転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん

文字の大きさ
36 / 62

25 誕生祝いと報告

しおりを挟む


「おお……。これは……!」

 教皇の手元には、神の化身と呼ばれる鳳凰の刺繍がされたハンカチがあった。

「昔から刺繍は魔法が使えない私の唯一得意なものだったんです。……明日は教皇さまのお誕生日でしょう? だから久し振りに刺してみました。一日早いですが、お誕生日おめでとうございます」

 セリはそう言って教皇に笑顔を見せた。

「なんと……、なんと嬉しい贈り物じゃ……! セリ様……、私はこれを一生の宝物にいたしますぞ! おおそれになんと美しい……。これは額に入れて飾っておかねば!」

 そう言って側近に額を用意するように言おうとしている教皇をセリは止める。

「教皇さま! これは普段使っていただく為に刺したのです。それに額で飾るほどの物ではございません!」

「教皇様。セリは糸の色合いとか随分悩んで選んだんです。教皇様に使ってもらえたらって。出来れば普段から持っててやってください」

 ライナーはセリが教皇をまるで祖父のように慕っていると分かるので、持っていて貰えたら喜ぶだろうと思って言った。

「ライナー。……うむ、そうか。セリ様。それではこれは肌身離さず持つようにいたします」

 セリはハンカチなのだから使ったら洗わなければいけないので『肌身離さず』は少し違う気もしたが、また飾ると言われても困るので黙っておいた。

「教皇さま。それと……、お話、というか、ご報告が、あります」

 セリは少しドキドキしながら、チラッとライナーを見る。ライナーも少し緊張気味にセリに頷いてから教皇を見た。

「教皇様。今日は俺とセリが結婚を前提にお付き合いするとご報告に参りました」

 
 セリとライナーは真っ直ぐに教皇を見た。

 教皇も2人を暫く黙って見ていた。

 暫く3人は黙っていたが……。


「……そうでございますか……。セリ様、ライナー殿。おめでとうございます。私にこうして報告していただけた事、誠に嬉しく存じます」

 そう言って教皇は静かな微笑みを浮かべた。

「教皇様。俺はセリを思う気持ちだけは誰よりも優ってると思います。そしてセリを必ず幸せにします」

「……私も、ライナーを幸せにするつもりです!」


「ふふ。……そうですな。お互いを幸せに出来るのは素晴らしい事です。……ライナー殿。私も色々と申し上げましたが、貴方が真剣にセリ様を思っていらっしゃるのはよく分かっておりました。……何卒、セリ様をよろしく御頼もうしますぞ」


「……はい!」


 そして教皇とライナーはしっかりと握手を交わした。

 セリは少しホッとしながらそれを見ていたのだった。

 そんなセリに教皇は微笑んでから、座り直し真剣な表情になった。


「……セリ様。私はセリ様のお力のことでお話ししたい事がございます」

 教皇の雰囲気がガラリと変わりしかもその話の内容に2人は目を見合わせた。そして改めてきちんと教皇に向き合った。

「……それはセリの力が封じられていた件、ですか?」

 ライナーがそう問うと、「そうです」と教皇は頷いた。

「時にセリ様は『封印』という能力を、ご存知でいらっしゃるかな?」

 ……『封印』?

 セリはレーベン王国にいた時に読んだ魔法の本で、それを見た事があった。

「……はい。王国の本で読みました。確か国の重要な箇所を封じたり場合によっては王宮などの場所そのものを封じて人々を守る事も可能とか。しかしその能力は稀少で国に1人いるかどうかだと聞いた事があります」

 セリの答えを聞いた教皇は満足そうに頷いた。

「その通りです。そしてレーベン王国でも国に1人とまで言われているのです。他国ではなかなかみることの出来ない特殊な能力、それが『封印』なのでございます」

 セリは純粋に新たな知識を得られた喜びで頷いた。教皇はそんなセリを微笑ましく思いながら話を続けた。

「あれから私は色々な文献などを紐解きましてな。……その中の一つに載っておったのです。その昔に『封印』という特殊な能力を持った者が、強力な敵の子が幼くまだ魔法を使えない内にその力を封じたという話が」

「「……ッ!!」」

 セリとライナーは一瞬言葉を失う。そしてライナーはハッと何かに気付いた。

「教皇様。……それって魔王退治の勇者の話に出てくるヤツじゃないですか? 敵国の魔女が勇者である王子の子供の頃にその力を封じたけど、紆余曲折の後覚醒したその勇者が魔王を倒すっていう世界中の子供が大好きな話ですよね」

 教皇は頷く。


「……そうじゃ。この世界の殆どの子供達が読む『魔王と勇者』の物語。あの話の元になった事は本当にあった。私は昔その文献を見て事実そのような事があるのかと驚いたので覚えておったのです」


 セリは、震えつつ呟いた。

「……じゃあ……。私が魔法が使えなかったのは、私の努力が足りなかったとか能力がなかったとかじゃなくて……?」

「そのような事があるはずありますまい。……セリ様は魔力が目覚めてすぐに魔法を使いこなされたのでしょう? それは今までのセリ様の努力と勉強と研鑽があったればこそ!」

「そうだぞ、セリ! そもそもセリは凝り性だからなんでも突き詰めちまうだろ? 刺繍だって鳳凰の赤なんていいとこ3色位で表現するって手芸屋は言ってたのに10色も細かく使ってすげぇ綺麗だってダリルもアレンも大絶賛だったじゃねーか。そんなセリの努力が足りないとかそんな事ある訳ねぇ!」

 それを聞いた教皇は改めて先程セリからもらったハンカチを見る。

「……おお、セリ様! 本当じゃ、この鳳凰の見事な色使い……! これはセリ様のそれ程の技と努力で作られたもの……。おおやはりこれは是非額に飾って……」

「ダメですよ、教皇さま! せっかく作ったのですから是非普通に使ってくださいっ! もう! ライナー余計なこと言わないでよ~!」

 するとライナーは少し不満そうな顔をした。

「だってアイツらから家の中では絶対セリと2人きりになるな近付くなって言われてるってのに、セリはせっかくの休みに刺繍を作るって家に籠るし……。外でも結局2人になれねーし……」

 それを聞いたセリは首を傾げる。

「? いつも2人でいるじゃない? 今だって一緒だし……」


 微妙に2人の意見が食い違っている事に気付いた教皇は少しライナーに同情もしつつ間に入る。


「まあまあ、それはお2人の時によく話し合いなされ。……今はセリ様の力を封じた能力の話ですぞ」


 2人はハッとして、「そうでした……」と反省しつつ元の話に戻った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com
恋愛
 完結しました。 説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。  気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。  原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。  えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!  腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!  私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!  眼鏡は顔の一部です! ※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。 基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。 途中まで恋愛タグは迷子です。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ
恋愛
 侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。  病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。  また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。 「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」  無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。  そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。  生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。  マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。 「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」  三度目の人生はどうなる⁈  まずはアンネマリー編から。 誤字脱字、お許しください。 素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

処理中です...