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37 レーベン王国へ その参
しおりを挟む「セリーナ。教皇様との会合の後、殿下はセリーナの捜索を諦められた。……しかしお前の危惧する通り、陛下や一部の貴族は諦めてはいない。そして王妃の動向も見極めなければならないだろう」
セリを見つめ真剣な顔でハインツは言った。そして父は苦々しい顔になり言う。
「王妃は厄介だぞ。今までも国の施策に口を出したり引っ掻き回そうとする事が何度もあった。大概の貴族は王妃を良くは思ってはおらぬだろう。……王妃の実家の男爵家とその縁戚だというマイザー伯爵家だけは別だがな。おそらく例の茶会でセリーナにそのような事を仕掛けたのもその王妃の派閥だろう」
「そうですね。レーベン王国一の魔力を持つ名門と云われる我がラングレー侯爵家を貶めようなど考える愚か者は王妃達位でしょう。おそらくは自分や子供に力が少ないので我が家で『魔力ナシ』といわれたセリーナを貶める事で我が家に恥でもかかせて溜飲を下げようとしたのでしょう」
侯爵と兄はそう言って怒りを露わにした。そして……。
「……へーーえ。この国の王妃がねぇ……」
セリが隣を見るまでもなく、怒りのオーラと共にライナーの呟きが聞こえてきた。
……ライナー、すごく怒ってるんですけど! コワイんだけど! それにお父様やハインツ兄様も怒ってる! ……これ、大丈夫!?
王妃への怒りよりも3人の怒りがコワイ、セリなのだった。
◇
「これが、魔物が溢れたっていうダンジョン……。かなり大きいわね。うちの街のダンジョンも大きい方だと思ってたけど……」
ダリルが思わず感嘆の声をあげた。
……レーベン王国の最北部に位置する巨大なダンジョン。北の隣国との国境にもなっている山脈の麓にあるそのダンジョンの洞窟の入り口は、レーベン王国の王都に向かってぱっくりとその大きな口を開いている。
ライナーもその入り口とその周りの様子を見て大きく息を吐く。
「このでっけぇ入り口、本当にレーベン王国の中心に……王都の方角に向いてるんだな。これは魔物が溢れた時に真っ直ぐに王都に向かったのも分かるな」
「魔物が溢れた時、魔物はここから殆どが王都方面に行ったみたいね。そして北の隣国に行った魔物は居なかったみたい。この大きな山脈で封鎖された形になったんだろうって、お兄様が」
セリもその大きな入り口を覗き込んで言った。
「ねぇ。そんな大災害があったのだもの、流石に今は国がちゃんと管理してるはずなのよね?
けれどこの近くにはあちらに小さな小屋があるだけなのだけど……。近くに街もないみたいだし、そもそもレーベン王国には冒険者は居ない訳?」
ダリルは他国ではあり得ないこのダンジョンの様子を見てセリに尋ねた。
通常ダンジョンの周りには街がありそして冒険者ギルドがある。ダンジョンにいる魔物を狩りその魔物の素材の売り買いをする為に自然に人が集まり街が出来るのだ。
そのダンジョンの管理をする為に国が意図的に街を作る事もある位だ。
「冒険者は、多分受け入れていないと思うわ。この国では昔からダンジョンは魔法使い達が自分達の力を磨く場所として使われてたって聞いてたんだけど……」
セリは周りを見ながら言った。魔物騒動の時に破壊されただけどは思えないほどに施設の跡地も相当に古く、きちんと管理されていたとはとても思えなかった。
冒険者が居なくてもダンジョンの近くにそれなりの施設や村も無いのは不自然だった。魔法使い達もその拠点に困っただろう。
「使われてたっていう割には、この辺りは随分と廃れてるよね。魔物騒動でこんなになっちゃったのかな? 魔物が溢れた後だし一年半も経つからなんとも言えないけど……。でもこの感じ、ここもっと長く放置されてない?」
アレンはあちこちを見回しながらそう言った。
ダリルは寂れた様子のダンジョンを見て、一つため息を吐いてから言った。
「……私ずっと考えてたんだけど……。ダンジョンが溢れる原因って色々あるとは思うけど、決定的な要因は一つしか思い浮かばないのよね」
「決定的な……要因? ダンジョンが溢れる要因って?」
あれは、自然災害ではなかったのだろうか? 何か魔物が溢れる理由があるのだろうか……? セリは戸惑いながらダリルを見た。
「まあ、とりあえずもう少しこの辺りを調べたらいったん戻りましょう。幾つか疑問点もあるし、皆で考えをまとめましょう」
「うん。そうだね。……少し、中に入ってみない? この4人なら大丈夫でしょ」
ダリルとアレンはそう言って更に周辺を調べ出した。ライナーとセリもそれに続く。
……その時、4人に影がさした。彼らは空を見上げる。
「アレは……」
4人は我が目を疑った。
……そしてその後4人はダンジョンの一帯を調べた後、王都のラングレー侯爵邸に転移した。
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