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第10章 レイコさんは自重しない
第10章第024話 鉄道説明会 その1
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第10章第024話 鉄道説明会 その1
Side:ツキシマ・レイコ
はい。鉄道説明会の会場となる、正教国の会議場です。
日本の国会議場に似た半弧な卓配置で、一回り狭いくらいでしょうが。この時代の会場としては結構広いですよ。
私はレッドさんを抱っこして、祭司に案内されて議場に入ります。
また私が最後に入場ですよ。でもってこれまた、皆が立ち上がって出迎えてくれます。…議長席に座っているリシャーフさんが私を見て、またぷるぷるしています。
前側に正教国を除く二十五国。後に二十三領、各々に三名分の席ですが。ネイルコード勢は、今回は説明する側として議場の前側に座していますので、一国分空いています。
エルセニムは、その空いているネイルコードの席とダーコラ国の席の間。今はアトヤック殿下とマーリアちゃんがそこに座っているのが見えます。
私は、議長席の左側、ネイルコード勢の隣に座ります。なんか豪勢な椅子ですね。隣の台の上に、これまた豪勢なクッションが置いてあって。そこにレッドさんを置きました。
それを確認したリシャーフさんが三回杖で床を叩くと、皆が着席します。
「クー…」
…寝ていても良いですよ。え?視線が煩わしい?
あまり顔を動かさないようにして、会場のお歴々を見渡すと。
ん?老眼鏡を付けている人がちらほらいますね。ネイルコード製かな? フレームと会わせての完成度は、ネイルコード製が一番です。
老眼鏡は、必要な人にはもうなくてはならない物です。つまり、それなりのお歳で眼鏡をする人は、書類をきちんと読む人なのです。
「まずは。本会議に、並べた国々が参加してくれたことに感謝する。今回は、鉄道という画期的な輸送手段を大陸に張り巡らせることについて国々の間で調節することを目的としたものだが。国を跨ぐとなれば、ただ単にこの鉄道を敷けばよいというものではなく。直截なところでは税や人の入出国の管理に、物の価格や交易する産物の移動制限。間接的には、新しい輸送と経済に対応できる人材の育成、法の整備。あらかじめ論じるべきところは数多である。すでにたたき台がネイルコード国より出されているが、正教国としてもそれらを批准する用意がある。そしてそれらはすでに各国に伝達と説明がされているであろう」
リシャーフさんの説明演説です。正教国の議長しゃべりだそうです。
根回しというと裏工作的イメージがありますが。そもそもの目的は会議の省力化でもあります。疑問点を一々会議で説明するのも時間の無駄ですからね。とはいえ。クラウヤート様曰く、真剣に話を聞かなかった国がいくらかあるそうで…
正教国が批准するとなれば、ネイルコードから正教国間の鉄道はすでに決定しているのも同然ですが。聞いてないよ的な顔をしている参加者がちらほら。部下に任せて自分は大して関与していないってパターンかな? うん、眼鏡かけていない。
「よって本会議では、趣旨については簡略で済まし、質疑応答と各国の意思表明を主とすることになるが。その前にいくつか伝達事項がある。セイホウ王国使節の方々、ロトリー国使節の方々。お入りくださいませ」
リシャーフさんが壇上から降りて、使節団が入ってくるのを出迎えます。
セイホウ王国使節団一行、代表はカラサーム大使。
ロトリー国使節団一行、代表はネイト殿下。…アライさんは緊張していますね。
カラサームさん達はともかく。ネイト殿下達が入ってくると、一部がざわざわとします。
