω以外は解放する。三度目ともなるとその動きをも慣れたものだ。今年はこれで最後だろうが、また来年も来るのであろうか……来るのであろうな……。
冬になる前にエミリオに捧げた花が三百六十五を超えた。溢れかえりつつある薔薇にエルネストが呆れ、フェルディナンドが笑っていたが止める機会を逃してしまった結果と意地と願掛けである。……そろそろ、置き場所を作るべきだろうか。
二度目の冬。何もなく終わると思われた矢先、数人のΩの妊娠が発覚した。発情期等は抑制剤で抑えていたものの、隠れて交際している者は一定数でてきており、発情期でなくても睦みあう者達がいた。発情期でなくても妊娠する時は妊娠するらしい。頭を抱えたが、Ωの発情期フェロモンで誘惑したのでなければ咎める気も失せる。注意はしたもののこれから数は増えるであろう。
これから子を孕むΩが増えるのであれば、それなりに対策は練らねばならない。産むのであれば町に行かせるか、専門の医師を呼ぶべきだろう。
それに、子供が砦にいるのは危険でもあるゆえに好ましくない。町で暮らさせるとすれば、部下達はΩについていくだろう。そうなると砦の防衛力が落ちる。などと、頭を悩ませていたらフェルディナンドが一つの提案をしてきた。
「砦の周りに町を作りましょう。そうすればどちらの悩みも解決しますよ」そう言う事ではないと思うのだが……部下達もΩと離れずに済むのなら私の元で働きたいというので、春から職人を呼んで町の建設を着工にすることになった。詳しい事はフェルディナンドに任せることにする。元より王国の土地だったのだから私よりは上手く調整するだろう。
エミリオが起きた時、砦の周囲に町が出来ていたら驚くだろうか……。それとも、そこに暮らす人々に喜ぶのだろうか。
刻々と時は過ぎていく。眠ったままのエミリオを残して。エミリオが眠りについてから二年と半年の月日が流れた。
捕らえていた王国軍の捕虜は、王国から派遣された兵として砦に残り、私の部隊と共に砦を守る任務についている。最初は遺恨も残っていたゆえに衝突しない方が難しい状況だったが、時間が経つにつれて状況は改善していた。それも、大使として派遣されたフェルディナンドがその職務を全うしているからだろう。
「説得は無理でした」そう困ったように笑って、調印された文書を持って帰ってきたフェルディナンドは、親善大使として、王国との交渉や物資補給の管理を任せている。Ωとして迫れば私の逆鱗に触れると察しているのか私に迫ることもない。部下として扱うのであれば優秀な人材である。
帝国軍の捕虜はと言うと、Ωになってしまった者以外は冬が来る前に解放した。Ωになった者は未だ恐慌状態になる事も多く、王国軍のΩ達に世話を任せている。一部は世話をしていた私の部下のαに懐いた?者もいる為、懐かれた者には気にかけるように言っている。懐かれた者もまんざらでは無さそうなので、囲われるΩもいることであろう。
エミリオに捧げた氷の薔薇は、腕からこぼれ始めたがエミリオはまだ目を覚まさない。
冬が終わり、春が来た。
雪が溶け切った頃に帝国がまた攻めてきたが、特に問題なく撃退した。今回もΩに目覚めた者がいたのでその者達は引き取り、残りは歩ける程度に治療してから解放する。Ω達はやはりと言うか恐慌状態に陥っているが、王国兵のΩ達もいるゆえ、前回よりは比較的早く落ち着いた。
前回の変異者の中には兵としてではないが砦内の雑務を出来るようになった者もいる。今回の者達も季節が一つ変わる頃には、Ωとしての体質にも慣れ、砦内で生活が出来るようになるだろう。
砦内の雰囲気は、冬の頃より格段に良くなった。時折物資の補給を運んでくる部隊との関係も良好になりつつある。
エミリオに捧げた薔薇は百を軽く超えた。寝台を埋め尽くすまでに目覚めるだろうか……。
夏が来た。
