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キールがヴィーネに心を開くのは、ディンとシャールがヴィーネを認め、友とした時よりもう少し後になった――
双子の片割れであるシャールと親友のディンが、ヴィーネの側を離れないので、必然的にキールもヴィーネの側にいることが多くなった。
しかし、はじめは特にヴィーネを気に入っているわけでもなく、ただシャールとディンが楽しそうにヴィーネと戯れるのを見ているだけだった。
そして、マリアーナがいなくなってしばらくが経ち、いじめの対象は主にヴィーネに絞られてきていた。
それにつれて、キールの冷たい美貌は、徐々に再び多くの女の子達の心をとらえるようになっていた。
そのことを面白くなかったのが、今まで虎の威を借りて勝手にキールを見下していた少年達。
意中の女の子がキールに夢中だとかいう下らない嫉妬で、キールが一人でいる時を見定め、いきなり集団で取り押さえようとしてきた。
キールは驚いたものの、機敏な反応で避け、多勢と見て取るや、身を翻し駆けていく――
「おいっ! 逃がすな!」
「いっそ、奴を女装させて、引きずりまわしてやれ!」
逃げるキールの耳に、興奮した少年達の声が聞こえた。
(くそっ、あいつらの馬鹿は、死んでも治らないな。くだらないことばかり、考え付きやがって……!)
興奮しきった低能な少年多数とシャールを引き合わせるなど以ての外だし、頼りになる親友、ディンも今日はいない――人数差で次第に追い詰められ、絶体絶命かと思われた矢先、ぐいっと手を引かれた。
「こっち! ついてきて!」
ヴィーネだった――小さな手に導かれるようにして走り、気がつけば、隠し部屋のようなところにいた。
「大丈夫、ここなら、絶対に見つからないから」
にこっと笑い、ヴィーネがささやいた。
そのまま、二人で黙り込む――どれくらいの時が経ったのか――心地よい沈黙の中、気がつけば、キールは自分から口を開いていた。
「あいつら、――いつもいつも女扱いしやがって……!」
これでは、泣き言を言っているみたいだ――キールは途中ではっと気づいて口を閉じたが、その時にはもう、ヴィーネの丸い眼鏡がキールの方を向いていた。
「女扱い……? どうして? 全然女の子には、見えないのに?」
心底不思議そうに首を傾げながら問うヴィーネに、そしてその身に纏う穏やかな空気に、なぜシャールとディンがこの少女のことを好いているのか、大事にするのかが分かった気がした。
その日から、学び舎に四人組が結成された。
結局、ディンとシャールがヴィーネの身を案じて、延び延びになっていた学び舎を去る計画は中止となった。
キールももはやヴィーネを見捨てられない――その決定に異議は唱えなかった。
しかし、そうこうしている間に、街外れに住んでいる導師が学び舎へと迎えられることとなった――
導師はその高い教養と知識量で、街の人々から尊敬されていた――――実は、変人としても名高かったが……。
けれど、街の人々は、導師とはそういうもの、と認識しており、そのことでその信頼が揺らぐことはなかった。
なので、今まで何度も学び舎でその知識を子供達に教えて欲しい、と導師に頼んでいたが、導師は一度も決して是、と肯くことはなかった。
その導師が学び舎の師の任に肯いたのだ。
それ以来、街では学び舎が大変な評判となり、いつしか学び舎で師として人格の怪しい人物は一掃され、ようやくキール、シャール、ディンらが思う存分学べる環境が整っていった。
キール、シャール、ディンは、導師について貪欲に学び、瞬く間に学び舎で頭角を現すこととなる――
キールの冷たい美貌は、知識を高めることでさらに研ぎ澄まされて、さらに多くの女生徒の心を奪った。
シャールもヴィーネを得てから、見違えるように生き生きとした言動をとるようになり、魔女呼ばわりされた赤毛も、今では羨望の眼差しで見られる程になった。
当然、大層な美少女ぶりで、こちらは男子生徒の心を鷲掴みだ。
ディンも、ぐんぐんと背が伸び、傭兵一家の一員にふさわしく、堂々たる体格の、精悍な魅力あふれる少年となった。
それに、ヴィーネを加えた四人組は、もはや学び舎の名物となりつつあった。
しかし、今となっては何故あの三人がヴィーネを特別扱いするのか、誰も分からず、不思議に思われていた。
そして、三人にしっかり守られたヴィーネを苛める者は、もはや誰もいなくなった。
ヴィーネは相変わらず、学び舎の授業中はずっと熟睡していた……。
それは、毎晩遅くまであちらこちらへと飛び回っているせいでもあったのだが、そんなことを知らない三人は、ずっと心を痛めていた。
裏事情を知る導師は、授業中、気づいても決してヴィーネの睡眠を妨げなかった。
三人は、ヴィーネを気遣いながらも、休憩時間や帰り道に僅かに交わす、ヴィーネとの会話を楽しみにしていた。
少し踏み込んだ会話をすれば、ヴィーネが無教養である筈のないことは、優秀な彼ら三人にはすぐに分かった。
それどころか、自分たち以上に聡明なことも――――
いつもくたくたな様子のヴィーネにとって、学び舎での時間は貴重な睡眠時間なのだ――三人はよく心得ていた。
双子の片割れであるシャールと親友のディンが、ヴィーネの側を離れないので、必然的にキールもヴィーネの側にいることが多くなった。
しかし、はじめは特にヴィーネを気に入っているわけでもなく、ただシャールとディンが楽しそうにヴィーネと戯れるのを見ているだけだった。
そして、マリアーナがいなくなってしばらくが経ち、いじめの対象は主にヴィーネに絞られてきていた。
それにつれて、キールの冷たい美貌は、徐々に再び多くの女の子達の心をとらえるようになっていた。
そのことを面白くなかったのが、今まで虎の威を借りて勝手にキールを見下していた少年達。
意中の女の子がキールに夢中だとかいう下らない嫉妬で、キールが一人でいる時を見定め、いきなり集団で取り押さえようとしてきた。
キールは驚いたものの、機敏な反応で避け、多勢と見て取るや、身を翻し駆けていく――
「おいっ! 逃がすな!」
「いっそ、奴を女装させて、引きずりまわしてやれ!」
逃げるキールの耳に、興奮した少年達の声が聞こえた。
(くそっ、あいつらの馬鹿は、死んでも治らないな。くだらないことばかり、考え付きやがって……!)
