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15 聖女サーシャ

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 パウロ王子は聖女オリビアの気迫に負け黙り込んだが、サーシャは聖女オリビアのその迫力に気付いていなかったのか勢いよく叫んだ。


「ッ私は! 私は公爵領なんて行かないわよ? 私は『聖女』なんだから! 王都ならともかく、公爵領なんてただの辺境じゃない!」


 …………あ。このパーティー会場の温度が5℃くらいは下がった、気がした……。


 俺は少し身震いしながらチラリと聖女オリビアを見た。……彼女はそれはそれは、恐ろしい位の美しい笑顔を浮かべていた。

 ……いや、俺には分かる。アレはめっちゃ怒ってるんだ。そしてこの会場内の温度を一気に引き下げているのは間違いなく聖女オリビアだ。


「……まあ……、ふふ。サーシャ聖女は私のお伝えした事が聞こえなかったのかしら。私は『陛下よりあなた方の今後を任されている』と、そう申し上げましたのよ?
そしてこれ以上この祝いの場を騒がす事はよろしくありませんわ。
パウロ殿下、聖女サーシャ様、そして大司教様? あなた方3人はこれから陛下の元へご挨拶に伺うべきですわね。……衛兵!」


 聖女オリビアは、今完全にこのパーティ会場を掌握していた。


「この方々を陛下の所にお連れしてください」


 有無を言わさぬその態度に、衛兵達はまるで聖女オリビアに使える部下のように速やかにその命に従った。
 パウロと大司教は最早逆らう気もないのか衛兵に促されると頷き歩き出したが、サーシャだけは暴れていたので衛兵2人に両側の腕を掴まれ連れて行かれた。

 そして3人はパーティー会場から居なくなった。


「……ステファン殿下」


 衛兵が彼らを連れて行ってから、聖女オリビアが俺の名を呼んだ。
 俺は一瞬驚いたが、一応王子としての威厳を保ちながらキリッとした顔を意識して答える。


「叔母上。此度はこの場を収めてくださいました事、感謝いたします」


 聖女オリビアは俺の言葉を聞きニコリと笑った。……これは絶対、『なんでこんな場くらい収められないんだ?』という苛立ちのこもった笑顔だ。


「……いいえ。教会の不届きでせっかくの卒業パーティーを騒がせてしまった事を心よりお詫び申し上げます」


 聖女オリビアはそう言って美しいカーテシーをしてみせる。


「そしてこの後は、ステファン殿下は愛しいご婚約者キャロライン様と仲睦まじく過ごされませ」


 そう女神の如き微笑みで言う聖女オリビアに、キャロラインはうっとりとした憧れの表情で聖女オリビアを見て礼をした。俺もそれに合わせて礼をしておく。
 聖女オリビアは満足げに笑い、『勿論、皆様方もですわよ』と会場内の人々に向かって言った。するとやっと会場内の人々は金縛りから解けたかのように動き出したのだった。



 ◇


 あの騒動の後はパーティーは和やかで皆と存分に楽しむ事が出来た。

 勿論、あんな騒ぎがあったので始めはその話題で持ちきりだったのだが。……そして俺とキャロラインは皆からたくさんの祝福と愛ある冷やかしを受けたのだった。


「キャロライン。……今日は王家と教会の揉め事に巻き込み、本当にすまなかった。しかし、あの後は私は貴女と過ごせてとても楽しかった。
明日王宮に来てくれた時、今日の騒ぎの全容を伝える事が出来ると思う」

「……ステファン殿下。最初の騒ぎには驚かされましたが、私もとても楽しゅうございました。
また明日、お会い出来るのを楽しみにしております」


 パーティー後、俺はキャロラインをルーズベルト公爵邸まで送り、彼女は俺を労るように微笑みそう言った。



 
 ……そして王宮に戻った俺は、国王の部屋に呼ばれている。

 きっと聖女オリビアにも話を聞けるはず。色々と謎が解けるはずだ。


「陛下。ステファンにございます」


 俺が国王の部屋に入室すると、そこには父である国王と側近が待っていた。……聖女オリビアは居ないようだ。


「おお、ステファン。パーティーでは騒ぎを許してしまい済まなかったな。キャロライン嬢は気分を害してはいなかったか?」


 俺の父親である国王陛下。王女むすめが居なかったせいかキャロラインをとても可愛がっている。


「キャロラインは最初あのような身の覚えのない誹りを受けた時は、かなりショックを受けていたようでした。また明日以降に陛下よりお声掛けをいただけましたら少しは彼女の心も晴れるでしょう」


 俺がそう言うと、国王はうむと頷いた。


「相わかった。そしてその原因を作った聖女サーシャの事なのだが……。結果的には聖女サーシャは生涯辺境の地の戒律厳しい修道院で過ごさせる事とする。今回王家の妃の選定に口出ししてきた大教会には国として厳しく抗議した。我が国の大司教はその地位を追われる事となるだろう。そしてこれからは新たな大司教選定には王家も関わる事を約束させる」


「……随分と手回しが良ろしいのですね」


 今日の出来事だというのにあまりの手回しの良さに俺は思わず国王をじっと見ながら言った。国王は苦笑する。


「そう言うな。ステファンよ。我らとて実際彼らがどこまでの事をしてくるのかは分かってはおらなかったのだ。オリビア聖女が教会の不審な動きを知らせてくれていたのでな。……そしてパウロの事も。出来ればパウロにはこのような事に関わって欲しくはなかったのだが……」


 国王が弟パウロの事を俺に話す事は余りない。王妃である母が俺を妊娠中に国王が侍女に手を付け出来た子であるパウロ。

 その当時散々責められ国民からの支持も減らした国王は、それ以来その元侍女である側妃とパウロを離宮に入れたまま最低限の生活は保障するものの関わる事は無いようだったし、彼らの話をする事も無かった。そしてその側妃も数年前に亡くなっている。

 
 ……要するに、国王はそれらを無かった事にしたいのだろう。




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