君の瞳に映るのは希望か絶望か

撫でたココ

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 彼女が轢かれた。

 僕は何が起きているのかわからなかった。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「おい、どうなってんだよ」

「とりあえず救急車だろ」

「早く安全なところに運ぼう。手伝って!」

 周りの人たちが様々な感情をあらわにする。その声を聞いてようやく状況を掴めた。

「・・・・・・・・・ねぇ、大丈夫だよね?」

 僕は震えてる足を動かして、大人たちが彼女を運んでくれたところまで移動した。

「・・・・・ねぇ、返事してよ。・・・・・嘘だよね。・・・・・大丈夫だと思ったのに。心配と・・・」

 彼女の頭からは血が流れていた。身体はぐったりとして動く様子はない。処置の仕方をしっている人たちが懸命に動いてくれている。何度も心臓を押し、人工呼吸を施す。何度も、何度も。しかし、彼女は動かなかった。

「僕の前で、、僕の前で死なないでよ。まだ、、大丈夫だよね。きっと助かるよ。だから、頑張って。ねぇ、頑張ってよ。だって、だって、まだ、名前だって知らないんだ。こうしていても名前も呼んでやれない。また、奢るから。お願いだから。約束だったんだ。約束だったんだよ。だから、お母さんと同じようにいなくならないでよ・・・・・。」

 僕の声が聞こえたのだろうか。彼女の手がピクリと動いた。

「まだ救急車は来ないのか!」

「早くしないと、」

「大丈夫かな」

 周りの人たちも不安そうに彼女を見つめている。そんな中で、少し、ほんの少し目が開いた。

 うっすら開けた目で、僕の方を見て、静かに微笑んだ。

 そして、僕の目には彼女の静かな微笑みと、彼女を不幸にした、憎たらしい数字が映った。


 0.500 24 12 24 12 12


 部屋が日の出とともに明るくなっていき、僕は目を覚ました。カーテンから漏れる光を見て今日は晴れだろうと直感した。となりの時計は8時25分を指している。

 しかし、そんな清々しい天気とは裏腹に、僕は昨日あったことを思い出す。守りきれなかった彼女のことを。名前も知らなかった、あの彼女のことを。

「そういえばあの後僕はどうしたんだろうか。」

 何で家にいるのかも覚えていない。それほど、冷静ではいられなかったのだ。あんな瞬間を見て仕舞えば、誰だって冷静ではいられない。

 彼女はもうこの世にはいない。死んで、、、

「うっっっっえぇぇぇ、、、」

 昨日のことを思い出し身体が拒否反応を起こす。僕はすぐにトイレに駆け込み、便器に身をかがめた。

「ぇぇぇ、、、、、」

 しばらくその体勢のままでいると少しずつ落ち着いてきた。僕はゆっくり立ち上がり、トイレの水を流すと、洗面所に行き口をゆすいだ。それでも、まだ少しの吐き気と倦怠感は残ったままだった。今日の授業は休んでしまおうかと思ったが、今日から夏期休業だったことに気づき、じゃあ、もう何もする必要はないと、再びベッドに潜り込み、昨日のことを忘れるために深く深く眠り込んだ。
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