18 / 69
17
しおりを挟む
「我らはヴィーナの母リーシア=レオナ、我が盟友であるリアナと約束を交わした。ヴィーナが成人するまでは、出来得る限りの手助けをし、守る、と。その見返りも、既に受け取っている。我らの森が、今この時まで健やかで、変異に襲われていないのも、そのおかげ。それを忘れたか?」
厳しい大精霊の言葉に、大半の精霊達は項垂れた。
しかし、食い下がるものもいる。
(ヴィーナ母子に恩があるのは、百も承知しております。しかし、我らの森が安全であるからと言って、他の眷属達を見殺しには出来ません)
(そのうち、必ず、この森にも魔の手が伸びましょう。最後の最後まで生きながらえたとしても、世界が崩壊してしまえば、そのことに何の意味がありますか?)
(まだ打つ手のある今だからこそ、シリウスに賭けてみる道もあるのでは……)
世界と仲間を案じ必死な様子の精霊達を見て、大精霊は口調を少し和らげた。
「如何にも。世界の安寧は、何よりも大事なこと。しかし、何がその安寧に繋がるのかを、見誤ってはならぬ。……リアナは、自分とその娘の共倒れを何よりも恐れていた。――根本的な解決方法もなしに、ただシリウスの願い通りヴィーナを緑の塔へ送ったとしても、崩壊までの時を多少長引かせるだけだろう。そうならば、ヴィーナもいずれ、必ず倒れる」
周りはしんと静まり返って、もはや口を開くものはいない。
不安に満ちたその沈黙を、大精霊が破った。
「希望がないわけではない。リアナもまた、レオナの名を受け継ぐ者――名高い初代七賢人の一人の名に恥じぬ才能、力、そして不屈の精神を内に秘めている。ヴィーナと別れてから、恐らく、懸命に変異の原因とその解決方法を探っている筈――自分と、そして何より愛しく大事に思っている娘の命がかかっているのだ。それこそ、死に物狂いに、な」
固唾を呑んで聞き入る仲間の気配に、大精霊はそっとため息を吐いて続けた。
「最後にリアナに会った時、二年前に言っていた。このままでは、緑の塔はもって三年ぎりぎりかもしれない、と。だから、娘が成人するまでに、必ず何とかしてみせる、と。私は盟友を信じたい。リアナの願い――ヴィーネをこちらの事情には一切触れさせず、最後までのびのびと学ばせたいという想いを守ってやりたいのだ。リアナはこうも言っていた――特殊な環境のみで育ったまだ幼い娘にとって、いきなり世界を背負う重責と期限を定められた焦りの中では、思うように才能を伸ばすことは出来ないから、と。だからこそ、不安はあるもののリアナはヴィーナを伯父に預けることで、今まで欠けていた人との生活を体験させ、見聞を広めることを願った。結果、ヴィーナは辛いこともあったろうが、自らの努力によって、見事賢者の紋を獲得し、もう一人のレオナとして力を発揮しただろう?」
(確かに――)
「ヴィーナは、二年前よりも遥かに大きく成長した。それを何より実感しているのは、お前たちのほうだろう。最初から、真実を明かし、多大なる重圧の中では、やはりこうも上手くいかなかった筈だ。だが、リアナの願い通り、もう一人のレオナとして立つことの出来る今のヴィーナは、塔の崩壊を食い止める最後の切り札と成り得る――リアナとの約束の時まで、後僅かだ。焦る気持ちは分かるが、我々は道を見定め、リアナが解決方法を持ち帰るまでは、全力でヴィーナを守り続けなければならない」
大精霊の真摯な言葉に周りの精霊達は完全に沈黙し、否を唱える者はもう現れなかった。
厳しい大精霊の言葉に、大半の精霊達は項垂れた。
しかし、食い下がるものもいる。
(ヴィーナ母子に恩があるのは、百も承知しております。しかし、我らの森が安全であるからと言って、他の眷属達を見殺しには出来ません)
(そのうち、必ず、この森にも魔の手が伸びましょう。最後の最後まで生きながらえたとしても、世界が崩壊してしまえば、そのことに何の意味がありますか?)
(まだ打つ手のある今だからこそ、シリウスに賭けてみる道もあるのでは……)
世界と仲間を案じ必死な様子の精霊達を見て、大精霊は口調を少し和らげた。
「如何にも。世界の安寧は、何よりも大事なこと。しかし、何がその安寧に繋がるのかを、見誤ってはならぬ。……リアナは、自分とその娘の共倒れを何よりも恐れていた。――根本的な解決方法もなしに、ただシリウスの願い通りヴィーナを緑の塔へ送ったとしても、崩壊までの時を多少長引かせるだけだろう。そうならば、ヴィーナもいずれ、必ず倒れる」
周りはしんと静まり返って、もはや口を開くものはいない。
不安に満ちたその沈黙を、大精霊が破った。
「希望がないわけではない。リアナもまた、レオナの名を受け継ぐ者――名高い初代七賢人の一人の名に恥じぬ才能、力、そして不屈の精神を内に秘めている。ヴィーナと別れてから、恐らく、懸命に変異の原因とその解決方法を探っている筈――自分と、そして何より愛しく大事に思っている娘の命がかかっているのだ。それこそ、死に物狂いに、な」
固唾を呑んで聞き入る仲間の気配に、大精霊はそっとため息を吐いて続けた。
「最後にリアナに会った時、二年前に言っていた。このままでは、緑の塔はもって三年ぎりぎりかもしれない、と。だから、娘が成人するまでに、必ず何とかしてみせる、と。私は盟友を信じたい。リアナの願い――ヴィーネをこちらの事情には一切触れさせず、最後までのびのびと学ばせたいという想いを守ってやりたいのだ。リアナはこうも言っていた――特殊な環境のみで育ったまだ幼い娘にとって、いきなり世界を背負う重責と期限を定められた焦りの中では、思うように才能を伸ばすことは出来ないから、と。だからこそ、不安はあるもののリアナはヴィーナを伯父に預けることで、今まで欠けていた人との生活を体験させ、見聞を広めることを願った。結果、ヴィーナは辛いこともあったろうが、自らの努力によって、見事賢者の紋を獲得し、もう一人のレオナとして力を発揮しただろう?」
(確かに――)
「ヴィーナは、二年前よりも遥かに大きく成長した。それを何より実感しているのは、お前たちのほうだろう。最初から、真実を明かし、多大なる重圧の中では、やはりこうも上手くいかなかった筈だ。だが、リアナの願い通り、もう一人のレオナとして立つことの出来る今のヴィーナは、塔の崩壊を食い止める最後の切り札と成り得る――リアナとの約束の時まで、後僅かだ。焦る気持ちは分かるが、我々は道を見定め、リアナが解決方法を持ち帰るまでは、全力でヴィーナを守り続けなければならない」
大精霊の真摯な言葉に周りの精霊達は完全に沈黙し、否を唱える者はもう現れなかった。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜
加瀬 一葉
ファンタジー
王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。
実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?
過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる