緑の塔とレオナ

岬野葉々

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 二年前、ヴィーネが初めて学び舎へ入ってきたとき、辺りは一瞬静まり返った。
 その後、爆発的に起こる嘲笑――

 そんな中、ディンだけが、やたら嬉しそうに言った――

「何だ、あいつ、俺よりちびだな。……小さくて、可愛らしいよな?」

 マリアーナが出ていく直前まで入念に用意していた下準備のせいで、ヴィーネはかなり迫害された。
 ディンだけは、最初からヴィーネを庇った。
 双子らは、いじめに参加することは決してなかったが、積極的に庇うこともしなかった――無言の手助けは多々したが、しばらくは様子見に徹していた。

 そんなある日、三人組がいないのを見計らって、隠れていた十数人が一斉に礫をヴィーネに向かって投げる事件が起きた。

 遠くで目撃したディンが、血相を変えてヴィーネを助けに飛び込んで行く――双子らもさすがに真っ青になりながら、駆け寄った。

 精神的に損傷を与えるのも酷いが、物理的に与えるのも悪い――どんな酷い陰口にも動じないヴィーネに対し、業を煮やした結果だった。

 全力で走りながら、抜群の動体視力を誇るディンは、不思議なことにヴィーネには一つも礫が当たっていないことを見て取り、ほっとしていた。

(これなら、あまり酷いことにはならないかも……)

 ディンが現場に到着し、蜘蛛の子を散らすかのように主犯達が逃げ出した後、三人組の安堵をよそにヴィーネは突然、倒れた。

 ディンは蒼白になりながら、ヴィーネを助け起こした。

(馬鹿だ、俺は……当たったところが見えなかったからって、死角から当たったのがあったかもしれない)

 そこに、双子らが追いついた。シャールが気遣わし気にヴィーネに手を伸ばした瞬間、ヴィーネはぼんやりと目を開けた。

「わあ、――なんて綺麗な髪。きらきらしてて、まるで深紅の炎が踊っているみたい……」

 風に吹かれてヴィーネの目の前で舞ったシャールの髪をうっとりと眺めるヴィーネ。

 マリアーナ一派の嫌がらせ以来、禁句となったシャールの髪の話題に、少年たちが凍り付いた。
 恐る恐る横目でシャールの様子を窺うと、何とシャールは小さく微笑んでいた――

 ――嬉しかった。そう、前のわたしは、この髪を誇りに思っていたわ。……いつから、その気持ちを忘れてしまっていたのだろう。

 いつの間にか、シャールの心のわだかまりは解けていた。
 何故かヴィーネの言葉は、すとんとシャールの胸の中に落ちてきた。
 恐らく、ヴィーネが心底そう思っていることが、よく伝わってきたからだ。

「どこか、痛い? 礫が当たったのね? ……本当に、ひどい目にあったわね」

 優しくシャールが問うと、ヴィーネは柔らかく微笑んだ。

「大丈夫、どこにも当たってない。……ただ、眠いの」

 幼子のように無邪気に笑いながらも、心底疲れ切った様子のヴィーネに、シャールはマリアーナの言葉を思い出した――――朝から晩まで、端女のように働いているわ。

 改めて、マリアーナに対する怒りが込み上げてきた、シャール。

 それ以来、シャールは何があっても、ヴィーネの味方だ。
 
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