「セイホウ王国使節団、カラサーム大使以下一行。ネイルコードとセイホウ王国が国交を結び、交易を行うこととなったため。鉄道による物流は当然陸上の話だが、海運との連携も必要である。その一環として、セイホウ王国にもこの会議に参加してもらうこととなった」
リシャーフさんが説明して、壇上をカラサーム大使に譲ります。
「いくつかの国とは交流を持たせていただいていますが。このたび、東の大陸との交易に伴い、大陸との交流を強化する運びとなり。セイホウ王国、国王ウェルタパリア・デール・テルレイ陛下の名代として本会議に出席する運びとなりましたカラサーム・ハルク・ビシャーランと申します。列席の皆々様方には、今後も良い関係をと思っております」
礼をするカラサームさんに、会場のほとんどの人が返礼します。
宗主国…というほどではないにしろ、大陸の人々の起源であることも確かってことで、露骨に見下す人もいません。
続いてリシャーフさんが、ロトリー国の紹介をします。
「かつて帝国があった東の大陸。そこで先代の赤竜神の巫女様の庇護を受けて建てられた国がロトリー国である。彼らはわれわれとは違う姿ではあるが。街を建て、船で大海を越え。南から上ってくる魔獣を退けた、歴とした文明国である。セイホウ王国とは密かに交流があったが。このたび、レイコ様が渡航され誼を結ばれた。東の大陸にも有用な資源があり、ネイルコードが交易を行うために国交を模索している。その一環として、ネイルコードの船の帰還に同行されたのが、ロトリー国の王太子殿下ご一行である」
リシャーフさんが、議席の位置をネイト殿下に譲ります。
「西の大陸のお歴々にこ挨拶申し上ける。あなた方か東の大陸と呼ふ場所に構えられたロトリー国。我はその国の王太子ネイト・ロトリー・ナインティーンスてある。八百年前、先代の赤竜神の巫女様の導きにより、我らは帝国の跡地に国を興した。そして今、今代の巫女様の導きにより新しい巫女様やネイルコーととの縁を結ふことが出来たことは、このうえない僥倖てある。願わくはこの縁か久しくなることを切に願う」
多少ラクーン訛りが出るとは言え。威厳を持って語るネイト殿下。見た目は直立している茶色いパンダですが。衣装も王族に恥ずかしくないキッチリしたものです。
礼をするネイト殿下。返礼したのは半分くらいでしょうか。びっくりして礼を忘れたか。見た目で侮っているのか。
アライさんはずっとエイゼル市にいましたので。彼らのことを実際に見たり、噂に聞いた人はいるでしょうが。多分
、動いているラクーンを実際に見るのは初めてという人が多いでしょう。ほとんどの人が目をまん丸にして驚いていますね。
「帝国の魔女とは、実は東の大陸に降りられた先代の赤竜神の巫女様であり、先年までご健在であったが。こちらのレイコ様らが昇天されるのを看取られている。いや、亡くなられたわけではなく、文字通りの昇天であり。赤竜神の手を借りて、次なる新天地を目指して星の海に旅立たれたのだ」
あらかじめ打ち合わせた説明ですが。あの現象を普通の人でもわかるとおりに説明するとこんな感じでしょうね。
「発言を。あの…帝国を滅ぼしたのは…その先代の巫女様なのでしょうか?」
席の方から質問が出ます。帝国の魔女が帝国を滅ぼしたというのが、俗に流れている説となっていますが。
「詳細については、教会から説明をまとめたものを公式に出し配る予定だが。先に簡単に言えば、帝国が滅びた原因は天災であったそうだ」
リシャーフさんがこちらを見たので、私が説明を引き継ぎます。天文現象となると、ちょっと難しいですからね。
