緑の塔とレオナ

岬野葉々

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 しばらく、ヴィーネとの出会いに思いを馳せていた双子らだったが、

「ちくしょう、面白くないな」

 心底不機嫌そうなディンの呟きを耳にして、意識をこちらへ取り戻した。

 ヴィーネにとってここが貴重な睡眠、または休息時間と心得ていても、今日のように疲れ切り話も出来ない状態を見ると、ディンは荒れてしまう。

 ヴィーネのことが心配な反面、ただでさえ少ない会話する時間が、全く無くなるのが寂しいからだ。
 それは、ディンだけでなく、双子らも同じ――

「本当ね……。こんな様子のヴィーを見るくらいなら、いっそうちの館で引き取りたいくらいだわ」

 ここルルスではまだ歴史は浅く新興の部類と見られてはいるが、ルルスを一歩出ればリュミエール王国全てに根を張る大商会――ドミヌス商会を営む一族の末裔、フォンス家の長女であるシャールが憂える。
 古くから商人の街ルルスと栄える一角に切り込むべく、支部が置かれ任されたのは、双子らの父母の代からなのだ。

「まあね。――後見人さえいなかったら、とっくにそうしてる。リチャード様も、どこまでヴィーのことを把握していることやら……?」

 ドミヌス商会がここルルスに乗り込むにあたっては、当然、精鋭を配し、ルルスの慣習についても把握していた。


 しかし、切れ者でかつ話の分かる人物と名高いリチャードと、その姪、ヴィーネに対する仕打ちがどうしても重ならない――それに対する三人の推測は、まちまちだった。

 リチャードがわざとそうしている説。ならば、どうして? (キール説)
 全然分かっていない説。ならば結局、無能じゃないか! (ディン説)
 性悪女が関わっている説。やっぱり、怪しい! (シャール説)

 その他、諸々――多々説は上がったが、どれも矛盾があって決定打に欠けた。
 それでも、恐らくとても複雑な事情があるだろうということを、三人とも薄々察していた。

「あ~もういっそ、ディン。お前、成人してすぐに、ヴィーを嫁に取ったらどうだ? 」

 やりきれない思いを振り切るように、冗談半分、キールが唆すと、ディンは真っ赤になった。

「別に、――俺はそうしてもいい位にヴィーのことを気に入ってるが……」

 ディンは、名の知れた傭兵一家、アトレートス家の末子。
 アトレートス家は、卓越した戦闘力を擁するノア傭兵団を率いる一族だ。
 代々ルルスの商人達の護衛も多々請け負ってきたが、その傭兵団という性質上、国の各地、若しくは国外まで派遣されることも多い。

 ノア傭兵団の成り立ちは、ルルスを襲う山賊、海賊を蹴散らす役目から始まった、とされるが、今となってはルルスに拘らず、広く仕事を請け負い、その名は国外にまで知れ渡っていた。

 そんな傭兵団を率いる一族が、ルルスの慣習に縛られる筈もなく、一家の決まりとしては、「自分の嫁(伴侶)は、自分で連れてこい!」だった――

 それを知っていてけしかけたキールだったが、まんざらでもないディンの様子を見て、おや、と眉を上げた瞬間、すごい勢いでシャールが割って入った。

「そうしてもいい位に、気に入ってる?! ――気に入ってる、ぐらいじゃ、駄目! 駄目よ、反対っ! 世間知らずのヴィーを、いきなりそんな夢のない結婚生活になんてさせないわっ! わたし達二人とも、燃えるような恋をして、大恋愛の末に結婚するんだから!」

 いきなりの剣幕に押されながらも、キールがぼやく。

「おいおい、何時の間にヴィーとそんなことを話し合ったんだ?」

「……俺の、どこが悪いんだよっ?!」

 気分を害し押し殺した低い声で、ディンがシャールに問うと、

「じゃあ、聞きますけど、ディン? ディンは、ヴィーのどこが好き――気に入っているの?」

 小首を傾げて逆に問われたディンは、真面目に考えてみた。

 ディンの胸に広がるのは、ヴィーと一緒に居る時の、言葉にならない愛おしさ――穏やかな空気、安らぎ、温かさ、守らなければ、という庇護、保護欲、そして――

「飯が美味い……」

 うっかり思考の最後だけ口に出してしまったディンに、シャールは目を吊り上げて怒った。

「ほら見なさい! ディンはただ、餌付けされてるだけっ。胃袋でしかものを考えない奴なんかに、大事なヴィーを嫁がせるものですか! ヴィーのことをちゃんとヴィーでなくては駄目で、ヴィーだけを見つめて大事にしてくれる相手じゃないと、許さないわ! ――――せめて、女の子好みの演出できちんと付き合いを重ね、想いを伝えてからでないと、お話にもならないわ」

 自分の失言を取り戻すべく、手を振り首を振り、飯目当てだけではないことを伝えようとしていたディンだったが、シャールの最後の一言で、逆に青筋を立てて切れた。

「今のヴィーの何処に、そんなことに付き合える時間があるんだよっ?!」

 俺だって、時間さえあれば……と硬く手を握りしめながら、低く押し殺した声で言ったディンは、授業中でなければ、大声で叫びたいくらいだった。
 

 そして、大切な友である三人の論点が自分になっているとは露知らず、友に囲まれ安心しきったヴィーネは、今日もまた夢の中にいた……。

 


 

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