緑の塔とレオナ

岬野葉々

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(御方、石はすべて大地に沈めました――)

(ご苦労。よくやった)

 しかし、と森の大樹の化身――この樹海の森全てを統べる大精霊は、考える。
 
 どこまで、あの者に把握されてしまっただろうか?
 あの、風の賢者の末裔、シリウスと名乗った輩に――

 銀に輝く髪の、深い紫の瞳を持つ美しい青年。
 礼儀正しく名乗りを上げていたが、その背後にはしなやかな野生の獣のように、剣呑な雰囲気と力を感じた。
 彼がヴィーナを狙っているのは、間違いない。
 夜明け前の半覚醒の状態でなければ、もっと早く対処出来たのだが……。

 暁の光が届いた瞬間、大樹は完全に目覚め、動いた。
 だが、半覚醒の状態でも、夜明け前にヴィーナが守護の魔法を使ったことは、覚えている。
 大地に沈めさせた石々は、ヴィーナの放つ輝きに反応していた……。

 ふと意識を下に戻せば、ヴィーナの身支度が完了したところだった。
 絶世の美少女の面影は、もはや影も形もなく、普段通りのどこか薄汚れた感のある小柄な少女がいた。

「森の御方、館への路を開いて頂けますか?」

「よかろう。――気を付けて」

 いつもとは違う、憂いを帯びた大樹の声と言葉に、ヴィーネは首を傾げた。
 そして、無邪気に笑いながら、路を通る。

「大丈夫! わたし、こう見えても体力あります。徹夜なんて、平気。また来ます!」

 明るい声と言葉を残して、少女は消えた。

――その心配では、ないのだが……。もっとはっきりと警告するべきだったか?

 沈んだ様子の大精霊に、周りの精霊達が声をかける。

(なぜ、その様に心配なさるのです?)

(シリウスとやらの青年、ヴィーナに危害を加える様子はなかったでしょう?)

(緑の塔の危機は、我らにとっても重要なことです)

(ルルスに来て二年――賢者の紋を得、レオナの名を受け継ぐ資格を得たヴィーナは、母リーシア=レオナ、リアナに勝るとも劣らない強大な力を持つ者となりました。――多少、無自覚すぎるきらいはありますが……)

(それは、特殊な環境で育ったせいでもありましょう)

(ルルスでの生活をみるに、適応力には優れている様子――すぐに加減も覚えるでしょう)

(ならば、やはり、塔の危機を回避する重大な鍵となりえます)

(むしろ、シリウスの加勢をするべきでは――?)

 最後の言葉を聞き、いつも圧倒的な存在感を放ちながらも何処か優しく穏やかな空気を纏っている、大精霊の様子が一変した。

「今の最後の言葉を放ったもの、我らの約定を忘れたか?」

 冷ややかに言い放たれた、その言葉。
 滅多にない怒りを含んだその物言いに、周りに集っていた精霊達は畏れ慄いた。


 
 
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