「私が、先代の巫女から直接話を聞きました。簡単に説明すると、神の御座の星の一つが爆発し、死に至る悪い光が短い時間ふり注ぎました。そのとき、丁度神の御座が天頂に来ていた東の大陸では、その光によって地に潜っていた生き物以外はほとんど全滅となりました。神の御座の見えていなかった東の大陸以外に植民していた人達は助かりましたが」
「発言を。その…神の御座の星の爆発は…天罰とかではないのですが?」
赤竜神は、信仰の対象でもありますが。恐ろしい竜の姿もしています。なにか怒りに触れて滅ぼされるのでは?という畏れは、信仰を持つ人は多少なりとも持っているようです。
「星の爆発ともなると、赤竜神でもどうにも出来ません。遙か遠くにあるので小さく見えますが、大抵の星は太陽より大きいのです。爆発の前兆があると言っても見た目で予測できるのは万年単位の話で。その悪い光が届く直前に、先代の巫女に警告を出すのがやっとのようでした」
超新星になるサイズの恒星ですからね。質量で最低で大鷹の8倍。体積で何百倍となるでしょう。
「ギリギリで助かった僅かな人をセイホウ王国に送り出し、先代は帝国の宮殿で眠りにつきました。動物が死に絶えた大地に緑が戻ったころ、その南に位置する大陸からラクーン…ロトリー国の方達が帝国の跡地にたどり着きました。目を覚ました先代巫女は彼らを助け、現在に至る…という感じですね」
大分はしょりましたが。魔女の正体が、東の大陸を守護していた先代の巫女ってところが伝わればOKです。
遙か昔の真実が今ここにってことで、皆が感慨に浸っていますが。主旨はこれからです。
「さて。鉄道会議と東との交易の話をする前に。巫女様から提言がある」
リシャーフさんが説明してくれます。先に正教国で認めていることを宣言してくれた方が早いです。
まずは、ロトリー国人でもある種族ラクーンを、人と同等に扱うこと。ラクーンの人権の確立。
山の民やエルセニム人への差別の撤廃。奴隷身分の撤廃。刑罰における連座の廃止。裁判無しの処罰の禁止。
人権とは。すなわち生存権、財産権、自決権。人とラクーン全てにおいて、等しくこれを認めること。
文章にすると簡単ですが。王侯貴族の既得権益に干渉する部分はけっこう多そうです。…まぁ、知ったこっちゃないと言いたいところですがね。
「正教国、ネイルコード、ダーコラ。さらにセイホウ王国とロトリー国では、すでにこれらを批准することは決定している。逆に言えば、これらを批准しない国とは、鉄道や海運、それにネイルコード発の奉納の使用権利も与えられない。当然だな、こちらの国が相手国の国民を守っても、相手国はこちらの国の国民を守るとは限らないということなのだから。そのような国と交易はできないであろう」
これも、驚いている国は少ないですね。実際、現在根回しの段階で同意していない国領は4つだけだそうです。
「もちろん、犯罪の刑罰としての奴隷とか。借金による就労拘束は仕方ないところだが。犯罪奴隷にしても報復的な扱いはさせない。借金奴隷は転職の自由のない就労という形態とすることになる」
会議参加者から意見が出ます。
「発言を。ロトリー国の方々については特に意義はないのですが。すでに財産として扱われている奴隷を放棄しろというのは、補償無しでは難しいのでは」
要は、解放してもいいけどお金を払えってことですね。大枚払って買った奴隷を解放なんて、簡単に容認できませんか。でも。
「その奴隷は、どのような経緯で奴隷に?」
「発言を。…自身や親族の生活費や借金の形として売られた。捕虜となったけど返還交渉がなかった。…この辺ですか」
「親族に売られた場合は、連座撤廃に伴い、売った親族の借用となります。奴隷期間中の労働を給金として計算し。それを当人の財産とするか返済に充てるかは当人の選択となる。場合によっては、売った親族の借金を戻す可能性もあるだろう。捕虜の場合は、元の国が責任をもって身代金を支払うこと。徴用した平民だとしても、戦争に駆り出してそまま放置なんてあり得ない。これは国や領の義務である」
