ウエディングベルは幸せの足音と聞いていましたが、私には破滅の足音に聞こえます。

ホタル

文字の大きさ
23 / 42

君が恋しい。

しおりを挟む
今でも鮮明に覚えている。

忘れられない・・・。
・・・忘れたくない。

君と初めて出会った大事な思い出。

君が恋しくてたまらない。



夜がだいぶ更け住宅街は昼間の喧噪が嘘の様に静かになっていくのとは逆に、娼館が立ち並ぶ歓楽街は笑い声やグラスの割れる音や乾杯の音が聞こえ、活気づいていった。

カルバンは警備の為、一歳年下のベクトルとまだ幼さの残る新米ギリムの3人で巡回していた。

この通り通りかかると新米のギリムは俯きながら早足で通り過ぎようとする。
そんなギリムをいつもベクトルが揶揄し始まる。
カルバンは苦笑しながら警備隊に入りたての頃を思い出す。

ベクトルだって新米の時は先輩によく同じ事を言われ、顔を真っ赤にしていたのに、この変わりようは・・・なんといえば良いやら・・・苦笑いしか出てこない。

「今日の巡回も暇だな~なぁ~カルバン少し遊んでいくか?」

ベクトルはチラリと娼館で手を振っている。

「お兄さん、チョット寄ってかない?安くしておくからさ~、人助けだと思って今一緒に過ごしましょうよ~」
ベクトルは娼婦の甘ったるい声に鼻の下まで伸ばした。

「行きたいのは山々なんだが・・・・なぁカルバンお前もいくか?」
「・・・イヤ今日はやめておく、それにまだ巡回中だぞ」
カルバンが答えると、情けなさ全開の表情でカルバンを見るベクトルは「それじゃ俺たちだけでも良いよな?後数分で交代の時間だし!ここは後輩の為に一肌もふた肌も脱いでやらねぇとな?」と言ってギリムを連れて娼館の中へと入って行った。

ギリムも、イヤ、その、ヤッパリ・・・と言いながらも興味があるらしくベクトルについて行った。

「カルバン!後は頼んだぞ」
ベクトルは最後の捨て台詞は忘れていなかった。

『頼まれてやるよ』カルバンも片手を上げてベクトルに答えた。

確かに今日の巡回はもう詰所に戻るだけだったので今日のところはベクトルに一つ貸しにしておくのも悪く無い。

カルバンが歩き始めると、ひときわ活気がある娼館の一角の薄暗い裏路地から少女1人がヒョッコリと顔をのぞかせている。

路地裏の暗闇から覗く幼さの残っている娼婦の顔はこの場所には似つかわしくない、生命の輝きを感じた。

タイミングが良いのか悪いのか?カルバンと娼婦の目が合った。

手に汗が滲む。

周りの騒音が聞こえないくらいに鼓動の音しか聞こえなくなっている。

娼婦から目を離さないとカルバンのすべてのものが持っていかれそうだ。

すでに心の半分以上は持っていかれている。

これ以上見つめ続けるのは良くない。

『・・・・チッ』
カルバンは心の中で舌打ちをした。

新手の客引きか?
すでに心がざわめいている。

ここは無視が一番だ。

                      娼婦に今は用は無い。

今度来た時にでも相手をして貰えばいい。

そうだ今度来た時に世話になるから名前くらい聞いても良いはずだ。

カルバンの考えを知ってか知らずか、御構い無しに少女はカルバンに向かって手招きまでしてカルバンを誘う。

「ねえ、チョットそこのお兄さん!そこの貴方よ!貴方!聞こえていない?聞こえているのに無視?・・・あぁあ・・・めんどくさい」
カルバンの腕を掴んで裏路地の奥へと連れ込んだ。


