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鞍馬家の秘密 2
しおりを挟む「……そもそもどうして鞍馬一族は、こんな力を持てるようになったのですか?」
突然のたくさんの情報量に私は頭を抱えながら八千代様に尋ねた。
「……天狗と情を交わした我らの始祖様がその『力』を得た、と伝えられている。……そしてその『力』はどこからともなく現れる闇を封じる為のものとなった」
───闇。
「それって、黒い霧みたいな、物的攻撃の通用しないものですか?」
「!? 花凛はアレのことを知っているのかい!? まさか、昨今の『通り魔事件』で狙われたのかい?」
八千代様が初めて動揺したようだった。私はそれに少し驚きつつ答える。
「……いえ、私はお陰様で狙われる事はなかったのですが、偶然『黒い霧』に襲われる女性の現場に立ち会ってしまったのです」
「!?」
八千代は苦い顔をし、花凛に聞こえない程小さく『……あの子はいったい何してるんだ』と呟いた。
「私はその『黒い霧』にその時持っていた傘を投げ付けたのですが、それはその黒い霧をすり抜けてしまって……。
その後、使えるようになっていた『風の力』で一度はソレは霧散したんですけど、……すぐに元通りになってこちらに向かってきました。……その時、後ろから光の矢のような物が飛んできて命中するとソレは今度こそ消えて無くなりました」
「……その場に『力』を持つ別の者が現れたという事かい!?」
八千代様は驚きで少し身を乗り出した。
「はい。……あの男性も一族のどなたかだったのでしょうか?」
「いや……。我が一族の何人かはあちこちに散ってはいるが、今のところそのような報告は受けていない」
そう言ってから八千代様はふうとため息をついた後、背もたれにもたれられた。
「───八千代様!? ご気分でも?」
「……いや、少し驚いただけだ。───そこまであの『闇』がまた力をつけていたこと……。そして花凛。お前にも事実を知らせないまま怖い思いをさせたね。済まなかった」
そう言って八千代様は頭を下げられた。
「八千代様……。頭をおあげください。少し……いえかなり驚きましたが……。……すみません、私もいきなり色んな事実を知ったのでかなり混乱してます」
「それは仕方あるまい。
……花凛、本当に済まなかった。当時あの状況でお前をこの家に引き取る事は出来なかった。篤之……お前の伯父は、鞍馬家の当主であることにかなりの拘りを持っていたしね。この家で育てれば肩身の狭い思いをするだろうと……」
私は本家の篤之様を思い出す。……うん。確かに『次の当主ですが何か?』的な人だった気がする。
「八千代様。……私は今の家族を愛しています。私をあの両親に預けてくださって、ありがとうございました」
私はそう素直にお礼を言った。本当に、養子だったなんて分からない程に愛して大切に育ててもらった。そして両親からの愛をきちんと受けて育った私は、10代の多感な年頃ならいざ知らず今それに対してそこまで動じる事はなかった。
ショックはショックだけども、それ以上に色々な事があり過ぎて麻痺してしまっているのかも知れないけれど。
「……そうか。お前が幸せだったならそれが一番良い事だ。
……しかし、『力』を得たお前にはこの鞍馬家……いや『闇』を封じる為にこちら側に来てもらわねばならなくなる。勿論、お前の大切な家族と縁を切れという訳ではない」
家族と離れないでいいと聞いて少しホッとする。
そして実際差し迫っての『闇』という敵がいる以上、力を得た一族の自分が何かをしなければならないだろう事は理解出来た。
「……その辺りはまだ覚悟が出来てはいないので、色々お話を聞かせていただければ、と。
あの、この鞍馬家には『力』を持った人はどのくらいいるのですか?」
「それは極秘事項だから仔細は明かせない。……しかしこれだけ一族の人間がいても『力』を持つ事が出来るのは僅かだとは言っておこう。
……若い頃に好きな異性が出来て情を交わしたくなるのは自然の摂理。それを30歳まで耐え心を整えるという事は誰にでも出来る事ではないのだ」
あー……。確かにそれはそうかも。
───私の場合はただただご縁が無くてそれが出来てしまったんだけどね!
「実際私の子も長男篤之は『力』を持つ事が出来たが、後の2人は無理だった」
あちゃー。私の遺伝上の父である次男もダメだったのね。……婚約者がいながら他の女性に手を出している時点で分かる事か。
「だからこそ篤之は弟妹より自分が優れていると強く思っているのだが……。
しかしその篤之の長男も力を得る事は出来なかった。あとは次男に望みを繋げるしかないだろう。
そんな訳で花凛の存在は我らにとって大きな希望そのものなのだ」
私はそれを聞いて嫌な予感がした。
「八千代様? 私は力を使う事はともかくこの家の後継争いに加わるつもりはありませんよ?」
それを聞いた八千代様は苦笑しつつ答えた。
「私もお前を醜い争いに参加させたくはないし今のところそのつもりはない。
……しかし私の孫たちに『力』を持つ者が現れなければその可能性は高くなってしまうだろう」
「げ」
つい、美しくない言葉が飛び出してしまった。八千代様にキロリと見られて私は苦笑いをする。
「……とにかく、これから花凛には正しい『力』の使い方を学ぶべく講師を付けさせてもらう。
───三郎太。こちらに」
すると部屋に静かに入って来たのは、中学の理科の教師だった鞍馬三郎太先生。鞍馬家の四つの分家東家の当主であり私の幼馴染の父親でもある。
「ビシバシしごくから覚悟しておくように」
あー、この人スポ根的熱血タイプなんだよねー。
そうして私は暫く修行の身となったのだった。
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