緑の塔とレオナ

岬野葉々

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「我らはヴィーナの母リーシア=レオナ、我が盟友であるリアナと約束を交わした。ヴィーナが成人するまでは、出来得る限りの手助けをし、守る、と。その見返りも、既に受け取っている。我らの森が、今この時まで健やかで、変異に襲われていないのも、そのおかげ。それを忘れたか?」

 厳しい大精霊の言葉に、大半の精霊達は項垂れた。
 しかし、食い下がるものもいる。

(ヴィーナ母子に恩があるのは、百も承知しております。しかし、我らの森が安全であるからと言って、他の眷属達を見殺しには出来ません)

(そのうち、必ず、この森にも魔の手が伸びましょう。最後の最後まで生きながらえたとしても、世界が崩壊してしまえば、そのことに何の意味がありますか?)

(まだ打つ手のある今だからこそ、シリウスに賭けてみる道もあるのでは……)

 世界と仲間を案じ必死な様子の精霊達を見て、大精霊は口調を少し和らげた。

「如何にも。世界の安寧は、何よりも大事なこと。しかし、何がその安寧に繋がるのかを、見誤ってはならぬ。……リアナは、自分とその娘の共倒れを何よりも恐れていた。――根本的な解決方法もなしに、ただシリウスの願い通りヴィーナを緑の塔へ送ったとしても、崩壊までの時を多少長引かせるだけだろう。そうならば、ヴィーナもいずれ、必ず倒れる」

 周りはしんと静まり返って、もはや口を開くものはいない。
 不安に満ちたその沈黙を、大精霊が破った。

「希望がないわけではない。リアナもまた、レオナの名を受け継ぐ者――名高い初代七賢人の一人の名に恥じぬ才能、力、そして不屈の精神を内に秘めている。ヴィーナと別れてから、恐らく、懸命に変異の原因とその解決方法を探っている筈――自分と、そして何より愛しく大事に思っている娘の命がかかっているのだ。それこそ、死に物狂いに、な」

 固唾を呑んで聞き入る仲間の気配に、大精霊はそっとため息を吐いて続けた。

「最後にリアナに会った時、二年前に言っていた。このままでは、緑の塔はもって三年ぎりぎりかもしれない、と。だから、娘が成人するまでに、必ず何とかしてみせる、と。私は盟友を信じたい。リアナの願い――ヴィーネをこちらの事情には一切触れさせず、最後までのびのびと学ばせたいという想いを守ってやりたいのだ。リアナはこうも言っていた――特殊な環境のみで育ったまだ幼い娘にとって、いきなり世界を背負う重責と期限を定められた焦りの中では、思うように才能を伸ばすことは出来ないから、と。だからこそ、不安はあるもののリアナはヴィーナを伯父に預けることで、今まで欠けていた人との生活を体験させ、見聞を広めることを願った。結果、ヴィーナは辛いこともあったろうが、自らの努力によって、見事賢者の紋を獲得し、もう一人のレオナとして力を発揮しただろう?」

(確かに――)

「ヴィーナは、二年前よりも遥かに大きく成長した。それを何より実感しているのは、お前たちのほうだろう。最初から、真実を明かし、多大なる重圧の中では、やはりこうも上手くいかなかった筈だ。だが、リアナの願い通り、もう一人のレオナとして立つことの出来る今のヴィーナは、塔の崩壊を食い止める最後の切り札と成り得る――リアナとの約束の時まで、後僅かだ。焦る気持ちは分かるが、我々は道を見定め、リアナが解決方法を持ち帰るまでは、全力でヴィーナを守り続けなければならない」

 大精霊の真摯な言葉に周りの精霊達は完全に沈黙し、否を唱える者はもう現れなかった。
 
 
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