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『平凡令嬢』、縁談のススメ
しおりを挟むコンコン……
「……入りなさい」
ミランダはそろりと父の書斎に入り、勧められるままソファに腰を下ろす。
ここに呼び出される時は、大抵真剣な話だと家族全員が知っている。
父は何やら書類を持って向かい合わせたソファに腰を下ろした。
「……実はミランダに縁談が来ている」
─── やっぱり!!
「お父様……! 私、あと残り一年、もっと必死になって運命の相手を探しますから! お願いですから……お父様とそんなに歳の変わらない方との縁談はお許しください……!」
ミランダは必死で父にそう願い出た。
「ミランダ、落ち着きなさい。今回の新しい縁談はお前より一つ年上の方だ。……それに以前話した方達は、お前が学園の間にきちんと婚約者探しをする為に話しただけであって、決まりではない」
「えっ! そうなのですか?」
ミランダは、なんだか力が抜けた。
「ええーと、それでは今新たに縁談が……。ひとつ年上なら今学園を卒業されたばかりですのね。私も存じ上げている方でしょうか?」
いやでも、学園内でのミランダの評判は芳しくない。何せ『平凡令嬢』なのだから。
ひとつ年上なら、『平凡令嬢』の噂をいつまでも言っていたあの元クラスメイトではないという事よね?
シュミット伯爵は持っていた書類をミランダに渡そうとしていたが、その手を止め少し考える。
「……まあ一度、会ってみるといいよ。おかしな人物でない事は私が保証する。……これは相手の釣書なのだが敢えてまだミランダは見ない方がいいだろう。直接会って、『運命の相手』かどうかを見極めるがいい」
「はぁ……」
見合い相手に『運命』を求めるのは違う気がする。
気のない返事をしたミランダだったが、一度会う事は決定していたらしかった。
◇
───そしていよいよ明日がお見合いの日!
ミランダは隣領の友人ロミルダとお茶を飲んでいた。話を聞いて遊びに来てくれたのだ。彼女の領地の屋敷からミランダの屋敷まで馬車で2時間程で来ることが出来る。
「良かったじゃない、ミランダ。私の婚約者にお願いして誰か良い方を紹介してもらおうかと思ってたのよ」
「……ロミルダ。出来ればそのお話も同時進行でお願い。明日会う方が良い方とは限らないでしょう? 残り一年しかないのですもの。良い方をたくさんピックアップしておきたいの!」
「……やる気ね、ミランダ。でも昔から言っているけれど、運命の相手はやる気だけでは見つからないわ。お相手とのタイミングが合わなければ会っていたとしても分からないものなのかも。……きちんとお相手を、そのお心を見て差し上げてね」
「?」となったミランダだったが、現在相思相愛の婚約者のいるロミルダの言う事だから間違いは無いと心の中でメモを取っておいた。
そして、お見合い当日──。
約束の時間まで後2時間以上もあるのに、ミランダはもう完璧に準備が出来ていた。平凡令嬢ミランダでもちょっとは良い感じに変身出来たと本人も満足だった。
……しかし時間が近づくにつれミランダは緊張の余りかなりそわそわと落ち着きがなくなり、今はなんだか爆発しそうだった。
とにかく今まで両親の方針で婚約者選びはせず、ミランダは見合いなど初めてなのだ。
「お……お母様……。私、もうダメだわ。ちょっと庭でも見て落ち着いてくるわ」
「まあミランダ。ドレスを汚してはダメよ?」
家族皆にドレスや化粧を崩れる心配をされながら、ミランダは庭に出た。
「ふわぁーっ。トム(おじいちゃん庭師)は良い仕事してるわね! うちの庭園はその辺の大貴族の邸宅にも負けてないのよね」
などと、婚活から少し逃避してしまうミランダ。
もしや、コレから縁談が入る度にこんなに緊張して会わねばならないのか。いや皆こんな試練を乗り越えて来たというのか。
婚約が決まるまでコレが繰り返されるという事実に少し気が遠くなるような気持ちに苛まれながら、とにかく花に集中しようとミランダは非常に難しい顔をして美しい花を睨み付けるように見ていた。
「…………そんなに睨み付けて。花が好きだったんじゃなかった?」
「……へ?」
不意に話しかけられて驚いて横を見ると、そこには先日の卒業パーティーの当事者の1人だったマルクスが立っていた。
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