君の瞳に映るのは希望か絶望か

撫でたココ

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買い物ののち

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「あのさ・・・」

 僕たちはショッピングモールに来て、真っ先にカフェに入り、ようやくそこから出て買い物をしようといているところだ。

 そして僕は今、買い物をしようとか啖呵を切ったにもかかわらず、残念なことを言い出そうとしている。

「なによ?」

「今すぐ家に帰った方が安全だよね・・・多分」

 考えてみればその通りである。死ぬかもしれないという事実を告げた以上、なるべくハプニングが少ないところにいるべきだ。

「でしょうね。でも私一人暮らしだから、その、帰って一人でいるのは、ちょっと怖いし。」

「そっか。それは確かに。一人暮らしだと、心細いか。」

 そのまま、少しだけ互いに無言のまま2店舗ほど通り過ぎた。買い物に来ているのに、二人してこれほどまでに浮かない顔をしている客もなかなかないだろう。

「・・・だから、あなたが家に来てくれてもいいのだけれど、、、」

「・・・えっと、それでいいのなら行きます。流石に引き返せないといいますか、なんというか。」

「なら、夕食の買い出しだけして帰りますか」

「そうだね」

 不思議なぎこちなさで会話をすすめ、ようやくこれからの予定がざっくりと決まった。このぎこちなさのおかげか、彼女の口調も覇気がなく、歯切れが悪かった。

 でもこれなら、大丈夫だろう。家に入って仕舞えば、問題ない。後は家までの道のりで、自動車に注意するだけだ。それと後は電車くらいか。

「いつも自炊してるの?」

「まぁだいたいわね。」

「それなら良かった。じゃあ、美味しいご飯が食べられそうだ。」

「あなた、手伝う気はないわけ?私が包丁使って死んでも知らないわよ?」

「その冗談は笑えないね・・・」

 そんな風に雰囲気は次第に良くなっていき、冗談が言い合えるまでになった。気持ちが沈んでいるよりははるかにいいだろう。暗い心持ちでは、先が思いやられてしまう。

 ぐだぐだと不安を埋めるようにして、くだらない会話を続けながら、彼女の家を目指して、最寄りの駅まで到着した。懸念していた、自動車との事故や、駅のホームから落ちるようなことは起きなかった。

 気づけばあたりは暗くなってきていた。それでも人が見えないほどではないし、自動車が通れば音もあるのですぐにわかる。

 僕はズボンのポケットから携帯を取り出し、さりげなく時間を確認すると、すでに19時を過ぎていた。

「ここから、どれくらいで着くの?」

 さすがに帰るのが遅くなりすぎるのは良くない。深淵もまたこちらをみているのだから。

「20分ってところ。」

「20分か。まぁさっさと帰っちゃおうか。」

 ぐだぐだと話していたとはいえ、気を抜いているわけではない。ここまで、気を張り続けるのも限界だ。自分の家ではないにしても、早く家に入って一息ついてしまいたい。

「そうね。もう疲れたわ。」

 まわりが徐々に暗くなっていくことでの不安もあったのだろう。僕たちは少しペースを早めて、彼女の家まで歩いた。

 駅を出てすぐは大通りだったが、駅から遠ざかるにつれて、車通りも人通りも少ない道になっていった。あんな話をしてしまったので、数少ない人が通るたびに体が強張り、過ぎ去っては弛緩する。2人で夕方の闇に怯えながらも、なんとかアパートの前までついた。

「ここが、私の家」

「やっとついたね」

 この言葉は本当だった。おそらく20分もかからずに着いただろうが、もっと長い時間歩き続けたような気がする。

「私の部屋は203だから、2階。さっさと上がっちゃいなさい。」

「そうするよ」

 僕は買い出しの荷物を持っている手の肘を軽く曲げ復路を軽く持ち上げて、階段の1段目に足をかけた。緊張していたからか、思ったように足が上がらなかったものの、登れないほどではなくリズムよく登っていった。階段の登る音は2つしている。おそらく、すぐ後ろには彼女もいるだろう。

 もうあと2、3段で登り終わる。そのタイミングだった。

 袋を持っていた方の足が思うように上がらず次の段差の高さまで上がり切らなかった。

 疲れもあり、重心を前に持ってこれず、僕はそのまま後ろに倒れた。

 彼女も一緒に。

「あっ、」

 踏み外した瞬間、これはまずいと自覚した。これでは悪魔の思う壺だ。このまま倒れてしまうの危険だ。

 そうは思っても身体は一切反応しなかった。

「いやっ、」

 ドミノ倒しのように、倒れた僕と一緒に彼女も、投げ出された。

 ドンッ

 彼女が頭から転落した。
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