暑い景色と冷たい温もり

撫でたココ

文字の大きさ
22 / 31
一章

待つ勇気

しおりを挟む
 柔らかい陽射しがカーテンの隙間から入り込み朝を運ぶ。暑さを感じさせない澄んだ空気は、少しずつ秋の訪れを予感させていた。

「・・・・・起きるか」

 気だるげな体を起こし、しばらくぼけっとその辺を見つめる。やがて思い立ったように不意にベッドから立ち上がると、制服に着替え、荷物を持ってリビングへ降りて行った。


 気乗りしない足取りの中、いくら遅くても歩けば学校に着く。

 小香花に謝らないと。

 このことだけが頭を巡って、血と一緒に全身を駆け巡る。

 しかし、放課後になっても小香花とは会わなかった。学校を1日休んでいて話すことができなかった。

 なんとしてでも今日伝えないと。

 話し合うまで捨てきれないいろんな不安要素を抱えて、小香花の家まで走って行った。


「この前ごめん」

 小香花の母親に家に入れてもらい、今は小香花の部屋にいる。

「もう大丈夫だから・・・」

 淋しそうに、吐き捨てるように言ったその言葉はどう考えても言葉通りには聞こえなかった。

「いつまででも待つから。小香花が話してくれるのを。僕もさ、人には言えないことがある。そのことを知られるのが怖くて深く関わらないで生きてきた。でもさ、小香花にあってこういうのも楽しいなって思えたんだ。だからさ、いつか言える日が来たら聞かせてよ、その時に僕も君に秘密を話すから。」

 黙って聞いている彼女の目にはうっすらと涙が。

「う・・・うっ・・・」

「小香花?」

「怖かった。怖かった。」

「ごめん小香花。」

「ありがとう」

 僕たちはそれ以上何かいうことはなかった。小香花が泣き止むまで。何分たったのかわからない。ただ泣く小香花を前にして頭を撫でていた。

「う・・・・・・」

「もう平気?」

「・・・・・うん」




 日焼けした空をよそにひとり家路に着く。言っておかなければいけないことは言ったと思う。あとは今まで通り生活して行くだけだ。焦らずゆっくりと。

 思い返してみれば突然の連続だったように思う。小香花にあったのも、付き合うことになったのも。それでいてこれだけ僕と小香花が仲良くできてるのはひとえに小香花のおかげなんだろうなと思う。

 人生に想いを老けるように、いろんなことを思い出しながら、とほとほと歩く。

 もう家は目の前。

 玄関のドアを開け、今日も母親の第一声を聞く。

「おかえりなさい」

「ただいま」

 僕は安堵の表情で明るく返事をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんとの親子丼をちょっと書きたくなっただけです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...