転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん

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一年後のレーベン王国〜ハインツ

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  ……一年前までこの国を背負う有能な筆頭魔術師だったラングレー侯爵。しかしその面影は今はなく……、ベッドに伏せる痩せた父。


「……父上。お目覚めになられたのですね」


 次男であるハインツはその変わり果てた父の姿に胸を痛めつつ声をかけた。

「……ハインツ、か……。……魔物は? 王都は、どうなったのだ……?」

 約一年昏睡状態だった父は、それでもすぐに国を憂いハインツに問いかけた。


「……今は、もうあの魔物達はおりません。魔物が溢れたあの日から既に一年が経っております。国が管理していたはずの最北のダンジョンから魔物が溢れ出し、ほぼ真っ直ぐに王都を襲って来たので国の王都周辺より北は現在も見る影もなく……。今は王都の人々の集まる中心は南側に変わっております。……それ程に、壊滅的な被害でありました」

 ハインツがそう言うと、父は「そうか……」と呟くように言った。

「……ハインツ。……セリーナは。あの子はどうした?」

 父が最初に案じた家族はまさかの出来損ないの末娘セリーナ。昔からいつもセリーナの為に家族は気を使い続けてきた。魔法の名門である我が家でただ1人魔法の使えないセリーナ。
 ずっと足を引っ張られてきた嫌な思いしかなかったハインツは顔を顰めた。


「……アレは、もうおりません。おそらくはあの時、力も持たぬアレは魔物に残らず喰われてしまったのでしょう」

 最後まで役立たずのセリーナ。
 せめて母が逃げる囮にでもなれば良かったのにと苦々しく思う。


「…………違う」

「……は?」

 見ると、真剣な表情をした父は何やら脂汗をかいている。


「父上? 大丈夫ですか!? ……申し訳ございません。目覚められたばかりだというのに無理をさせてしまったのですね」


 ……そうだ。アレでも父にとっては大切な娘。しかも出来が悪い子ほど可愛く思えるというではないか。……今の父に負担をかけてはいけない。


「……違う……、違うのだ、ハインツ。あの子は……セリーナは、目覚めたのだ。……本当の力に。目の前で母が魔物に襲われたあの時に、あの子は覚醒したのだ……」


 父は必死になって何かを言っていた。一年も昏睡状態で父は錯乱している。それとも都合の良い夢でも見ていたのか?


「分かった、分かりましたから父上……。今は身体を休め良くなることだけお考えください。我が侯爵家はもう父上と姉上と、私しか居ないのですから……」


 あの日、我が侯爵家はほぼ全てを失った。いや、我が侯爵家だけではない。
 そして一年経った今でも、国はまだ落ち着いてなどいない。いや更に混沌としているのではないか? 
 ……あの華やかだった王都の北側は今ではまるでゴーストタウンの様だ。

 あの時、レーベン王国の多くの優秀な魔法使いが命を落とした。今は我が国が誇った魔法使いは一年前の半分程に減ってしまった。そして国力が落ちれば他国の脅威に晒される。ただでさえ街も畑も魔物にやられて国民達は貧しく厳しい暮らしを強いられている。一部は外国に逃げそして一部は盗賊などに成り果てた。近隣の国からも良からぬ者たちが入り込んでいるという。

 そして今まで魔法王国として絶大な力を持っていた我が国は、近隣諸国との交流が殆ど無かった。
 諸外国は今はこの国にまだいるかもしれない魔物と我が国に残る魔法使いの力を恐れて様子見の状態だが、いずれこの王国のこの現状を知られれば戦争を仕掛けられても不思議ではない。
 そうなればあっという間に弱りきった我がレーベン王国は堕ちるだろう。

 頼みの綱の筆頭魔術師であった父も、目覚めてもこの様子では昔のように復帰するのはかなり難しいかもしれない。

 次期筆頭魔術師と目されていた優秀な兄も、治癒魔力の強い母ももういない。姉は婚約者を今回の件で亡くした事で力を落とし、この家でずっと父の看病を続けていた。


 ……私が。私がこの侯爵家を立て直し、この魔法王国であるレーベン王国を守っていくしかないのだ。


「……セリーナ……」


 まだ妹の名を呼び続ける父を目をすがめて見ながら、ハインツは固く決意していた。



 
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