君の瞳に映るのは希望か絶望か

撫でたココ

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経つ

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 気づけば何日も過ぎていた。あれ以来僕は彼女にはあってはいなかった。明日こそは来るといってたけど、来なかったのだ。

 それから僕は彼女に会う前の生活に戻った。なんとなく連絡するのが気まずくてズルズルとそのまま生活していた。スマホを開いては彼女になんて連絡しようかと考えてやめる。気づけば1週間が経っていた。

 でも今日はいつもと違った。何がそうさせたのかはわからない。ただ、病院に行く必要がある。そう思ったんだ。虫の知らせとでも言うべきか。とにかく、行かないと。

 朝から気が気でなく、病院に向かってすぐに出発した。一週間も悩んでいたのに、なんで踏み出すとこうも簡単に歩けてしまうのだろう。悩んでいた時間が無駄みたいじゃないか。彼女の顔を一目みたい。そうすれば全てが丸く収まる。そうだ。なんで連絡よこさないのよって言って笑ってくれればそれでいいんだ。それだけで。

 自転車を全速力で漕いで病院に着いた。息を切らして、彼女の病棟に向かう。彼女がいるのはすぐそこ。扉を開ければ、笑って出迎えてくれる。いや、怒ってるかもしれない。長い時間待たせてしまったのだから。それでも構わない。だから、早く逢いたい。

 急いで運ぶよ!

 すぐ準備して!

 大丈夫ですか?〇〇さん?聞こえますか?

 大丈夫だからね。落ち着いて呼吸してね~。吸って~吐いて~。


 0.7000000000000 

 通り過ぎる担架。304号室から運ばれてきた担架は慌ただしく目の前を過ぎて行った。304号室。それは彼女がいるはずの部屋だった。

 いそいで304号室のドアを開けた。冗談じゃない。彼女はこの部屋にいるはずなんだから。

 開けた先には誰もいるはずはなかった。さっき運ばれたのは彼女だ。間違えなく彼女だ。

 彼女は絶望的な数字を背負っていた。きっと助からない。今までもそうだった。すぐに遠くに行こうとする。

「ねぇ。どうすればよかったのかな。」

 君のいないベッド。きっとこれから手術をするのだろう。危ない手術を。それは失敗してしまうのだろう。もっと早くきていれば、結果は変わったのだろうか。君を毎日見ていれば回避できたのだろうか。

 涙が、涙が溢れてきた。ごめん。シーツが涙で濡れちゃうや。でも、もう関係ないか。このベッドもこの部屋ももう彼女が使うことはないのだから。

「ごめん」

「助けてやれなくて、ごめん」

 ベッド脇の丸椅子に座ったまま、眠ってしまった。


 暖かな温もり。ふわふわの毛布にくるまって寝ているみたいだ。いや、もしかしたら日差しの下、木の影で寝ているのかもしれない。ともかく、そういう場所にいる。母親に抱かれていたときのような、柔らかな感触の中にいる。明るいのに、眠りを邪魔しない。ずっとずっと眠っていられる気さえする。

 母さんか。懐かしいな。もっといろんな話をして、思春期に喧嘩をして、旅行に連れて行って。いろんなことをしたかったな。知っていればやれたこともあっただろう。

 暖かい。

「、ぃぁ、ぇん、、、」

「ぃんぁい、しぅぃな、ぁ、」

 声が聞こえる。そっか。

 やっぱりあったかいな。

「そろそろ起きなさいよ」

 そうだね。このまま、ずっと寝ているのもよくない。

 あれは夢だったのか、あるいはそういう気持ちになっただけか。

「いたっ」

 頭を上げようとすると、誰かに頭を叩かれた。

「ゆっくり眠れたみたいね」

 いつの間にかベッドには彼女の姿があった。

「なんで、、、」

「なによ?ちょっと外出てただけじゃない」

「だって、だって急いで運ばれてたから。」

「急いで?」

「みんな慌ててて、君の部屋から担架が出てきて、運ばれて行ったから。」

「、、、見ていたのね」

「もうダメなのかもって」

「勝手に死ぬわけないでしょ?」

「君はすぐにいなくなるから」

「しょうがないでしょ。私にはそんなつもりないんだから。」

「それは、そうだけど、」

「なら文句いわない!ほら、こっちにきなさい」

 座っていた椅子を少し彼女の方に引きずる。

「また心配かけたのね。ありがとう。」

 彼女が僕をそっと抱きしめてくれる。その温もりがとても暖かい。

「心配だったんだ」

「そうね。心配かけたわ。」

「また、死ぬんじゃないかって」

「うん。」

「心配だったんだ。」

「うん。ありがとう。」

 とてもとても暖かい温もりだった。
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