サバ読み令嬢の厄介な婚約〜それでも学園生活を謳歌します!〜

本見りん

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 弟エドガーは17歳。学園では3年生で最終学年。フィーネは今年入学する1年生だ。

 そしてフィーネはシルビアとして世間に出るにあたり、大変身を遂げている。
 それまではいつも金に近い栗色の髪をポニーテールして元気いっぱいに動き回っていたが、今は体の弱い深層の令嬢として髪はハーフアップか緩い編み込み。楚々とした令嬢としての動き。身にまとう雰囲気が全く違っていた。
 父や弟でさえ一瞬誰だか分からなかった位で、万一フィーネ時代を知っている人に会ってもおそらくは分からないと太鼓判を押されている。



 そして今は学園に向かう馬車の中。今日から一緒に通う事になるエドガーはシルビアになりきるフィーネを心配そうに見ている。
 フィーネはそんな弟を少し困ったように見てから笑ってみせた。


「……エドガー。今日からよろしくお願いしますわね」


 フィーネが研究の末編み出した、『必殺・15歳儚げな病弱少女スマイル』を披露されたエドガーはゾワリと鳥肌が立つ。


「……うわぁ。やめて姉様、なんだか背中がゾワっとする……!」

「……うふふ。嫌ですわ、。私はあなたの妹シルビアでしてよ」


 せっかく編み出したフィーネ渾身の『新生シルビア』に思う所がありそうな弟エドガーの様子に、フィーネはにっこりと笑顔で『圧』をかける。


「~~~~ッ! 
……ごめん、伯爵家の為に姉様……シルビアは頑張ってくれてるのに……。今から僕もしっかりするよ。学園で何かあれば僕の所に来てよね」


 フィーネの『圧』が効いたのかエドガーはすぐに白旗を挙げた。フィーネは少し拗ねつつも頷いた。

 ……本当はフィーネだってこんな演技、やりたくてやっている訳じゃない。
 しかし、これは決まった事だ。これからの人生をフィーネは『シルビア』として……エドガーの妹として、生きていかなければならないのだから。
 そしてやると決めたからには徹底的にやり切らねばならないのだ。


「ありがとう。……ね、学園ではクレール様はどうされてるの? エド……お兄様ともずっと関わらなかったの?」


 フィーネはこれからの学園生活への不安を抱えつつ、隣の王立大学部に通う婚約者の動向を弟に聞いた。


「あ───、うん。基本クレール侯爵令息は学園時代は生徒会で殿下や高位貴族の方々と一緒におられたからね。僕とは学年も違うし特に関わりはなかったなぁ。
婚約が決まった時にはもう大学部に進級されていたし、心配しなくてもこのまま学園でもシルビアに関わってこないんじゃないかな?」

「───それって、クレール様本人が婚約者に関心が無いのか、それとももしかして本当のシルビアじゃないって気付かれてるのか……。もしもいきなり問い詰められたらどうしよう……! とぼけるしか、無いのだけれど……」


 婚約者に全く関心が無い男性もかなりの心配要素だが、学園で入れ替わりを暴露されでもしたら困る。

 フィーネはため息を吐いた。……考えるだけで胃が痛くなる。
  

「いやでも、もしクレール様が気付かれてるのなら家を通して言われると思うよ。昨今流行りの婚約破棄の小説じゃあるまいし、皆の前で正体を暴こうとしたりはしないでしょ」

「───でもバッタリ会ったら?」

「大学部と学園ではわざわざ会おうとしない限りは会えないよ。万一会ったとしてもお互い顔も知らないんだし、誰かから言われて知ったとしても後日家を通して言われると思う。───いきなり姉……シルビアが責められる事態にはならないと思うから安心して」


「……そうよね、そもそも顔も知らないんだもの……」


 そう考えてハタと気付く。

 ……そういえば、婚約してから……いや婚約する前から一度も会っていなかったというヴィルフリート クレール侯爵令息とシルビア。シルビアが身体が弱かった事からお互い遠慮もあり会えなかったのかと思ってもいたが……。

 しかしよく考えれば婚約した2人が一度も会った事がないなんていくらなんでもあり得ない。それに普通は病弱な婚約者に見舞いもしくは手紙などのやり取りくらいはあるものだろう。一応侯爵家からは時候の挨拶位は届くが、本人からの個人的なものは一度も無い。


「……どうしてクレール侯爵家はシルビアと婚約を結んだのかしらね」


「んー……。確かに一見我が家にだけ有利な条件を出していただいてるよね。領地が隣合わしてるからその関係だと思うんだけど。
なんだか姉……シルビアには難しい立ち位置に立たせちゃうね」


 エドガーもなんとも言い難い顔をした。
 クレール侯爵家の意図は分からないが、少なくともヴィルフリート クレール侯爵令息本人はマイザー伯爵家との縁談にそれ程乗り気ではないのだろう。


「ううん。……でも本当はこのままこちらを嫌がって、この婚約が無くなった方がいいと思うくらいだわ」


 フィーネはため息を吐いた。

 王国の高位貴族である『侯爵夫人』は重要な存在だ。侯爵家の後継を産み家や夫を支え社交をする。高位貴族にはするべき事求められる事はたくさんあるはずだ。フィーネとしては貴族として半人前の自分がなるのは問題があると思っている。

 ───けれど侯爵家はなぜ『病弱で表にあまり出る事のないシルビア』をその重要な存在である婚約者にと指名したのかしら。

 しかも婚約して一年近く経つが、2人は顔合わせすらしていない。初めエドガーはシルビアが病弱だから会う機会を逸したという見方だったようだが、会おうと思えば会う機会はあったはず。病弱なだけあってシルビアはずっと自宅にはいたのだから、一度でも婚約者の屋敷に訪ねて来れば会えたはずなのだ。

 もしかしてこれは侯爵家は元から、『婚約者シルビア』に何の期待もしていない? いやむしろ『婚約者』として存在するだけでいいと思っている……所謂『お飾りの妻』を求めているのではないかしら。
 このまま本当に結婚までするつもりなのか、それとも来るべき時期に婚約解消をするつもりの『形だけの婚約者』なのかは分からないけれど。


 お父様もお義母様も何も仰らないけれど、それが分かっているから『婚約者役』は私でもいいという結論になったのではないかしら?


「───だったら向こうはこのまま私に会いに来る事も、おそらく今すぐには『婚約解消』を望む事もない、という事なのよねぇ……」


 フィーネはそう呟きため息を吐いた。
 そんな姉を見てエドガーは困り切った顔をした。


 ───そしてその考えが合っていたのか、入学して隣り合わせた敷地にいるにも関わらず婚約者が訪ねてくる事はなかったのだった。


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