君の瞳に映るのは希望か絶望か

撫でたココ

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彼女

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「ちょっとは落ち着いた?」

 僕たちは今、朝一の授業をサボって、近くのカフェに来ていた。

「はい。」

 さきほど、みっともない姿を見せた僕は、なんとか気持ちを落ち着かせこうして彼女と対面している。

「それならいいけど。それで、ちゃんと説明してくれるんでしょうね?」

 飲んでいたアイスティーを一度置き、彼女はこう切り出した。その言葉は以前にも聞いたことがあるような言葉だ。

「説明、しなきゃですよね。」

「当たり前でしょうよ。あなたが何を言っているのかさっぱりわからなかったんだから。」

 そうか。やっぱり彼女はあの日のことを何にも知らないんだ。僕はここで改めてこの事実を知った。

「わかりました。でも、あんまり、信じてもらえる自信はないです。」

「とりあえず話しなさいよ。信じるなんてのはそれからでしょ?」

「そう、ですね。じゃあ、夏休み直前の話から・・」

 僕はこの前置きから、少し長い、嘘みたいな出来事を少しずつ語っていった。

 僕が財布を落としたことで、話をし始めたこと。それから、お昼ご飯を一緒に食べにいったこと。その帰り道で車に轢かれたこと。そしてそれ以降の僕のこと。

 たどたどしかったかもしれないが、自分が出来うる限りのことを話した。

「これで、全部です」

 全て言い終えた後、彼女の方へと視線を移動させると、彼女は大きく息を吸って、深呼吸をした。

「そう。なんていうか、現実離れした話ね。とてもじゃないけど、信じられそうにないわ・・・」

「そうだよね。ごめん、忘れてくれていいや。じゃあ、僕は行くからさ。意味わからない話をしてもしょうがないもんね。聞いてくれてありがとう。じゃあ、また。」

 そういって、椅子を引いて立ち上がろうとすると

「待ちなさいよ。まだ、最後まで話し終わってないでしょ。最後まで聞きなさいよ。」

 彼女の声はいつもの怒ったような声ではなくて、息子と喧嘩した次の日の母のように、どこか優しげな声だった。

 僕は浮いた腰を一度椅子へと下ろした。

「えっと、、、」

「信じられそうにはないけど、あなたには、そんな悲しそうな顔はして欲しくない。なんでだろう、今日会ったばかりなのに、そんな顔して欲しくない。」

 不思議な感じがした。あったかくて少し嬉しかった。全然覚えてないのに、母親はこんな風だったのかな、なんて思ったりもした。

「えっと、一つだけお願いがあるんです。」

「なによ?」

「名前を教えてくれますか?」

「なによ、いまさら。私は〇〇。」

「そっか。〇〇さんか。よかった。」

 僕はいつのまにか救われていた、目の前の彼女に今救われた。

「それより、授業サボっちゃいましたね。すみません。」

「ほんとよ。これは確実にあなたのせいね。」

「はい。」

「ってことは、あなたには罪を償ってもらう必要があるわけね」

「あっ、と、そうですね。」

「なら、明日買い物に付き合いなさい。明日、授業はある?」

「3限までです」

「そう。それなら授業が終わったら駐輪場集合にしましょう。3限ってことは3時には終わるわよね。」

「はい。」

「そう。じゃあ、よろしくね。私より遅かったら許さないんだからね。」

 そういった彼女の声はいつものように怒りっぽくて、でも少し茶目っ気があった。

 そして、その日初めて見た彼女の瞳には、

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 と小さく写っていた。
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