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昔々の母のこと
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「いい?千隼」
僕のお母さんはいつもこの前置きからこういった。
「人の心は数直線じゃ表せないんだよ。」
これが母親の口癖だった。
「何言ってるのか全然わからないよ。」
そして僕もまた、母親にたいしてこうやっていうのが口癖だった。
「いいのよ。わからなくても。千隼のお父さんは頭のいい人だから。いろんなものをしっかりと見ないと気が済まないの。だけどね、人にはもっと、大事なものがあるのよ。」
「なに、それ?」
「それはね、数直線じゃ表せないものなの」
「お母さん、なに言ってるの?」
こうやっていつも話は堂々巡りするのだ。母親は肝心なところをいつも教えてくれなかった。数直線じゃ表せない、の一点張りだった。
「そのうちわかるようになるわよ」
この言葉で締めくくると、思い出したようにご飯の準備や、洗濯、掃除などの家事に戻っていった。
その母親はもういない。
僕は何故かふと思い出した母親の面影を脳裏に焼き付けて、事故らないように周りに目を配りながら、自転車を漕いだ。
アパートの上からほんの少し顔を出していた夕陽がゆっくりと姿を消していった。
僕のお母さんはいつもこの前置きからこういった。
「人の心は数直線じゃ表せないんだよ。」
これが母親の口癖だった。
「何言ってるのか全然わからないよ。」
そして僕もまた、母親にたいしてこうやっていうのが口癖だった。
「いいのよ。わからなくても。千隼のお父さんは頭のいい人だから。いろんなものをしっかりと見ないと気が済まないの。だけどね、人にはもっと、大事なものがあるのよ。」
「なに、それ?」
「それはね、数直線じゃ表せないものなの」
「お母さん、なに言ってるの?」
こうやっていつも話は堂々巡りするのだ。母親は肝心なところをいつも教えてくれなかった。数直線じゃ表せない、の一点張りだった。
「そのうちわかるようになるわよ」
この言葉で締めくくると、思い出したようにご飯の準備や、洗濯、掃除などの家事に戻っていった。
その母親はもういない。
僕は何故かふと思い出した母親の面影を脳裏に焼き付けて、事故らないように周りに目を配りながら、自転車を漕いだ。
アパートの上からほんの少し顔を出していた夕陽がゆっくりと姿を消していった。
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