君の瞳に映るのは希望か絶望か

撫でたココ

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病院

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 病院にいると告げられた次の日。土曜日であるこの日は授業を入れてないので、大学に行く必要はない。大学に行く必要がないということは、何か予定でもない限り外に出ないということでもあった。

 昨日、最後までどう連絡を送ったものか思いつかず送らなかったことを未だに引きずっている。とはいえ、もうだいぶ時間が過ぎてしまった。もうこれから何かアクションを起こすことはやめておこう。僕は結局、自分の意気地のなさを肯定し、何もしないことを選択した。

 さっきまで9時だったのに気がつけば正午になっている。何を食べに行こうかな。それよりさきに着替えを済ませてしまうか。外に出れば食べたいものは見つかるだろう。

 僕はなんのあてもなく、財布と携帯を持って昼飯を食べに外に出ることにした。

 連絡が来たのは昼飯を食べている時だった。

 詳しいことはわからなかったんだけど、ちょっと身体がダメみたい。

 僕はもしかしたらという思いのまま置き去りにしていた可能性に打ちひしがれることになった。不安はあった。見て見ぬ振りをしていた不安が。それと同時に期待もあった。これ以上は何も起こらないであってほしいという期待が。

 君は今、どこにいるの?

 病院。大学の近くの。

 じゃあ、今から行くよ。

 304号室だから。待ってるわね。

 そんな、この文章だけを見ればどこにでもありそうな会話。飾り気のないこの会話に、僕は何か既に失われてしまっているような気がした。

 病院につき、304号室に入ると、当然のように彼女はそこにいた。白衣みたいな服を着ている。その服のせいもあって余計に弱っているように見えてしまう。僕はその彼女を含めた一室の風景が、時の狭間にあるような、世界のあらゆる事象が放り出された無の空間のように思えた。その空間の中では、言葉が届かない気がした。いや、ただ話始めがわからなかっただけなのかもしれない。だから僕はすぐそこにいる彼女に携帯で連絡を取った。

 具合は?

 今はなんともない。

 ならよかった。

 普通に生活しても問題はないとは言われた。ただ、心臓発作みたいな突発的な症状が出るかもって。

 それはどうしようもないの?

 わからない。

 そっか

 僕は弱虫だった。直接的には何も聞けない。そして、励ますべきなのか、おどけるべきなのか、自分の取るべき行動がわからない。だから、彼女の言葉を待つことしかなかった。

 もうちょっとこっちに来てくれる?

 僕は彼女の望み通り、近寄ることで返事をした。僕はゆっくり彼女に近づいてそばまで寄った。すると彼女は手を振りかぶって、僕の頭を盛大に叩いた。

「何辛気くさい顔してるのよ」

 ここで始めて彼女の声を聞いた。

「なんていっていいかわからなくて」

 0.0000000279

「なによ。ただ、たまに動悸が激しくなるだけよ。あなたは死が近過ぎてそれしか考えられないの?」

「いや、、、」

「そう簡単に人は死なないのよ?」

「君に言われても説得力ないよ、、、」

「なによ?私は死んだことないわよ?」

「まぁそうだね」

 それは君からしたらなんだけどね。僕からしたら君は2度も死んでるんだから。

「明日には退院するわ。来るかわからない発作をっていてもしょうがないもの。」

「そっか。学校には来れる?」

「午後からね」

「よかった。なんていうか、君がいないと騒々しさに欠けるからさ。」

「もっと言葉を選びなさいよ。」

「君がいないと寂しいみたいだ」

「・・・恥ずかしいじゃない。」

「言葉を選んでみたんだけど」

「センスが足りないわね」

「じゃあ、なにが正解だったの?」

「う、うるさいわね。今日はもう帰りなさい。」

「まだそんな時間たってな、、、」

「いいから!」

 やけに恥ずかしそうにしてる彼女を見て、今日はこれ以上は何かいっても取り合ってくれそうにないと感じやむなく病室を後にした。

 家への帰り道。自転車を漕ぎながら彼女のことを考える。おそらく彼女が言っていた発作みたいなものというのは本当なのだろう。彼女の目に見えた0.0000000279という数字がそれを物語っている。身体に腫瘍ができるタイプの病気なら、もっと高くてもおかしくない。だけど、何か重要なことを隠しているようにも見えなくもない。

 ともあれ、普通の生活に戻れるならそれに越したことはない。

 僕は交差点のたびに左右をしっかりと確認し、事故のないように家まで漕いだ。
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