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第一部:本編
5:再会
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ぼんやりとしていると、今日初めて僕の前に人が立ち止まる。
「……?」
視界に広がる胸板。ゆっくりと視線を上げれば、僕の頭一つ分は背の高そうな赤髪の男の人が立っていた。
「あ……」
燃えるような赤い髪。迫力のある顔つきだけど、僕を見下ろす黄色い瞳は、鋭いながらも静寂を感じさせるように凪いでいる。
僕は、今目の前に立つその人を知っていた。最後に見た時より歳を重ねてこそいるが、幼い頃に憧れた彼に……ヘルトさんに間違いなかった。
纏っている服装からして今でも冒険者なのだろう。特に、右手につけている鈍く光を反射する銀色のガントレットが目を引いた。
「……エルツか?」
「っ……!」
予想もしていなかった再会に、僕が声をあげるよりも早く彼が僕の名前を呼ぶ。
覚えてもらえていたという嬉しさ。そして、こんな姿を見られたくなかったという後悔。表情が歪むのを感じながら、それを隠すように俯き、僕は小さく頷いた。
「は、い……」
なんとか絞り出した声は、掠れていて……通りの雑踏に消えたような気がする。
俯いたままの僕は、ヘルトさんがどんな表情をしているかわからない。
でも、奴隷という身分でいる僕に失望とか……軽蔑とか……そんな視線を向けているんじゃないかと思うと怖かった。
「……商談をしたい」
頭の上から降ってきた言葉に驚いて顔をあげる。
ヘルトさんは、僕から僕の隣に立つ見張りに視線を向けていた。その表情には感情が浮かんでいるようには見えなくて、僕には何も読み取れない。
なぜ、ヘルトさんが僕を買おうとしているのか……僕には理解できなかった。
「それでは、案内いたします」
僕が戸惑っている間にも、ヘルトさんと見張りの人の話は進み、店内の来客用の部屋へと僕はヘルトさんと共に通される。
ヘルトさんは、長椅子に腰掛け……僕はその正面にある椅子の後ろへと立つ。
幼い頃、彼から冒険譚をねだり、頭を撫でてもらった事すらあるのに……その距離はとても遠く感じた。
「お待たせしました。……おや」
扉を開けて、部屋に入ってきた店主がヘルトさんを見て表情を変える。
普段は穏やかながらも無機質な表情をしている人なのに……その顔には純粋な驚きが浮かんでいた。
「オルデン卿ではありませんか。よくぞお越しくださいました」
僕の前にある椅子に腰掛けた店主が弾んだ声でヘルトさんへと声をかける。
聞きなれない名前は、ヘルトさんが爵位した時に与えられた家名だろうか……。
平民に家名は無い。それゆえに平民出身でありながら、冒険者としての功績だけで爵位し、家名を得たヘルトさんの存在が遠い。
こんな僕を買いたいと言ったのが気の迷いなんじゃないかと思うほどに。
「こちらにお越しになられたという事は、ついに奴隷をお買いになるつもりになられたのですね。せっかくですので、もう少し上級の奴隷でもお出ししましょうか」
店主の言葉に体が振るえる。ヘルトさんがどんな奴隷を求めているかはわからないが、僕より上の商館の秘蔵ともいえる奴隷はいる。
僕のように店前に出さず、上客にしかお披露目しないような奴隷が。
それは、美貌の性奴隷だったり、屈強な戦闘奴隷だったり様々だ。
だから、そんな人達が並べられたらヘルトさんも僕なんかじゃなくて他の人を選ぶだろうと頭のどこかで過った。
「……?」
視界に広がる胸板。ゆっくりと視線を上げれば、僕の頭一つ分は背の高そうな赤髪の男の人が立っていた。
「あ……」
燃えるような赤い髪。迫力のある顔つきだけど、僕を見下ろす黄色い瞳は、鋭いながらも静寂を感じさせるように凪いでいる。
僕は、今目の前に立つその人を知っていた。最後に見た時より歳を重ねてこそいるが、幼い頃に憧れた彼に……ヘルトさんに間違いなかった。
纏っている服装からして今でも冒険者なのだろう。特に、右手につけている鈍く光を反射する銀色のガントレットが目を引いた。
「……エルツか?」
「っ……!」
予想もしていなかった再会に、僕が声をあげるよりも早く彼が僕の名前を呼ぶ。
覚えてもらえていたという嬉しさ。そして、こんな姿を見られたくなかったという後悔。表情が歪むのを感じながら、それを隠すように俯き、僕は小さく頷いた。
「は、い……」
なんとか絞り出した声は、掠れていて……通りの雑踏に消えたような気がする。
俯いたままの僕は、ヘルトさんがどんな表情をしているかわからない。
でも、奴隷という身分でいる僕に失望とか……軽蔑とか……そんな視線を向けているんじゃないかと思うと怖かった。
「……商談をしたい」
頭の上から降ってきた言葉に驚いて顔をあげる。
ヘルトさんは、僕から僕の隣に立つ見張りに視線を向けていた。その表情には感情が浮かんでいるようには見えなくて、僕には何も読み取れない。
なぜ、ヘルトさんが僕を買おうとしているのか……僕には理解できなかった。
「それでは、案内いたします」
僕が戸惑っている間にも、ヘルトさんと見張りの人の話は進み、店内の来客用の部屋へと僕はヘルトさんと共に通される。
ヘルトさんは、長椅子に腰掛け……僕はその正面にある椅子の後ろへと立つ。
幼い頃、彼から冒険譚をねだり、頭を撫でてもらった事すらあるのに……その距離はとても遠く感じた。
「お待たせしました。……おや」
扉を開けて、部屋に入ってきた店主がヘルトさんを見て表情を変える。
普段は穏やかながらも無機質な表情をしている人なのに……その顔には純粋な驚きが浮かんでいた。
「オルデン卿ではありませんか。よくぞお越しくださいました」
僕の前にある椅子に腰掛けた店主が弾んだ声でヘルトさんへと声をかける。
聞きなれない名前は、ヘルトさんが爵位した時に与えられた家名だろうか……。
平民に家名は無い。それゆえに平民出身でありながら、冒険者としての功績だけで爵位し、家名を得たヘルトさんの存在が遠い。
こんな僕を買いたいと言ったのが気の迷いなんじゃないかと思うほどに。
「こちらにお越しになられたという事は、ついに奴隷をお買いになるつもりになられたのですね。せっかくですので、もう少し上級の奴隷でもお出ししましょうか」
店主の言葉に体が振るえる。ヘルトさんがどんな奴隷を求めているかはわからないが、僕より上の商館の秘蔵ともいえる奴隷はいる。
僕のように店前に出さず、上客にしかお披露目しないような奴隷が。
それは、美貌の性奴隷だったり、屈強な戦闘奴隷だったり様々だ。
だから、そんな人達が並べられたらヘルトさんも僕なんかじゃなくて他の人を選ぶだろうと頭のどこかで過った。
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