見ず知らずの娼婦に裏路地まで引きずりこまれ、挙げ句の果てに娼婦に壁へと押し付けられている。

この状況にカルバンの心臓が騒ぎ出す。

カルバンは今まで女性には極力親切にして来たが、流石にこの状況をカルバンの眉間のシワが一層深くなった。

少女を見ていると体が熱くなってどうにかしてしまいそうだ。

「・・・・」
名前を聞くだけなのに喉が渇いて、何を話して良いか?わからない。


「・・・もしかして私が美人すぎて困ってしまっているのかしら?」

ケラケラと笑う娼婦が憎たらしくてしょうがない。

カルバンは娼婦の名前を知りたくてたまらないのに、肝心の娼婦はカルバンをそこら辺の男と同じ扱いをしている。

名前すらまだ知らない娼婦に弄ばれている事に腹が立った。

「全然」
素っ気なく答えるのが精一杯だった。


「そう?それは残念だわ~今度はもっと魅力的になって助けを求めるわ!!」

娼婦は笑顔になって言った。

『助けを求める?どう言う事だ?』

「ちょっと待て!君は俺に助けを求めていたのか?」

驚いてカルバンは娼婦に聞くと「うんそうよ!あたりまえじゃない」と言う言葉が返って来た。

「・・・君は客引きをしていたにではなかったのか?娼婦では無いのか?」

「客引き?娼婦?客引きって・・・私の事・・・娼婦だと思ったの?・・・チョットそれは失礼でしょ?あっ、貴方なんてお金を貰ってもお断りよ!」

さっきまで娼婦顔負けの誘いをかけていた癖に・・・誘いをかけて来た癖に・・・金を貰っても俺とは寝ないと言って来た。

挙げ句の果てに、「そんな男には用は無いわ」と言ってシッ!シッ!と汚いものを追い払う様に・・・。


『この女~~~~~!今すぐここで犯してやろうか!・・・だが待て、助けを求めているにだからもう少し女性には親切に・・・・親切に・・・この女に対しては無理かもしれない」

カルバンの眉間が更に深くなりながらも深呼吸をして精神を落ち着かせた。
「先程は失礼しました。それではご婦人、一体何から貴女を守ればよろしいのでしょうか?」

「何しているのよ早くあっちに行きなさいよ!変態!!どすけべ、ろくでなし」

冷静に勤めようとしても、この女のせいでカルバンの怒りは許容範囲を超えそうになる。

カルバンの鉄壁の笑顔も限界が近付いて来た。


遠くの方から複数の足音とともにガラスの割れる音と何かを叩く音の後に女の悲鳴が上がった。

「まずいわ私がいなくなった事に気がついたのねどうしよう」

周りを見回しても役に立ちそうなのは目の前に立っている青筋を立てて器用に笑っているカルバンただ1人。

青筋を立てて笑っていられるなんて、本当に器用よね~この人、ある意味興味深いわ!

こんな素敵なレディーを捕まえて娼婦呼ばわりをする男に助けを求めないといけないなんて、背に腹は変えられない。

「本当に助けてくれるの?」

「助けて欲しければまずは名前を教えてもらおうか?」

「・・・ライラ・・・私の名前はライラ・ティアーズよ!そう言う貴方は?」

「カルバンだ。カルバン・シュタールだ。よろしくライラ、そこで待ってろよ!うごくなよ!すぐに戻ってくる」

さっきまでの不機嫌な顔はどこに消えたのか?カルバンは笑顔のまま、颯爽と悲鳴の上がった場所へ行って騒いでいた男たちを捕まえるとすぐに、アイラの場所まで戻ってきた。

がライラはその場所にはいなかった。

「ライラ・・・。どこへ・・・行った?」


だまされた・・・・。

娼婦にだまされたのか?

騙された事より、ライラがいなくなった事の方がショックだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

結婚5年目のお飾り妻は、空のかなたに消えることにした

三崎こはく
恋愛
ラフィーナはカールトン家のお飾り妻だ。 書類上の夫であるジャンからは大量の仕事を押しつけられ、ジャンの愛人であるリリアからは見下され、つらい毎日を送っていた。 ある日、ラフィーナは森の中で傷ついたドラゴンの子どもを拾った。 屋敷に連れ帰って介抱すると、驚いたことにドラゴンは人の言葉をしゃべった。『俺の名前はギドだ!』 ギドとの出会いにより、ラフィーナの生活は少しずつ変わっていく―― ※他サイトにも掲載 ※女性向けHOT1位感謝!7/25完結しました!

処理中です...