まぁ、戦場で行方不明になった雑兵に興味がなかったのかもしれませんが。委細が公表されて国が兵士を見捨てたなんてことを広められては、次に徴兵した途端に反乱を起こされます。嫌でも対処せざるを得ないでしょう。
「山の民やエルセニム人というだけで奴隷にしているところは、今後は無条件で犯罪扱いとする。本人に犯罪歴や借金がないのなら、直近の生活を保障した上で即時解放をしてもらう。買っただけというのなら、彼らを奴隷にした者をまず検挙してもらう」
何の罪科もない人を奴隷に出来る法律を持っているところはない…という調べは出来ています。人ではないものを捕らえただけだから、捕まえた者に権利があるという、曖昧な慣習だけ。
まぁ当人達から事情聴取して、あとから補償金を追徴することもあるでしょうが。今それを言うと、口封じに始末されかねませんからね。
「関税や領内の税率についても、鉄道敷設国に調節を求めます。」
これまたいくつかの国から動揺が起きます。…そんな大事の会議になるとは、想像していなかったようですが。
「何度も言うが、鉄道は複数の国を跨いで敷設するものだ。国境跨いだ途端に通行税を取るとか、ここの国の法律だから荷物を接収するとか、乗客を拉致とか、そのような暴挙が許されるような余地は残さない。法律と税制の調節は、鉄道を繋げる国の条件としては当然だろう」
まぁ国際鉄道なわけですから、当然の折衝案件ですね。
「そして後二件。説明会の前に知らせておくことがある」
リシャーフさんが続けます。
「まず、エルセニム国がネイルコード国に臣従、エルセニム辺境領となることが決まった。近年の人材と経済の交流と、エルセニム北側からネイルコード領への接続の目処が立ったため。両国のつながりを密にする必要性を感じたエルセニム国側が決断した形だ」
この辺からは、本当に初発表です。
驚く国は半分くらい?
見ている分には、多分エルセニムのような森の中の小国がどこに属しようが関係ないという面持ちと。またネイルコードが大きくなるという妬念。雰囲気的には半々ですかね?
「もう一つ。私リシャーフ・クラーレスカ・バーハルと。エルセニム国皇太子…まもやくネイルコード国エルセニム辺境候嫡子となるか、アトヤック・エルセニム・ハイザート卿との婚約をここで発表させていただく。」
「「「!!!っ」」」
…今度は本気でざわざわとする会議場です。
Side:ツキシマ・レイコ
はい。鉄道説明会の会場となる、正教国の会議場です。
日本の国会議場に似た半弧な卓配置で、一回り狭いくらいでしょうが。この時代の会場としては結構広いですよ。
私はレッドさんを抱っこして、祭司に案内されて議場に入ります。
また私が最後に入場ですよ。でもってこれまた、皆が立ち上がって出迎えてくれます。…議長席に座っているリシャーフさんが私を見て、またぷるぷるしています。
前側に正教国を除く二十五国。後に二十三領、各々に三名分の席ですが。ネイルコード勢は、今回は説明する側として議場の前側に座していますので、一国分空いています。
エルセニムは、その空いているネイルコードの席とダーコラ国の席の間。今はアトヤック殿下とマーリアちゃんがそこに座っているのが見えます。
私は、議長席の左側、ネイルコード勢の隣に座ります。なんか豪勢な椅子ですね。隣の台の上に、これまた豪勢なクッションが置いてあって。そこにレッドさんを置きました。
それを確認したリシャーフさんが三回杖で床を叩くと、皆が着席します。
「クー…」
…寝ていても良いですよ。え?視線が煩わしい?
