3 / 27
3
フィーネは父であるマイザー伯爵から『シルビア マイザー伯爵令嬢』として生きる話をされた日に、すぐに実の母アンネに入れ替わりの話をした。
……母は父から既にこの話を聞いていたようだった。
そして母は意外なほどあっさりとフィーネが伯爵家に入る事を認めた。
母はエドガーを伯爵家に渡した事でフィーネをただ1人の子としてとても大切にしてくれていた。だからもっと酷く悲しむか父の事を恨んだりするのではないかと心配していたフィーネは少し意外だった。
そして母は今後は実家の田舎でのんびりと暮らすからそれまでの住み慣れた2人で住んだ王都の家を出て行くという。
突然の話にフィーネは驚き動揺した。母の実家の領地は馬車で5日はかかる距離なのだ。
「そんな……どうして? お母様……!」
「少し前から考えていたの。……故郷が懐かしくなったのよ」
「お母様が居なくなったら、私はどうしたらいいの……。時々は戻ってお母様と一緒に過ごしたかったの。色々話も聞いてもらいたかったのに……」
そう言って泣くフィーネに母は優しく見つめて言った。
「フィーネ。貴女は強く前向きな子だわ。貴女のこれからを信じてる。……愛しているわ」
そう言って母は優しく娘を抱き締め、フィーネも母に抱き付き2人は別れを惜しんだ。
───そうして母子は別々に生きることになった。
───『シルビア』として生きる事が決まったフィーネはマイザー伯爵家で暮らし始めた。
しかしそれからも、フィーネは『シルビアの婚約者』と会う事はなかった。こちらも出来れば会いたくはなかったが、侯爵家からも『多忙』との事で殆ど音沙汰はなかった。
フィーネとしては、まだ婚約者と会う自信もなかったのでかなりホッとしたのは仕方がないだろう。
……だけど侯爵家側から希望されての婚約だったはずなのに、こんなに放置だなんて。もしかして入れ替わりがバレたのではないかとフィーネはビクビクする日々だった。
そして月日は流れ、フィーネは『婚約者』と会うことのないままとうとう『シルビア』として王立学園に入学する日がやって来た。
「……この日までにシルビアが帰って来ればと思っていたんだけど……」
朝食を食べながらつい深いため息を吐いてしまう、シルビア15歳ことフィーネ19歳。
「失踪してから一月後には隣国で療養しつつ結婚出来る年齢になれば結婚すると手紙が届いたし、シルビアはもう帰っては来ない」
父はため息混じりにそう答えた。隣国は我が国より格段に医療の進んだ国だ。体の弱いシルビアが愛する人に大切にされ幸せに暮らしているのなら致し方ないとの考えに至っているようだ。
「往生際が悪くてよ。お前は義妹の幸せも願えないのかしらね。
……仮にもシルビアとして生きるのですから、恥ずかしくないよう振る舞いなさい」
伯爵夫人は横目でチラリとフィーネを見てすぐに視線を外し紅茶を飲んだ。
シルビア失踪からのこの数ヶ月、フィーネは夫人に徹底的に伯爵令嬢としての礼儀作法を叩き込まれた。元々男爵令嬢だったフィーネの母から基本は仕込まれてはいたのだが、義母の求めるレベルは高かった。今は義母を見ると鬼教官にしか見えなくなっている。
厳しい態度を崩さない夫人に父はフィーネを庇うように言った。
「……フィーネはよく頑張っている。それ程キツくしなくてもいいのでは……。そもそもシルビアは病弱で貴族の令嬢としての所作などはそれ程……」
「貴方は黙ってらして! ……この子の行動は全て我がマイザー伯爵家の恥になりますのよ」
夫人と父は事あるごとに言い争うのでフィーネとエドガーはその度に止めに入る。
しかし同居してから、夫人はただキツいだけの人でないとフィーネは感じていた。外では娘として大切にしてくれるし、家でも理不尽な事などされた事がないからだ。
「大丈夫ですわ、お父様お義母様。……ただ、もしもシルビアが戻って来たら居場所が無くなってしまわないかと……」
「相手の先生の家族からも責任を持って大切にすると侘びの手紙も来ていたし、それは無いと思うな」
姉に申し訳なく思いつつ、もう逃げ道はないのだと突き付けるしかないエドガー。
そんな弟を少し恨めしく見つつ、フィーネは決意して前を向いた。
義母も父も苦い顔をしつつ、そんなフィーネを見る。
今日からフィーネは15歳シルビアとして王立学園に通う事になるのだ。
───もう、やるしかない。
フィーネは決意も新たに進み出した。
あなたにおすすめの小説
処刑回避のため家出した令嬢は、男装騎士として運命をやり直す
松平ちこ
恋愛
一度目の十七歳の人生で、すべてを失った。ただ生きていただけなのに。
家族も、居場所も、そして――命そのものを。
次に目を開けたとき、カメリアは「過去」に戻っていた。
二度目の人生で彼女が選んだのは、貴族令嬢として生き直すことではなかった。
家族を守るために、男として身を隠し逃げることを決意する。
少年リンとして身を寄せた隣国アスフォデル国の教会で、前世では起こらなかったはずの王位継承を目の当たりにする。
冷酷無慈悲と噂される新国王ライラック・アスフォデルは、あろうことか、カメリアの家族がいるミレット王国へと宣戦布告の準備を始めたという。
その噂の真意を突き止めるため、リンは兵として志願し、潜入するとこを決意する。
けれど、彼女は知らなかった。
この世界には、彼女の「最期」を知る者がいることを。
逃げ続けた先で、リンはやがてミレット王国の闇と向き合うことになる。
そして明かされる真実は、彼女の選択すべてを揺るがしていく――。
これは、処刑された令嬢が生き直し、逃げたはずの運命に再び捕まる物語。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
行動あるのみです!
棗
恋愛
※一部タイトル修正しました。
シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。
自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。
これが実は勘違いだと、シェリは知らない。
政略結婚のはずが、完璧公爵の溺愛が子リス系令嬢を解き放ちました
宮野夏樹
恋愛
「冷徹」と噂されるヴァレリオ公爵ジュリアンと、淑女らしからぬ「男前」な本性を隠すリシェル伯爵令嬢。
政略結婚で結ばれた二人は、すれ違うばかりの初夜を過ごし、互いの距離は開く一方だった。
だが、ある秘密の趣味が露見したことで、完璧な公爵の仮面が剥がれ落ち、リシェルへの底なしの溺愛が止まらなくなる! 完璧主義の公爵が、リシェルを「可愛いもの」と認識した瞬間から、公爵邸は甘く蕩けるような空気に包まれる。
一方、執拗な嫌がらせを繰り返す邪魔な存在、シャルロッテの出現。
しかし、ジュリアンは「俺の可愛い妻を傷つける者は、決して許さない」と、その絶対的な愛と庇護で全てを排除。
そして、リシェルの長年のコンプレックスだった「男前」な本性も、ジュリアンの愛によって全て肯定され、真の幸福を掴む。
完璧公爵の強すぎる愛で、政略結婚から始まる「愛され新婚生活」は、予想もしない甘さで満たされていく——。
※以前投稿したものの修正版です。
読みやすさを重視しています。
おかげさまで、先行公開サイトにて累計100,000PVを突破いたしました!
感謝を込めて、記念の番外編をお届けします。
本日、改稿版もこれにて完結となります。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
節目には、達成祝いの話を投稿しますので、これからもヴァレリオ公爵家を温かく見守っていただけると幸いです。
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
【完結】フェリシアの誤算
伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。
正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。