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心
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昨日のことを思い出すと恥ずかしくなってしまう。みっともない姿を見せてしまった。
そして、念のために彼女に電話をかけた。呼び鈴が鳴ってる時ほど妙に緊張することはない。彼女は普通に出てくれた。
朝早くから何のようなの?と少し機嫌悪そうだった。それがとても嬉しかった。彼女はまだ、入院している。それでも僕の心は随分軽くなった。一度、運ばれるところまでいったのにおかしなことではある。でも、なぜか距離が近くなった気がした。彼女が生と死の間にいた彼女が生に戻ってきてくれた気がしたんだ。
「特に用はなかったんだ。」
「相変わらずの心配症ね。」
「いや、そういうわけじゃなくて」
「寂しかった?」
「…簡単に言うのなら。」
「可愛いじゃない。」
「もう、切ります。」
「あなたが電話してきたんじゃないの。」
「切るからね。」
「はいはい。今日来てくれる?」
「うん。行く。」
「待ってるよ。」
涙が出てきた。彼女と出会ってから何度も生きてるということを実感させられる。彼女の声がとても愛しかった。緊張からの弛緩。緩んだ涙腺からの安堵の涙。
早く会いに行こう。
その前にはまず授業を受けないと。授業なんか受けてる場合ではないし、授業に身が入るとも思えない。それでも、授業に出ないと彼女に何か言われてしまうだろう。だから、まずは授業を受けに行かないと。
病院の丸椅子。長い時間座るとお尻が痛くなる。それでも彼女のそばに居れるのならそれで。そばに居れるならなんだっていい。
「結局いつまで入院なの?」
「来週には退院できると思うけど」
「本当に?あんなに切迫詰まったみたいな状況だったのに。」
「あれは何かしらね。たまたま餅を喉に詰まらせたみたいな感じかしら。」
「よくわらないよ」
「私だってわからないわよ。あんな…」
「まぁ君がわからないなら、僕にもわからないか。」
「そうね。」
「………ごめんね。こんな会話するつもりなかったんだ。」
「何よ急にしおらしくなって。別にたいした話じゃないでしょう?わからないことをわからないって言っただけなんだもの。会話にすらなってないわよ。」
「うん。でも、こんなことじゃなくて。君に伝えたいことがあったんだ。」
君のそばにいることができるように。そういれるようなことを。
「なに?」
伝えたら驚くかな。喜ぶだろうか。もしかしたら無反応なんてこともあるかも知れない。
「僕と、僕と付き合ってくれたらなって。」
無反応だった。どこか遠くを見ているように見える。
「聞いてる?」
「…聞いてるわ。」
「えっと…返事…」
「…あなたは私のこと好き?」
「もちろんだよ。」
「…そう。…だけど、もう、だめなの」
「え…どういうこと…」
「君は、君は私といるといつも苦しそう。私のために怯えて、私のために恐れて、私のために苦しんで。もう、だめなの。もう、これ以上は…」
そんなことないよ。そういってあげたかった。いや、そういってあげるべきだったのかもしれない。でも、今の彼女にそんな見え透いた嘘はいえそうになかった。それに、本当のことだったから。彼女を失うことが辛くて、苦しくて。それを繰り返すことがとてつもなく怖い。今日死ななくたって、明日死ぬかもしれない。明日死ななくても、いずれ死んでしまうかもしれない。その度に、現実を見るんだ。吐き気がするような現実を。
だから、何もいってあげられなかった。
そして、念のために彼女に電話をかけた。呼び鈴が鳴ってる時ほど妙に緊張することはない。彼女は普通に出てくれた。
朝早くから何のようなの?と少し機嫌悪そうだった。それがとても嬉しかった。彼女はまだ、入院している。それでも僕の心は随分軽くなった。一度、運ばれるところまでいったのにおかしなことではある。でも、なぜか距離が近くなった気がした。彼女が生と死の間にいた彼女が生に戻ってきてくれた気がしたんだ。
「特に用はなかったんだ。」
「相変わらずの心配症ね。」
「いや、そういうわけじゃなくて」
「寂しかった?」
「…簡単に言うのなら。」
「可愛いじゃない。」
「もう、切ります。」
「あなたが電話してきたんじゃないの。」
「切るからね。」
「はいはい。今日来てくれる?」
「うん。行く。」
「待ってるよ。」
涙が出てきた。彼女と出会ってから何度も生きてるということを実感させられる。彼女の声がとても愛しかった。緊張からの弛緩。緩んだ涙腺からの安堵の涙。
早く会いに行こう。
その前にはまず授業を受けないと。授業なんか受けてる場合ではないし、授業に身が入るとも思えない。それでも、授業に出ないと彼女に何か言われてしまうだろう。だから、まずは授業を受けに行かないと。
病院の丸椅子。長い時間座るとお尻が痛くなる。それでも彼女のそばに居れるのならそれで。そばに居れるならなんだっていい。
「結局いつまで入院なの?」
「来週には退院できると思うけど」
「本当に?あんなに切迫詰まったみたいな状況だったのに。」
「あれは何かしらね。たまたま餅を喉に詰まらせたみたいな感じかしら。」
「よくわらないよ」
「私だってわからないわよ。あんな…」
「まぁ君がわからないなら、僕にもわからないか。」
「そうね。」
「………ごめんね。こんな会話するつもりなかったんだ。」
「何よ急にしおらしくなって。別にたいした話じゃないでしょう?わからないことをわからないって言っただけなんだもの。会話にすらなってないわよ。」
「うん。でも、こんなことじゃなくて。君に伝えたいことがあったんだ。」
君のそばにいることができるように。そういれるようなことを。
「なに?」
伝えたら驚くかな。喜ぶだろうか。もしかしたら無反応なんてこともあるかも知れない。
「僕と、僕と付き合ってくれたらなって。」
無反応だった。どこか遠くを見ているように見える。
「聞いてる?」
「…聞いてるわ。」
「えっと…返事…」
「…あなたは私のこと好き?」
「もちろんだよ。」
「…そう。…だけど、もう、だめなの」
「え…どういうこと…」
「君は、君は私といるといつも苦しそう。私のために怯えて、私のために恐れて、私のために苦しんで。もう、だめなの。もう、これ以上は…」
そんなことないよ。そういってあげたかった。いや、そういってあげるべきだったのかもしれない。でも、今の彼女にそんな見え透いた嘘はいえそうになかった。それに、本当のことだったから。彼女を失うことが辛くて、苦しくて。それを繰り返すことがとてつもなく怖い。今日死ななくたって、明日死ぬかもしれない。明日死ななくても、いずれ死んでしまうかもしれない。その度に、現実を見るんだ。吐き気がするような現実を。
だから、何もいってあげられなかった。
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