あまり顔を動かさないようにして、会場のお歴々を見渡すと。
ん?老眼鏡を付けている人がちらほらいますね。ネイルコード製かな? フレームと会わせての完成度は、ネイルコード製が一番です。
老眼鏡は、必要な人にはもうなくてはならない物です。つまり、それなりのお歳で眼鏡をする人は、書類をきちんと読む人なのです。
「まずは。本会議に、並べた国々が参加してくれたことに感謝する。今回は、鉄道という画期的な輸送手段を大陸に張り巡らせることについて国々の間で調節することを目的としたものだが。国を跨ぐとなれば、ただ単にこの鉄道を敷けばよいというものではなく。直截なところでは税や人の入出国の管理に、物の価格や交易する産物の移動制限。間接的には、新しい輸送と経済に対応できる人材の育成、法の整備。あらかじめ論じるべきところは数多である。すでにたたき台がネイルコード国より出されているが、正教国としてもそれらを批准する用意がある。そしてそれらはすでに各国に伝達と説明がされているであろう」
リシャーフさんの説明演説です。正教国の議長しゃべりだそうです。
根回しというと裏工作的イメージがありますが。そもそもの目的は会議の省力化でもあります。疑問点を一々会議で説明するのも時間の無駄ですからね。とはいえ。クラウヤート様曰く、真剣に話を聞かなかった国がいくらかあるそうで…
正教国が批准するとなれば、ネイルコードから正教国間の鉄道はすでに決定しているのも同然ですが。聞いてないよ的な顔をしている参加者がちらほら。部下に任せて自分は大して関与していないってパターンかな? うん、眼鏡かけていない。
「よって本会議では、趣旨については簡略で済まし、質疑応答と各国の意思表明を主とすることになるが。その前にいくつか伝達事項がある。セイホウ王国使節の方々、ロトリー国使節の方々。お入りくださいませ」
リシャーフさんが壇上から降りて、使節団が入ってくるのを出迎えます。
セイホウ王国使節団一行、代表はカラサーム大使。
ロトリー国使節団一行、代表はネイト殿下。…アライさんは緊張していますね。
カラサームさん達はともかく。ネイト殿下達が入ってくると、一部がざわざわとします。
「セイホウ王国使節団、カラサーム大使以下一行。ネイルコードとセイホウ王国が国交を結び、交易を行うこととなったため。鉄道による物流は当然陸上の話だが、海運との連携も必要である。その一環として、セイホウ王国にもこの会議に参加してもらうこととなった」
リシャーフさんが説明して、壇上をカラサーム大使に譲ります。
「いくつかの国とは交流を持たせていただいていますが。このたび、東の大陸との交易に伴い、大陸との交流を強化する運びとなり。セイホウ王国、国王ウェルタパリア・デール・テルレイ陛下の名代として本会議に出席する運びとなりましたカラサーム・ハルク・ビシャーランと申します。列席の皆々様方には、今後も良い関係をと思っております」
礼をするカラサームさんに、会場のほとんどの人が返礼します。
宗主国…というほどではないにしろ、大陸の人々の起源であることも確かってことで、露骨に見下す人もいません。
続いてリシャーフさんが、ロトリー国の紹介をします。
「かつて帝国があった東の大陸。そこで先代の赤竜神の巫女様の庇護を受けて建てられた国がロトリー国である。彼らはわれわれとは違う姿ではあるが。街を建て、船で大海を越え。南から上ってくる魔獣を退けた、歴とした文明国である。セイホウ王国とは密かに交流があったが。このたび、レイコ様が渡航され誼を結ばれた。東の大陸にも有用な資源があり、ネイルコードが交易を行うために国交を模索している。その一環として、ネイルコードの船の帰還に同行されたのが、ロトリー国の王太子殿下ご一行である」
リシャーフさんが、議席の位置をネイト殿下に譲ります。
「西の大陸のお歴々にこ挨拶申し上ける。あなた方か東の大陸と呼ふ場所に構えられたロトリー国。我はその国の王太子ネイト・ロトリー・ナインティーンスてある。八百年前、先代の赤竜神の巫女様の導きにより、我らは帝国の跡地に国を興した。そして今、今代の巫女様の導きにより新しい巫女様やネイルコーととの縁を結ふことが出来たことは、このうえない僥倖てある。願わくはこの縁か久しくなることを切に願う」
