暑い景色と冷たい温もり

撫でたココ

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一章

むか~しむかし

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 僕の昔の話をしよう。

 とある真実を知ったのは、母親との何気ない会話からだった。

 幼稚園から帰り家で暇を持て余していたとき、ふと母親にこう問いかけた。

「外にも部屋にも赤いものがいっぱいだね~~」

 そのときの母親はきっとキョトンとしていたに違いない。僕の言っていることが分からず、理解出来なかった母は、

「どれが赤いの?」

 と僕に聞いた。

 母親の質問に対して無垢な子どもだった僕は見たままをそのまま伝えようと

「机とかね、椅子とかね、置いてあるもの全部~」

 と答えた。

 しかし、どれもそんな色ではなく机は茶色で椅子は白だし、コップは透明だ。むしろ赤と呼べるものは置いてなく明らかに言っていることがおかしかった。

 この頃からすでに僕が見ている景色はみんなとは違っていたのだ。もちろん外見は周りの人と何一つ変わらない。変わっているのは目から見えている全てのものが赤いということ。赤と言っても水墨画のように濃淡があって一色というわけではない。それでも、普通の人が見ている光景とは違うのだと思う。

「本当に、本当に赤いの?」

「うん。赤いよ」

「いつからかわかる?」

「ん~わかんない。ずっと赤かったよ」

「そっか。赤いのか」

「うん!」

 自分の見えているものが真だと疑わず無邪気に返事する僕を見た母親は泣きそうで、困ったようなとても複雑な顔をしていた。

「ママも赤いよ」

「そうだね・・・」

 このときの母親は放心状態で頭はまわっていなかった。自分が産んだ子どもが何かの病気かもしれなくて、異常なものなのかもしれないから。

 知らなければそれまでだった事実を知ってしまったことでひとつ、ひとつと溢れていく意識の破片。溢れていくことで自分を陥れ始め何がダメだったのかと自己嫌悪をしてしまう。

「ママ?」

「大丈夫だよ」

「ママ?」

「大丈夫。大丈夫だから。」

 問いかける僕は母の顔を覗き込んで何回も呼んだ。どうしようもなさそうな顔をしていて不安だったんだと思う。ただ、笑って返事をしてもらいたくて何回も何回も呼んだ。

 何回呼んだのだろうかわからない。

 最後に母親が、

 僕の頭を優しく何も言わずに撫でた。包み込むように柔らかい手のひらで。

 幼かった僕は

 どうしたんだろう。

 いつもと違う母親を見てそうとだけ思った。

 そして、このときが僕の普通じゃない症状が表に顔を見せた瞬間だった。
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