君の瞳に映るのは希望か絶望か

撫でたココ

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見えないいない

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 彼女がいなくなった。

 正確なところはわからない。でも、病院にはもういないらしく、連絡もつかない。家を訪ねたけれど誰もいない様子だった。親のところにいるのならそれで構わない。あんなことがあったあとだから、連絡も返してくれないのかもしれない。
 この頃、彼女のことばかり考えていた僕は気がつけば何もすることがなくなっていた。もちろん今も彼女の心配はしている。でも、彼女の意志でいなくなったのだとしたら、僕にできることは何もない。これは彼女からの何もしないでという意思表示に違いないのだから。


 何かしようと思って携帯をさわっても何もすることがない。

 誰かと遊ぼうと思っても遊ぶ相手がいない。

 何か話をしようと思っても話す相手が見つからない。

 彼女に出会うまでもそうだったはずだった。一人暮らしすれば何か変わるんじゃないかと思って越してきても結局何もできなかった。人と接するのが怖くてあまり人と近づかないようにしていた。それが正解だったのかもしれない。彼女に出会って少しばかり生きているような気がしていた。でもそれは、死を感じたから反対側の生に気付いただけだ。生きるということを見つけたわけじゃなかった。今までの生き方と変わりはなかった。たまたま、死から生を覗けただけだった。

 そんなことならば、彼女に会ったことをなかったことにして過ごすのも悪くないのかもしれない。彼女に会えたおかげで今ついてるテレビ番組が面白いと思えているだろうか。否。いつも飲んでる麦茶が特別においしいと感じるようになっただろうか。否。生まれてから今まで感じていた人は死ぬという恐怖を一時でも忘れられることができただろうか。否。やはり、彼女と出会ったことで変わったものなど何一つとして無かった。

 今後、彼女のことを思い出すことはやめよう。

 ほんの少しだけ、夢を見ていたと思えばいい。夢みたいな夢だった。

 誰かのことを一日中考えて、誰かのために生きて。

 そんな充実している人生を送っていた夢を。

 忘れよう。

 夢なんて、朝起きてご飯を食べているころには忘れるものだ。

 意識なんてしなくたって、忘れるものだ。

 そのうち、夢を見たということさえも忘れられる。

 そういうもんじゃないか、

 そういう、もんなんだ、夢っていうのは。

 こんなにも必死に忘れようとして、苦しむもんじゃないはずだ。

 こんなにも涙が出ることを止められなくて、時間が戻ればいいのになんて思うもんじゃないはずだ。

 ぼろぼろ流れる涙が、拭った袖を濡らすなんてことないはずだ。

 こんなに誰かを思ったのはいつ以来だろう。

 誰かのために泣いたのはいつ以来だろう。

 これから先、この涙が報われることはないだろう。なぜだかわからないけどもう彼女には会えないと思うから。僕の前にはきっと姿を現さないと思うから。彼女は優しい人だから。助けてくれる僕を誰も助けられないことを知っているから。助けられてしまうことが、一方方向でしかないこの事実が彼女は嫌だったのだと思う。助けられてもそれを覚えていられなくて、恩だけが積もっていく。それは考えただけでも恐ろしい。返せない恩が溜まっていく。他で返そうにも返せないだけの恩。彼女はそう思っていたのだろう。返せない恩をわざわざ受けたくはない。受けないことが僕のためになるから。

 だからきっと、彼女にはもう会えない。
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