興奮しきった低能な少年多数とシャールを引き合わせるなど以ての外だし、頼りになる親友、ディンも今日はいない――人数差で次第に追い詰められ、絶体絶命かと思われた矢先、ぐいっと手を引かれた。
「こっち! ついてきて!」
ヴィーネだった――小さな手に導かれるようにして走り、気がつけば、隠し部屋のようなところにいた。
「大丈夫、ここなら、絶対に見つからないから」
にこっと笑い、ヴィーネがささやいた。
そのまま、二人で黙り込む――どれくらいの時が経ったのか――心地よい沈黙の中、気がつけば、キールは自分から口を開いていた。
「あいつら、――いつもいつも女扱いしやがって……!」
これでは、泣き言を言っているみたいだ――キールは途中ではっと気づいて口を閉じたが、その時にはもう、ヴィーネの丸い眼鏡がキールの方を向いていた。
「女扱い……? どうして? 全然女の子には、見えないのに?」
心底不思議そうに首を傾げながら問うヴィーネに、そしてその身に纏う穏やかな空気に、なぜシャールとディンがこの少女のことを好いているのか、大事にするのかが分かった気がした。
その日から、学び舎に四人組が結成された。
結局、ディンとシャールがヴィーネの身を案じて、延び延びになっていた学び舎を去る計画は中止となった。
キールももはやヴィーネを見捨てられない――その決定に異議は唱えなかった。
しかし、そうこうしている間に、街外れに住んでいる導師が学び舎へと迎えられることとなった――
導師はその高い教養と知識量で、街の人々から尊敬されていた――――実は、変人としても名高かったが……。
けれど、街の人々は、導師とはそういうもの、と認識しており、そのことでその信頼が揺らぐことはなかった。
なので、今まで何度も学び舎でその知識を子供達に教えて欲しい、と導師に頼んでいたが、導師は一度も決して是、と肯くことはなかった。
その導師が学び舎の師の任に肯いたのだ。
それ以来、街では学び舎が大変な評判となり、いつしか学び舎で師として人格の怪しい人物は一掃され、ようやくキール、シャール、ディンらが思う存分学べる環境が整っていった。
キール、シャール、ディンは、導師について貪欲に学び、瞬く間に学び舎で頭角を現すこととなる――
キールの冷たい美貌は、知識を高めることでさらに研ぎ澄まされて、さらに多くの女生徒の心を奪った。
シャールもヴィーネを得てから、見違えるように生き生きとした言動をとるようになり、魔女呼ばわりされた赤毛も、今では羨望の眼差しで見られる程になった。
当然、大層な美少女ぶりで、こちらは男子生徒の心を鷲掴みだ。
ディンも、ぐんぐんと背が伸び、傭兵一家の一員にふさわしく、堂々たる体格の、精悍な魅力あふれる少年となった。
それに、ヴィーネを加えた四人組は、もはや学び舎の名物となりつつあった。
しかし、今となっては何故あの三人がヴィーネを特別扱いするのか、誰も分からず、不思議に思われていた。
そして、三人にしっかり守られたヴィーネを苛める者は、もはや誰もいなくなった。
ヴィーネは相変わらず、学び舎の授業中はずっと熟睡していた……。
それは、毎晩遅くまであちらこちらへと飛び回っているせいでもあったのだが、そんなことを知らない三人は、ずっと心を痛めていた。
裏事情を知る導師は、授業中、気づいても決してヴィーネの睡眠を妨げなかった。
三人は、ヴィーネを気遣いながらも、休憩時間や帰り道に僅かに交わす、ヴィーネとの会話を楽しみにしていた。
少し踏み込んだ会話をすれば、ヴィーネが無教養である筈のないことは、優秀な彼ら三人にはすぐに分かった。
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