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第一部:本編
55:初陣
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「止まれ。曲がり角から何か来る」
ヘルトさんのその言葉に、僕は杖を握りしめて足を止める。
「……ゴブリン、ですか?」
「足音が軽いからそうだろう」
僕の耳には、何も聞こえないけど、斥候役も兼ねて前衛をしてくれているヘルトさんの耳には足音が聞こえたらしい。
おそらく、自己強化魔法で聴力を上げているのだと思う。
僕には、自己強化魔法の才能がなかったのでちょっと羨ましい。
「数は二匹。一匹は初手で俺が倒すから、エルツはもう一匹を魔法で倒してくれ」
「わかりました」
ヘルトさんの指示に頷き、僕は初めての戦いに緊張する。
杖を握りしめた手が汗ばむのを感じ、これが手に汗握るという事かと余計な事を考えた。
「そろそろだ」
「……はい」
もうそろそろ、曲がり角からゴブリンが現れる。息を飲み、その時が来るのを待った。
「ゲゲッ、ゲッ!」
「グギャッ、ギャギャッ!」
騒がしい声が僕の耳にも届く。そして、僕達から二メートルほど離れた曲がり角から二匹のゴブリンが姿を現した。
緑色の僕より小さい小鬼。弱くもあるが、上位種だと熟練の冒険者でも手こずる相手だった。
「はぁっ!」
「ゲッ?」
曲がり角から出てきたゴブリンをヘルトさんが剣を振り下ろして作った斬撃で切り飛ばす。
離れた所にいる相手も両断できる技だ。自己強化の魔法で身体能力を上げ、剣に風魔法を纏わせる事でできるらしい。
「ゲゲッ!ゲゲッ!……ゲッ?」
攻撃されたはずのゴブリンが僕らを発見して、飛びかかろうとしたが、その体がお腹から二つにズレ、ゴブリンの上半身が切断面から溢れた血とともに地面に落ちる。
うっ……ちょっと痛々しいし、赤い血が気持ち悪い。
ダンジョンを探索するならと慣れなきゃいけないけど、慣れるまでには時間がかかりそうだった。
「ギャギャッ!ギャギャッ!」
相方を倒された事に気づいたのかゴブリンが激昂する。
こちらを向いて棍棒を構えた姿に少し怯む。
「やれるか?」
「……やります!」
ここで怯んでなんかいられない。僕は、成長したんだ!
両手で杖を握り、魔力を流す。
唱えるは、初めてならった防御力用の障壁魔法。
しかし、使い方次第では、対象を断ち切る事だってできる応用法を教えてもらった。
「断ち切れ!不可視の盾!」
「ギャ?」
唱えた魔法は僕のイメージ通りにゴブリンを縦に両断する。
頭のてっぺんから半分に裂けたゴブリンに、成功した!という気持ちとともに散らばった内蔵と血に青ざめた。
「お、流石。やるじゃねぇか! ……大丈夫か?」
「はい……すみません」
凄惨な惨状とはいえ、自分でやったことなのに気持ち悪くなるとは情けない。
「ま、最初はこんなもんだ」
ヘルトさんは、僕の肩を軽く叩いてからゴブリンの死骸に近づく。
「普段は、回収しないんだが……ほら、お前の初討伐記念に持っとけ。ついでに俺のもやるからよ」
そう言ってヘルトさんが渡してきたのは、ゴブリンの体から取り出した小指の爪ほどの魔石。
血が拭われたそれは、赤く透き通って綺麗だった。
「ありがとうございます……!」
ゴブリンの物だから小さくて品質も低いけど、初めて僕が倒せたモンスターの魔石。それが嬉しくて、ヘルトさんからもらった小袋に入れてローブの内ポケットへとしまった。
「よし、この調子でどんどん進むぞ」
「はい!」
初戦で無事勝利し、少しだけ自信のついた僕はヘルトさんの言葉に力強く頷く。
