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16 国王とパウロ王子
しおりを挟む「……パウロは貴方の息子、この国の王子でありましょう。私が居なくなれば彼が王となる。今回のパウロの行動はある意味王位を狙ったものとも考えられますが……」
俺自身はパウロの事は、好きでも嫌いでもない。……むしろ状況的に相手がこちらを憎んでいるのだろうと察して、余計に距離を取ってしまった感もある。
そして今回分かったのは、おそらくパウロはずっとキャロラインの事が好きだった、という事。パウロは聖女サーシャに俺を誘惑させる事でキャロラインを俺の婚約者から外させたかったのだ。俺を王太子の座から引き摺り下ろす事が一番の目的ならば他にもっとやり方があったはずだ。俺が心変わりしキャロラインとの婚約を解消し、傷心のキャロラインをパウロが慰める……といったところか。兄の暗殺まで考えなかった事だけは褒めてやりたい。
俺が愛するキャロラインを手放すなんて事は絶対にないし有り得ないが、あれ程美しく愛らしいキャロラインに惹かれたパウロの気持ちもよく分かる。
『ねーちゃんの本』でも、ステファン王子がザマァ返しをされた後、王太子となったパウロは献身的にキャロラインを支え愛し合うようになっていた。パウロが今のこの段階で……いや昔からキャロラインを好きだったという事だろう。
そう考えたら、俺があの本の内容をひっくり返してパウロの未来を潰してしまった事に、少々罪悪感を感じる。
そんな考えに思い至り少し落ち込んだ俺に美しい凜とした声が掛かる。
「パウロ殿下は最初から聖女サーシャを唆しステファン殿下に近づけさせる協力をしていたのです。貴方様が聖女に惑い愚かな行動に出るように仕向けたのでございます。ですからステファン殿下がパウロ殿下に対して悪い事をしたなどと思う必要はございません」
「オリビア聖女様……。叔父上」
振り向くと、そこには叔父上と聖女オリビアが居た。
「おお。よく参った。待っておったぞ。2人には世話になった。特に聖女オリビアには此度の事、心より礼を言う」
国王はそう言って2人を労う。
叔父上と聖女オリビアは臣下の礼をとる。
「畏れ多い事でございます。……教会にしてもパウロにしても、聖女に愛を告げられれば王家の男は簡単に堕ちるとでも思っていたのでしょうか。
……愚かな事。私がオリビアを愛したのは『聖女』という理由では無いというのに」
叔父上はそう言って愛しげに妻であるオリビア聖女を見つめた。オリビア聖女も微笑み見つめ返す。
そして聖女オリビアはゆっくりと俺を見て言った。
「……実を申しますと、私も聖女に選定された当時は教会より出来るだけ高位貴族に近付くようにと言われておりました。そして先輩聖女の方々もそうであったようでございます。『聖女』をすぐに教会に入れず『行儀見習い』と称して王立学園に入れるのはそういう意味合いも大いにあったのだと思います」
……え。そうなの?
でもそれじゃ、聖女オリビアも教会の指示で叔父上に近付いたって事になるんじゃ……。
俺が思わず心配そうに叔父上を見ると、叔父は愉快そうに笑った。
「ははは……。イヤ、違うのだステファン。この華のようなオリビアと学園で運命的な出逢いを果たした時に私は彼女からその事を告白された。とはいっても咲きはじめの薔薇の様な初々しいオリビアからは決して私に近付こうとはしなかった。私が愛らしい彼女に一目惚れして自ら近付いた時にオリビアのその美しい唇から、『それでは教会の思うツボになりますが宜しいのですか?』と可愛く忠告されたのだよ」
……叔父の言い方が、なんだか少し鬱陶しい。
「うむ。弟から心に決めた女性が出来、それが『聖女』だと聞いた時には前国王夫妻も私も反対した。しかし彼女は生家が元々子爵家で生粋の貴族であったからか、『教会』というものに染まっていなかった。しかし『聖女』である以上王家に入るのはと渋るオリビア聖女とその彼女を心から愛している弟を見て、王家が『聖女オリビア』を囲い込み結婚後は教会の影響が届きにくい辺境伯として、弟と共に辺境の地へ行くという形で2人の結婚が許されたのだ」
叔父上と国王の言葉に俺は納得した。
……前世では『政教分離』と習ったけど。歴史的には色々あったんだもんな。この国でも教会と王家は互いを利用し合いながらも虎視眈々とどちらかを飲み込み権力を奪おうとしているということか。
「ステファン殿下が王立学園に入学され、その内また新たな『聖女』が送り込まれてくるのは陛下も分かっておいででした。しかもその『聖女』の養女先にパウロ殿下の母君のご実家の縁戚に当たる子爵家がなられた。代々の『聖女』は貴族の家にわざわざ養女になど入りません。それで特に今回は皆で警戒していたのです」
「私は側妃の実家である子爵家には特権などは与えておらぬ。その子爵家が動き、時々パウロがその聖女に関わっている。そしてその聖女がステファンに近付こうとしているとなれば当然パウロも良からぬ事を企んでいるという事。
……私はパウロが学園に入る前に一度パウロの将来について話をしてあった」
国王はそう言って最後神妙な顔をした。
「パウロと話を……?」
……俺は少し驚いた。国王はパウロからずっと距離をおき、まるで居ない者のように扱っていたからだ。
ああ、やはり父もパウロに対して多少なりとも親子の情はあったのだと少し安心して話を聞いていたのだが……。
「そうだ。……私はパウロにこれから愚かな振る舞いはすべきでは無い、慎ましく生きよと伝えたのだ。お前には王位継承権はないのだから、と」
「……ッ!?」
国王の言葉に俺は言葉を失う。
思わず凝視した俺に国王は更に続けた。
「……パウロは私の子では無い。当時侍女であった側妃が私に酒を勧め夜を共にしたと嘘を付いたのだ。……私も当時酩酊していて否定し切れず、とりあえず側妃としたのだが……。パウロが幼い頃にその証拠を見つけ密かに側妃は死を賜っている。その時にパウロにも話をした。罪の子とはいえ一度は我が子と思った子であり哀れでな……。学園を卒業したら密かに死亡した事にして地方で平民の官吏として暮らさせてやるつもりであった」
俺は国王の話を、そしてその様子を信じられない思いで見て聞いていた。
その話が本当だったとしたら、余りにもパウロが不憫じゃないか。
父である国王の口からこれ以上パウロに対する酷い扱いを聞くのは俺は胸が痛かった。
「……側妃様は病気で亡くなられたとばかり……」
「真実を公表する事も考えたが、必死に涙を堪え耐えている幼いパウロが哀れでな。それまでは我が子かも知れないと思っていたのだ。……しかし、それも仇で返されてしまった訳だが……。せめて側妃の実家の子爵家には罰を与えておくべきであった」
俺にはパウロの事を哀れと思っているとはちっとも感じられなかった。
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