平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん

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『平凡令嬢』、再会する

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「ぎゃ! え? なに? マルクス様? なんでここに……。
あ、私は言われた通りあれからセイラ嬢には近付いていませんからね!」


 驚きの余り色気の無い声を出してしまってから、最後にマルクスと話した時のことを思い出したミランダは、ふん、どうだ! とばかりにマルクスを見て言った。


「……え? ああ……。……あの時は、済まなかった。殿下達と約束してたんだ。事が無事終わるまでは婚約者にも好きな人にも関わらないって。それで貴女に冷たい態度を取ってしまった」


 そう言って、マルクスは申し訳なさそうに頭を下げた。


「……は? 私は婚約者じゃないわよ? 好きな人でもないし…………え、好きな?」


 ミランダは『好きな人』と口にしてから、ナニソレ? と目の前のマルクスを見た。


「……ッ私は……、ミランダが好きだ。昔ミランダと約束したし、君が学園に入学したら婚約を申込むつもりだった」


 顔を真っ赤にさせてミランダを見てそう告白するマルクスに、ミランダは驚愕する。


「……へ? だ……だって……、私が入学した時にはマルクスは侯爵令嬢と婚約してたじゃない。それに私の事をマリアンネ様に『美しい君が目くじら立てるような相手じゃない』って、そう言っていたわ!」


 あの時の事は、忘れようとしても忘れられない。あの後、何度もあの時の事を夢に見てうなされ目が覚めた事もあったくらいだ。


 ミランダは恨みがましげにマルクスを見た。


「……! 本当に、済まなかった……。私はミランダを領地のパーティーで会った時に好きになった。……コレは本当だ! けれど侯爵令嬢が俺を気に入ったとかで、親は俺の話も聞かず話を受けてしまったんだ」


 ……ああ、そういえば元婚約者であるマリアンネも言っていた。マルクスを好きになり親に頼んで婚約をまとめてもらったと。


「でも私が会いに行った時、あなたは私を『平凡令嬢』で相手になんかしないって言ったわ」


 少し勢いを削がれつつも、ミランダはやはりまだあの時の事に怒りを覚えていた。


「……あの時そう言ってミランダから離れなければおそらく彼女は君に酷い嫌がらせをしただろう。侯爵家という立場で俺を婚約者にまでしたんだ。その立場を揺るがす者を彼女やその家族は決して許さなかっただろう」


 ……ぞくり。

 二度対峙したマリアンネは、確かに特に最初それほどの勢いでミランダを責めてきた。
 あの時はあの場だけで済んだから良かったが、長引けばミランダの学生生活は勿論のことシュミット伯爵家ごと侯爵家によって立場を危うくされていたのかもしれない。

 だけど……。


「……それで? 晴れて侯爵令嬢との婚約は解消されたから私を思い出したってこと?
───馬鹿にしないで! 婚約者がいるのに他の令嬢の所に行くようないい加減な人、私は好きになんてならないわ!」


 ミランダは、悔しくて涙が流れていた。

 だって、マリアンネも泣いていた。彼女だって本当にマルクスが好きだったのだ。

 そして、ミランダもあの時のマルクスの冷たい瞳に打ちのめされた。そして目の前でセイラを愛しげにエスコートし理由も聞かずミランダを責め彼女を庇っていた。……あの時のミランダはマルクスに腹を立てる事で、その哀しみから目を逸らしたのだ。

 あんな不実をするような男性、好きになんてなれない……!


 ミランダはマルクスをキツく睨みつけた。


「ミランダ……!」


 マルクスはそう呼びかけて手を出して来たが、ミランダはそれを振り払い屋敷に走って逃げた。



「あらぁ? ミランダちゃん、慌ててどうしたの? 雨でも降って来たの?」


 ミランダが走って戻って来たので、義姉は驚いて聞いて来た。


「……ううん。ちょっと、虫に驚いただけ。お客様が来るまで部屋で休んでるわ」


「そうなの? じゃあ時間が近くなったら呼びに行くわ。それまでゆっくりしてらっしゃい」


「……ええ」


 そして部屋に戻って、ミランダは声を押し殺してひとしきり泣いた。


 
 ◇


 お見合いの時間の少し前に、ミランダは泣いて化粧の崩れた顔と髪を侍女にこっそり直してもらった。


「ミランダ、お相手の方がもうすぐおみえになりますよ。そろそろ居間にいらっしゃい」


 母が娘の部屋に来て、2人は一緒に居間へと向かう。


「……ねぇ、お母様。お母様はどうやってお父様が『運命の相手』だって分かったのですか? 会えばこの人だって分かるのですか? 
……そしてその想いはずっと変わらない?」


 ミランダは今のまとまらない自分の気持ちを整理したくて尋ねた。
 母は少し驚いた顔をしてから、優しく微笑んだ。


「……ふふ。最初は全く分からなかったわよ? お父様と初めて会った時にはこの人だけはないなと思ったくらいよ。それに『ずっと変わらない』かはまだ分からないわ」


 母は『お父様には内緒ね』と笑いながら教えてくれた。


「……この人はないって思ったのに、何故かお父様がいつも視界に入るの。そしていつの間にか目で追ってしまっていた。そしていつしかお父様と目が合って、お互い少しずつ近付いて……、ふふ。運命って、自然と引き寄せられるものなのかしらね」


「自然と、引き寄せられる……」


 幸せそうに微笑む母を、ミランダは少し羨ましく思った。



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