この後もヘルトさんが一匹残したゴブリンを障壁魔法で倒し、第一層を順調に進んでいく。
ヘルトさんのその言葉に、僕は杖を握りしめて足を止める。
「……ゴブリン、ですか?」
「足音が軽いからそうだろう」
僕の耳には、何も聞こえないけど、斥候役も兼ねて前衛をしてくれているヘルトさんの耳には足音が聞こえたらしい。
おそらく、自己強化魔法で聴力を上げているのだと思う。
僕には、自己強化魔法の才能がなかったのでちょっと羨ましい。
「数は二匹。一匹は初手で俺が倒すから、エルツはもう一匹を魔法で倒してくれ」
「わかりました」
ヘルトさんの指示に頷き、僕は初めての戦いに緊張する。
杖を握りしめた手が汗ばむのを感じ、これが手に汗握るという事かと余計な事を考えた。
「そろそろだ」
「……はい」
もうそろそろ、曲がり角からゴブリンが現れる。息を飲み、その時が来るのを待った。
「ゲゲッ、ゲッ!」
「グギャッ、ギャギャッ!」
騒がしい声が僕の耳にも届く。そして、僕達から二メートルほど離れた曲がり角から二匹のゴブリンが姿を現した。
緑色の僕より小さい小鬼。弱くもあるが、上位種だと熟練の冒険者でも手こずる相手だった。
「はぁっ!」
「ゲッ?」
曲がり角から出てきたゴブリンをヘルトさんが剣を振り下ろして作った斬撃で切り飛ばす。
離れた所にいる相手も両断できる技だ。自己強化の魔法で身体能力を上げ、剣に風魔法を纏わせる事でできるらしい。
「ゲゲッ!ゲゲッ!……ゲッ?」
攻撃されたはずのゴブリンが僕らを発見して、飛びかかろうとしたが、その体がお腹から二つにズレ、ゴブリンの上半身が切断面から溢れた血とともに地面に落ちる。
うっ……ちょっと痛々しいし、赤い血が気持ち悪い。
ダンジョンを探索するならと慣れなきゃいけないけど、慣れるまでには時間がかかりそうだった。
「ギャギャッ!ギャギャッ!」
相方を倒された事に気づいたのかゴブリンが激昂する。
こちらを向いて棍棒を構えた姿に少し怯む。
「やれるか?」
「……やります!」
ここで怯んでなんかいられない。僕は、成長したんだ!
両手で杖を握り、魔力を流す。
唱えるは、初めてならった防御力用の障壁魔法。
しかし、使い方次第では、対象を断ち切る事だってできる応用法を教えてもらった。
「断ち切れ!不可視の盾!」
「ギャ?」
唱えた魔法は僕のイメージ通りにゴブリンを縦に両断する。
頭のてっぺんから半分に裂けたゴブリンに、成功した!という気持ちとともに散らばった内蔵と血に青ざめた。
「お、流石。やるじゃねぇか! ……大丈夫か?」
「はい……すみません」
凄惨な惨状とはいえ、自分でやったことなのに気持ち悪くなるとは情けない。
「ま、最初はこんなもんだ」
ヘルトさんは、僕の肩を軽く叩いてからゴブリンの死骸に近づく。
「普段は、回収しないんだが……ほら、お前の初討伐記念に持っとけ。ついでに俺のもやるからよ」
そう言ってヘルトさんが渡してきたのは、ゴブリンの体から取り出した小指の爪ほどの魔石。
血が拭われたそれは、赤く透き通って綺麗だった。
「ありがとうございます……!」
ゴブリンの物だから小さくて品質も低いけど、初めて僕が倒せたモンスターの魔石。それが嬉しくて、ヘルトさんからもらった小袋に入れてローブの内ポケットへとしまった。
「よし、この調子でどんどん進むぞ」
「はい!」
初戦で無事勝利し、少しだけ自信のついた僕はヘルトさんの言葉に力強く頷く。
この後もヘルトさんが一匹残したゴブリンを障壁魔法で倒し、第一層を順調に進んでいく。
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