ウエディングベルは幸せの足音と聞いていましたが、私には破滅の足音に聞こえます。

ホタル

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消え入りそうな絆

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呆然とドアの前で立ったままのクロードは顔だけをジョセフィーヌに向けていた。

もはやクロードの耳には母ジョセフィーヌの声は届いていなかった。

ジョセフィーヌの赤い口がパクパクと動いてい様は、酸素を求めて口を開いている魚に様にクロードには見える。

得意げに話している事だけは、クロードにも伝わって来た。
どうせ自分の都合のいい話をしているのだろう。

何時もの事だと思っているとジョセフィーヌの隣に座っているカトリーヌの異常ともいえる輝く瞳と目が合った。

この瞳は危険だとクロードの今まで生きてきた経験が言う。

クロードは、カトリーヌの様に異常に輝く瞳を持っている人間を知っている。

数年前、南の国境付近で人々を惑わしていた宗教の指導者とよく似ていた、彼は自が『奇跡の人』だと信じて疑わず自分の信じる神の元へと帰っていった。

1人で神の元へと召されれば良いものを、小さい幼い信者を道連れにして旅立った。

・・・誰も救われない結果となった。

クロードが双璧騎士団に入って初めて味わった敗北だった。

そんなカトリーヌを見ているとあの屈辱が蘇る。

一度は断った縁談、また性懲りもなくカトリーヌは、クロードの目の前にいた。

自分を信じて疑わないあの瞳!

背筋が寒くなる。

それ以上に、やっとマリアと結婚出来たのに今度は、愛人としてカトリーヌを紹介してくる母ジョセフィーヌの気持ちが理解出来ない。

確かに権力と比例する様に愛人を囲う貴族も居るが、子供の頃からマリアに心の奪われているクロードには愛人を囲う魅力は微塵も感じなかった。

更に、カトリーヌはジョセフィーヌが懇意にしている占い師の娘だった。

母ジョセフィーヌが何をして何に頼ろうが知った事ではないが、巻き込まないで貰いたい。

マリアしかいらない。

逆に言えばマリアだけが欲しい。

真っ暗な暗闇から強引に光の世界に連れてきてくれた。

マリアの手は暖かく暗闇の中で凍えていたクロードを温めてくれた。
暖かい事がこんなにも気持ちがいいなんて初めて知った。

空っぽのクロードに生きる意味を教えてくれた。
よく土足でクロードの心の中を踏み荒らして、困っているクロードを見てマリアは笑っていた。

それはちっとも嫌では無かった。

マリアさえ側にいてくれればクロードは何でも出来る気持ちになる。

不可能を可能に出来る!そんな気持ちにさせてくれる女はマリアしかいなかった。

このまま一生マリアと共に生きていくのがクロードの望み。

それに比べて、カトリーヌの下から見上げる視線は、本来なら可愛いはずなのだが、執念深い蛇の様に見えてクロードは背筋が凍った。

ジョセフィーヌが話し終わると満足した様に「だからクロードもこちらのお嬢さんと一緒になれば幸せになれるわ。あんな『人殺しの娘』なんて最初から反対だったのよ!追い出されて当然だわ」
あんな女に子供が出来たら末代までの恥よと言ってジョセフィーヌは隣に座っていたカトリーヌ嬢を強く勧めてくる。

「・・・・・・・・」
勘弁してくれと口を開こうとして・・・口を閉じた。

ジョセフィーヌの言った『人殺しの娘』とは一体どう言う事だ?

まさか、マリアの事なのか?

一体どう言うことなんだ。

母はどうでもいい事をさっきから話しているが、クロードの知りたいことは何一つ話していない。

「『人殺しの娘』とは一体どう言う事ですか?」

怒気の含んだ声がクロードの口から出ると母ジョセフィーヌは何がそんなに怒ってるのか不思議という顔をした。

「何度も言わせないで下さい、一体誰が『人殺しの娘』何ですか!!」

ドンーーー!!!

ドアを力一杯殴り、クロードは怒鳴る姿を初めて見たジョセフィーヌは一瞬真っ青になり、クロードがジョセフィーヌを問い詰めた途端、怒りでみるみる顔が真っ赤になった。

「クロード!お前は母に向かって何て事を言うの!あの優しかったお前が!怒鳴るだなんて・・・あぁあ・・・やっぱりお前はおかしい!あの『人殺しの娘』と結婚したお前は、おかしくなったのよ!!」

ジョセフィーヌは立ち上がり口元にレースのハンカチを怒りに震えながら押し付け、怒りの感情のままに叫んだ。満足したのか?今までの感情が消えてしまったかの様に、今度は何もなかったの様にクロードを見て微笑んだ。

「・・・でも離婚出来てよかったわね~クロード!うふふふふ」
口元を押さえて笑っている。

「・・り・婚・・?誰・・・が・・・一体誰と誰が離婚した!!」

「あら?知らなかったの?クロード!貴方とあのマリア『人殺しの娘』は今日の正午で離婚が成立したのよ?異議申立ては離婚のサインをして3週間以内、今日の正午がその期日だったのよ?貴方の所にも教会からの書類が届いていたでしょう?」

「ふざけるな!!!!」

ジョセフィーヌの口から出た『離婚』の言葉にブチンとクロードの何かが切れた。

ジョセフィーヌの胸ぐらを掴むとクロードは『今言ったことは間違いだと早く言え』とばかりに前後に力一杯揺らした。

まるで等身大の壊れた人形がガックンガックンと揺れる。

話したくても舌を噛みそうで話せるものも話せない。

ジョセフィーヌがすでに気を失っていた。
そんな事すら理解出来なくなっているクロードは何度も、何度も、ジョセフィーヌを揺らした。

気がつくとだらりと気を失っているジョセフィーヌをクロードはソファーに座らせると、カトリーヌはクロードを押しのけた。

「キャーーーー!ジョセフィーヌ様おきを確かに!クロード様お母様に何て酷い事を!早くお謝り下さいませ!」


さっきまでジョセフィーヌの隣でクロードを紅く頬を染めて見つめていた少女はさも自分達が被害者とばかりに言い放った。

騒ぎに駆けつけたメイド達と家令は気を失ってグッタリとしてソファーに横たわっているジョセフィーヌとジョセフィーヌを介抱しているカトリーヌを呆然として見ていたが家令がメイド達に今見た事は忘れる様に言うとメイド達に持ち場に戻る様に命令した。

「なんて事を、旦那様この事は大旦那様に報告してさせて頂きます。」

家令はカトリーヌと目が覚めたジョセフィーヌを連れて部屋を出ていった。

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