多少ラクーン訛りが出るとは言え。威厳を持って語るネイト殿下。見た目は直立している茶色いパンダですが。衣装も王族に恥ずかしくないキッチリしたものです。
礼をするネイト殿下。返礼したのは半分くらいでしょうか。びっくりして礼を忘れたか。見た目で侮っているのか。
アライさんはずっとエイゼル市にいましたので。彼らのことを実際に見たり、噂に聞いた人はいるでしょうが。多分
、動いているラクーンを実際に見るのは初めてという人が多いでしょう。ほとんどの人が目をまん丸にして驚いていますね。
「帝国の魔女とは、実は東の大陸に降りられた先代の赤竜神の巫女様であり、先年までご健在であったが。こちらのレイコ様らが昇天されるのを看取られている。いや、亡くなられたわけではなく、文字通りの昇天であり。赤竜神の手を借りて、次なる新天地を目指して星の海に旅立たれたのだ」
あらかじめ打ち合わせた説明ですが。あの現象を普通の人でもわかるとおりに説明するとこんな感じでしょうね。
「発言を。あの…帝国を滅ぼしたのは…その先代の巫女様なのでしょうか?」
席の方から質問が出ます。帝国の魔女が帝国を滅ぼしたというのが、俗に流れている説となっていますが。
「詳細については、教会から説明をまとめたものを公式に出し配る予定だが。先に簡単に言えば、帝国が滅びた原因は天災であったそうだ」
リシャーフさんがこちらを見たので、私が説明を引き継ぎます。天文現象となると、ちょっと難しいですからね。
「私が、先代の巫女から直接話を聞きました。簡単に説明すると、神の御座の星の一つが爆発し、死に至る悪い光が短い時間ふり注ぎました。そのとき、丁度神の御座が天頂に来ていた東の大陸では、その光によって地に潜っていた生き物以外はほとんど全滅となりました。神の御座の見えていなかった東の大陸以外に植民していた人達は助かりましたが」
「発言を。その…神の御座の星の爆発は…天罰とかではないのですが?」
赤竜神は、信仰の対象でもありますが。恐ろしい竜の姿もしています。なにか怒りに触れて滅ぼされるのでは?という畏れは、信仰を持つ人は多少なりとも持っているようです。
「星の爆発ともなると、赤竜神でもどうにも出来ません。遙か遠くにあるので小さく見えますが、大抵の星は太陽より大きいのです。爆発の前兆があると言っても見た目で予測できるのは万年単位の話で。その悪い光が届く直前に、先代の巫女に警告を出すのがやっとのようでした」
超新星になるサイズの恒星ですからね。質量で最低で大鷹の8倍。体積で何百倍となるでしょう。
「ギリギリで助かった僅かな人をセイホウ王国に送り出し、先代は帝国の宮殿で眠りにつきました。動物が死に絶えた大地に緑が戻ったころ、その南に位置する大陸からラクーン…ロトリー国の方達が帝国の跡地にたどり着きました。目を覚ました先代巫女は彼らを助け、現在に至る…という感じですね」
大分はしょりましたが。魔女の正体が、東の大陸を守護していた先代の巫女ってところが伝わればOKです。
遙か昔の真実が今ここにってことで、皆が感慨に浸っていますが。主旨はこれからです。
「さて。鉄道会議と東との交易の話をする前に。巫女様から提言がある」
リシャーフさんが説明してくれます。先に正教国で認めていることを宣言してくれた方が早いです。
まずは、ロトリー国人でもある種族ラクーンを、人と同等に扱うこと。ラクーンの人権の確立。
山の民やエルセニム人への差別の撤廃。奴隷身分の撤廃。刑罰における連座の廃止。裁判無しの処罰の禁止。
人権とは。すなわち生存権、財産権、自決権。人とラクーン全てにおいて、等しくこれを認めること。
文章にすると簡単ですが。王侯貴族の既得権益に干渉する部分はけっこう多そうです。…まぁ、知ったこっちゃないと言いたいところですがね。