王国から近くの町までなら、帝国出身の兵でも外出させてもいい許可が出た。部下達の息抜きになるであろうと、休日であれば外出しても良い許可を出す。王国兵のΩに手を引かれて外出する部下の顔がにやけていた。王国の思惑に嵌った気もするが、業務に差し支えなければ好きにさせていいだろう。
一人、二人とΩと親しい者が現れると、人間と言うのはそれなりに欲が出てくるらしい。一応釘を刺しておいたが効果はどれだけあるだろうか……。あまりに浮かれ気分が続くのなら、私直々に訓練をつけても良いのかもしれない。などと思っていたら、それを察したのか多少浮かれた雰囲気は落ち着いた。
つまらん。仕方ないので、武術大会と魔術大会を開いた。Ωの兵士や女性兵士にいい所を見せようとした部下達がこぞって参加したのを全部叩きのめした。やはりたるんでいる。訓練を見直すべきだろう。ハンスは苦笑していたが、お前も対象だからなと告げたら顔が引きついっていた。
エミリオはまだ眠っている。顔色もよく、寝息は穏やかなままだ。目覚めるのが待ちどおしい。
秋が来た。そろそろエミリオと出会ってから一年が経とうとしているが、未だエミリオは眠り続けていた。
少しは話すようになったエルネストが言うに、最低でも一年は眠り続けるそうだ。最長では十年待ち続けたαもいたようだが、そのαは長年目覚めぬΩに耐え切れなくなって心中したらしい。十年……私はそれだけの……それ以上の……時を待つことができるであろうか……。
エミリオの目覚めを待ちながら、日々を過ごし、秋の収穫時期が終わった頃にまた帝国からの軍がやって来た。去年の秋はわからんでもなかったが、冬目前で食料などの物資を消費するのはいかがなものか……。今は敵国である母国の考えのない行動に頭を抱えたくなった。
攻めてきた帝国軍を適当に追い返し、捕虜を回収して、治療し、Ω以外は解放する。三度目ともなるとその動きをも慣れたものだ。今年はこれで最後だろうが、また来年も来るのであろうか……来るのであろうな……。
冬になる前にエミリオに捧げた花が三百六十五を超えた。溢れかえりつつある薔薇にエルネストが呆れ、フェルディナンドが笑っていたが止める機会を逃してしまった結果と意地と願掛けである。……そろそろ、置き場所を作るべきだろうか。
二度目の冬。何もなく終わると思われた矢先、数人のΩの妊娠が発覚した。発情期等は抑制剤で抑えていたものの、隠れて交際している者は一定数でてきており、発情期でなくても睦みあう者達がいた。発情期でなくても妊娠する時は妊娠するらしい。頭を抱えたが、Ωの発情期フェロモンで誘惑したのでなければ咎める気も失せる。注意はしたもののこれから数は増えるであろう。
これから子を孕むΩが増えるのであれば、それなりに対策は練らねばならない。産むのであれば町に行かせるか、専門の医師を呼ぶべきだろう。
それに、子供が砦にいるのは危険でもあるゆえに好ましくない。町で暮らさせるとすれば、部下達はΩについていくだろう。そうなると砦の防衛力が落ちる。などと、頭を悩ませていたらフェルディナンドが一つの提案をしてきた。
「砦の周りに町を作りましょう。そうすればどちらの悩みも解決しますよ」そう言う事ではないと思うのだが……部下達もΩと離れずに済むのなら私の元で働きたいというので、春から職人を呼んで町の建設を着工にすることになった。詳しい事はフェルディナンドに任せることにする。元より王国の土地だったのだから私よりは上手く調整するだろう。
エミリオが起きた時、砦の周囲に町が出来ていたら驚くだろうか……。それとも、そこに暮らす人々に喜ぶのだろうか。
刻々と時は過ぎていく。眠ったままのエミリオを残して。エミリオが眠りについてから二年と半年の月日が流れた。
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