暑い景色と冷たい温もり

撫でたココ

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一章

母親

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「おかえり日南汰」

「ただいま」

 いつもの通りドアを開けると母親の一言。部屋は当たり前に明かりが灯っている。この明かりは僕のことを考えて少し柔らかい明かりにしてくれている。毎日過ごすのに少しでも快適になるように。

 僕はキッチンで料理している母親を一瞥すると、自分の部屋に向かった。

 カバンを放り投げすぐさまベッドに横になる。すると、思い出すのは今日の出来事。小香花にきつく当たってしまったこと、朱華莉に言われたこと、そして何よりまだ認められていなかったことへの寂寥感。過信はしない性格のつもりだったけど今回のことはとても心にきた。

 どうしたらいいんだろう。

 友達は数えるほどしかいない僕にとっては、こういう時の対処のしかたがわからない。ただ嫌な気持ちだけが積もっていく。だんだん何がなんだがわからなくなって、頭の中がぐちゃぐちゃになる。

 僕はため息をついて考えることをやめた。


「日南汰~~ご飯~~」

 下の階から聞こえてくる、はっきりした声。

「今行く」

 頭の中に湧き出したものを無理やりどかすようにして、勢いよく階段を降りた。


 今日のご飯は、里芋の煮物と、鯖の塩焼き、サラダだった。お味噌汁は豆腐とワカメのシンプルなもの。僕は母親と向かいの席に座って、ご飯を食べる。

 うちには2人しかいない。僕と母親の。僕の父親は、僕が普通ではないと知り何に耐えられなくなったのか出て行ってしまったらしい。3人でも広かったこの一軒家はさらに広く感じてしまう有様だ。

「日南汰。なんかあったの?」

 家族団らんの時間。食事の時には、その日の出来事を軽く伝えるのが日課になっていた。昔は、伝えることなんてなくてその時間が嫌だったりしてたのだが、楽しいことが増えて最近はよく話すようになっていた。

「いや、なんにもないよ」

「いつもだったら、楽しそうに学校の出来事話すのに」

 箸を進めながら、本屋で本のタイトルをぼんやり眺めるような感覚で話を聞いていた。

「いいんだよ。話して。楽しくなくたっていいんだから。」

 いつだって優しい母親に、気づけば今日の出来事を話していた。

「小香花と言い争いをしたんだ。きっかけは僕の態度でムシャクシャしてて気づいたら大声をあげてたんだ。それから謝りに行った。ちゃんと理由を話した。だけどダメだった。謝りはできたし、弁解はできたと思う。でもダメだったんだ。」

「お母さんはね、日南汰が今何に頭を抱えてるのかはわからない。だけどね、人を信じることをやめちゃいけないと思うよ。お母さんは、お父さんと離婚してそれでも日南汰だけは育ててきた。少し違うところがあったって大丈夫だって信じてたから。だから信じることだけはやめちゃいけない。」

 信じること。待ち続けること。それが小香花にとって最も救いとなるなら・・・

「ほら、この話はこれくらいにしてさっさと食べてお風呂に入りなさい。早く早く。」

 お母さんには敵わないな。

 もう少し小香花を信じてみよう。

 彼女が本当の姿を見せてくれると信じて。
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