「正教国、ネイルコード、ダーコラ。さらにセイホウ王国とロトリー国では、すでにこれらを批准することは決定している。逆に言えば、これらを批准しない国とは、鉄道や海運、それにネイルコード発の奉納の使用権利も与えられない。当然だな、こちらの国が相手国の国民を守っても、相手国はこちらの国の国民を守るとは限らないということなのだから。そのような国と交易はできないであろう」
これも、驚いている国は少ないですね。実際、現在根回しの段階で同意していない国領は4つだけだそうです。
「もちろん、犯罪の刑罰としての奴隷とか。借金による就労拘束は仕方ないところだが。犯罪奴隷にしても報復的な扱いはさせない。借金奴隷は転職の自由のない就労という形態とすることになる」
会議参加者から意見が出ます。
「発言を。ロトリー国の方々については特に意義はないのですが。すでに財産として扱われている奴隷を放棄しろというのは、補償無しでは難しいのでは」
要は、解放してもいいけどお金を払えってことですね。大枚払って買った奴隷を解放なんて、簡単に容認できませんか。でも。
「その奴隷は、どのような経緯で奴隷に?」
「発言を。…自身や親族の生活費や借金の形として売られた。捕虜となったけど返還交渉がなかった。…この辺ですか」
「親族に売られた場合は、連座撤廃に伴い、売った親族の借用となります。奴隷期間中の労働を給金として計算し。それを当人の財産とするか返済に充てるかは当人の選択となる。場合によっては、売った親族の借金を戻す可能性もあるだろう。捕虜の場合は、元の国が責任をもって身代金を支払うこと。徴用した平民だとしても、戦争に駆り出してそまま放置なんてあり得ない。これは国や領の義務である」
まぁ、戦場で行方不明になった雑兵に興味がなかったのかもしれませんが。委細が公表されて国が兵士を見捨てたなんてことを広められては、次に徴兵した途端に反乱を起こされます。嫌でも対処せざるを得ないでしょう。
「山の民やエルセニム人というだけで奴隷にしているところは、今後は無条件で犯罪扱いとする。本人に犯罪歴や借金がないのなら、直近の生活を保障した上で即時解放をしてもらう。買っただけというのなら、彼らを奴隷にした者をまず検挙してもらう」
何の罪科もない人を奴隷に出来る法律を持っているところはない…という調べは出来ています。人ではないものを捕らえただけだから、捕まえた者に権利があるという、曖昧な慣習だけ。
まぁ当人達から事情聴取して、あとから補償金を追徴することもあるでしょうが。今それを言うと、口封じに始末されかねませんからね。
「関税や領内の税率についても、鉄道敷設国に調節を求めます。」
これまたいくつかの国から動揺が起きます。…そんな大事の会議になるとは、想像していなかったようですが。
「何度も言うが、鉄道は複数の国を跨いで敷設するものだ。国境跨いだ途端に通行税を取るとか、ここの国の法律だから荷物を接収するとか、乗客を拉致とか、そのような暴挙が許されるような余地は残さない。法律と税制の調節は、鉄道を繋げる国の条件としては当然だろう」
まぁ国際鉄道なわけですから、当然の折衝案件ですね。
「そして後二件。説明会の前に知らせておくことがある」
リシャーフさんが続けます。
「まず、エルセニム国がネイルコード国に臣従、エルセニム辺境領となることが決まった。近年の人材と経済の交流と、エルセニム北側からネイルコード領への接続の目処が立ったため。両国のつながりを密にする必要性を感じたエルセニム国側が決断した形だ」
この辺からは、本当に初発表です。
驚く国は半分くらい?
見ている分には、多分エルセニムのような森の中の小国がどこに属しようが関係ないという面持ちと。またネイルコードが大きくなるという妬念。雰囲気的には半々ですかね?
「もう一つ。私リシャーフ・クラーレスカ・バーハルと。エルセニム国皇太子…まもやくネイルコード国エルセニム辺境候嫡子となるか、アトヤック・エルセニム・ハイザート卿との婚約をここで発表させていただく。」
「「「!!!っ」」」
…今度は本気でざわざわとする会議場です。
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