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13 聖女マリア
しおりを挟む「ライナー。この間はいきなりごめんなさい。あれから少しは考え直してくれたかしら?」
再びギルドに現れた『聖女』マリア。
彼女はその美しい可憐な姿で微笑み、ライナーに話しかけてきた。
「何度来ても一緒だよ。俺はアンタと関わりはない。今までもこれからも、な。これ以上俺に近付かないでくれ」
そしてまたしてもライナーは冷たく突き放す。けれど、今回のマリアは強気だった。
「ライナー。……あなたに教会本部から依頼が来てるわ。『勇者』と共に旅に出るように、と。正式な依頼よ? あなたに断る権利はないわ」
マリアは腰まであるその揺れる金髪をフワリと流し、意志の強い青い瞳でライナーを上目遣いに見た。
「……大丈夫。また以前のように私や勇者と魔王を倒す旅に出るだけ。貴方の力は飛び抜けているわ。本当はレオンよりも力があったのよ。そしてそんなあなたの能力は教会も認めているの。大司教様は現在の貴方の活躍もご存知よ」
マリアはそう言って勝ち誇ったようににこやかにライナーに微笑みかけた。
「……断る権利がない? それはどういう事だ?」
ライナーが更に声を低くして問いただす。教会の名を出してもこんな態度を取ってくることを少し不審に感じながらも、マリアは強気な態度を崩さなかった。
「どうって……。分かってるんでしょう? 世界での教会の命令は絶対。逆らえば貴方は一生日陰者になってしまうわよ。ここでの生活もしていけないし、お仲間も無事では済まないでしょうね」
ふふふと意地の悪そうな笑顔で言うマリアは、到底世間でいう清廉な『聖女』の姿からかけ離れていた。
「……へえ。『勇者』の仲間であり今や教会の看板的な存在である『聖女』様が、そんな脅しなような事を言うんだ?」
後方から声がした。
マリアが振り返ると、確かライナーの現在のパーティーのアレンとかいったか。
「な……! なんなの、あなたには関係ないでしょう? それに私に逆らうなんてあなた教会を敵に回すつもり?」
マリアは最初驚いたものの、すぐに強気を取り戻す。教会の力を背景に今やこの自分に逆らえる者などほぼ居ないのだ、と。
しかし、更にライナーの仲間の1人ダリルがマリアに声を掛けて来た。
「あらぁ。教会を敵に回すと、どうなるのかしら? まさか世界の民の庇護者であるべき教会が、嫌がる冒険者を無理に勇者の仲間にしようなんて事をするというのかしら? そもそも今『勇者』は健在だし、その仲間を教会の名の下に無理矢理召集するなんて聞いた事がないんだけれど?」
今回ライナーを仲間にしようというのは、ほぼマリアの独断だ。5年前、どんなにマリアが迫っても自分の手に落ちなかったライナー。レオンが死んだ後にはいつの間にか姿を消していた。……やっと見つけたのだ、今度こそ逃さない。
教会にはマリアの説得で、そうする事で今の『勇者』が力を発揮出来るのならと無理に認めさせたのだ。
「それだけライナーの力が認められたという事よ。あなた達も仲間がこんな名誉な事に選ばれたのだから、もっと誇りに思って快く送り出したらどうなの?」
マリアはツン、と彼らから顔を逸らして言い渡す。
長年『聖女』として活躍し、今や教会の殆どに影響力を持つようになった自分に、逆らえるはずがないのだと。
「……という事ですが。ご覧になられましたか? コレが教会の誇る『聖女』様なのですか?」
まだ少女と思しき声が誰かに声をかけていた。
「――は?」
……いったい誰にそんな馬鹿げた事を言っているのか? もし今回の事を周りに告げ口されたとしても、世間の信頼はこの『聖女』にあるはず。
むしろマリアは蔑むような目で声のした方を見た。
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