27 / 69
26
しおりを挟む
「あ~あ、……任務は勿論心得ていますが、自分を餌に集まった群れを相手取るのは、難儀しそうですね……」
「情けないことを言うなよ? ロッド。中には、腕を鳴らしていた連中もいただろう? 遅れをとらないよう、頑張れ」
平然と色仕掛けを唆す主に、ロッドは前よりも深くため息を吐く。
「普通の戦だったら、誰にも後れを取るつもりはありません。……が、打算一杯で自分に近づいてくる女やその家族の群れなら、いっそ敵前逃亡したいくらいです! ――物事、向き不向きというものがある筈なのですから……」
そういうことは、女たらしで有名なあいつら兄弟や策略魔の主に是非お願いしたい……!
密かに心の中で続けた呟きを感じ取ったのか、シリウスは眉を上げてロッドに問う。
「私なら、良いというのか? 私だって、代わりがいるのならば、是非とも代わって欲しいぞ。だが、今回は皆平等に人海戦術で事にあたらねば……とにかく、時間が惜しい。逃げたり、さぼったりしている暇はない」
よりによってロッドが一番苦手とする分野での命に、まだ踏ん切りのつかない様子のロッド。
シリウスは、挙動不審な彼に重ねて言う。
「忠告しておくが、ロッド、くれぐれも言質を取られるなよ? ここは、商人の街として名高いルルスだ。取引ごとに関しては、海千山千の輩がうようよいるぞ。――迂闊な真似をすれば、あれよあれよという間に婚約式をすっ飛ばして、結婚式が執り行われるかもな?」
ロッドは心の中で悲鳴を上げ、ふらりとよろめいた……。
「手始めは、今夜の歓迎の宴とやらからか。――淡い月光のような金の髪、海のような真っ青な印象的な瞳、……華奢で美しい少女、不可思議な力を持つ者、その一族等々、何でも良い、全ての情報をかき集めろ! そして最終的には、絶対に何としても、彼の者を見つけ出すのだ!」
いつも泰然とした主の、滅多にみない力の込められた命に、ロッドはおずおずと切り出した。
「それでは、リチャード殿の長女、マリアーナ嬢など如何ですか? 例の兄弟の血筋な上、大変な美少女だとか……」
「確かに、ロシアンが何度も自慢していたらしいな。……しかし、瞳の色が違う。それに、何らかの能力持ちとも聞いていない。まあ、今夜、嫌でも直に会えるだろう。館の奥方は、押し付ける気、満々だったからな……。例えそうでも、そんなに簡単に会えるものなら、どんなに手間が省けるか――」
しかし、よく当たるシリウスの勘は、事はそう簡単に運ばない、と告げていた――
一方、シリウス達の話題の主、マリアーナは、朝方から夜の宴に向けて、様々な支度に専念していた。
入浴し、マッサージを受け、香りを肌にすり込む――目もくらむような豪華な衣装に身を包み、髪をこの上なく美しく、手間をかけて結い上げ、自然にかつ最も効果的な化粧を丹念に施す――仕上げは、それら全てを引き立たせる宝飾品で飾り立てるのだ。
今はその最後の仕上げに向けて、何十人もの使用人がかかりっきりだった。
「お嬢様、公爵様は、大層ご立派で大変お美しい方でした」
「周りを固める騎士様方も、うっとりと見とれるような男前なお方ばかり……」
次々と興奮気味に情報を持ち帰る女達を見て、マリアーナも少し興奮気味だった。
「あら。わたしは、周りの騎士達などどうでもいいわ。――もっと、公爵様の情報を持ってきて頂戴」
自分の美貌に絶対的自信を持つマリアーナは、最初から騎士達は雑魚として眼中にない。
頭の中にあるのは、昨夜、伯父達から聞かされた話――――数多の富と権力を持つ、王都でも有数の大貴族、かつ現国王の片腕とも呼ばれる、美しくも若きウェントゥス公爵家現当主シリウスのこと。
そのお方が、今、わたしと同じ屋敷にいらっしゃる。
しかも、しばらく滞在されるというお話……!
わたしと会いさえすれば、きっと彼の心はわたしのもの。
そして、今日の歓迎の宴で出会いは約束されている――――これ以上の玉の輿はないわ。
何という幸運に恵まれたのか――マリアーナは、もう自分が公爵の花嫁に選ばれる未来を、信じて疑わなかった。
「情けないことを言うなよ? ロッド。中には、腕を鳴らしていた連中もいただろう? 遅れをとらないよう、頑張れ」
平然と色仕掛けを唆す主に、ロッドは前よりも深くため息を吐く。
「普通の戦だったら、誰にも後れを取るつもりはありません。……が、打算一杯で自分に近づいてくる女やその家族の群れなら、いっそ敵前逃亡したいくらいです! ――物事、向き不向きというものがある筈なのですから……」
そういうことは、女たらしで有名なあいつら兄弟や策略魔の主に是非お願いしたい……!
密かに心の中で続けた呟きを感じ取ったのか、シリウスは眉を上げてロッドに問う。
「私なら、良いというのか? 私だって、代わりがいるのならば、是非とも代わって欲しいぞ。だが、今回は皆平等に人海戦術で事にあたらねば……とにかく、時間が惜しい。逃げたり、さぼったりしている暇はない」
よりによってロッドが一番苦手とする分野での命に、まだ踏ん切りのつかない様子のロッド。
シリウスは、挙動不審な彼に重ねて言う。
「忠告しておくが、ロッド、くれぐれも言質を取られるなよ? ここは、商人の街として名高いルルスだ。取引ごとに関しては、海千山千の輩がうようよいるぞ。――迂闊な真似をすれば、あれよあれよという間に婚約式をすっ飛ばして、結婚式が執り行われるかもな?」
ロッドは心の中で悲鳴を上げ、ふらりとよろめいた……。
「手始めは、今夜の歓迎の宴とやらからか。――淡い月光のような金の髪、海のような真っ青な印象的な瞳、……華奢で美しい少女、不可思議な力を持つ者、その一族等々、何でも良い、全ての情報をかき集めろ! そして最終的には、絶対に何としても、彼の者を見つけ出すのだ!」
いつも泰然とした主の、滅多にみない力の込められた命に、ロッドはおずおずと切り出した。
「それでは、リチャード殿の長女、マリアーナ嬢など如何ですか? 例の兄弟の血筋な上、大変な美少女だとか……」
「確かに、ロシアンが何度も自慢していたらしいな。……しかし、瞳の色が違う。それに、何らかの能力持ちとも聞いていない。まあ、今夜、嫌でも直に会えるだろう。館の奥方は、押し付ける気、満々だったからな……。例えそうでも、そんなに簡単に会えるものなら、どんなに手間が省けるか――」
しかし、よく当たるシリウスの勘は、事はそう簡単に運ばない、と告げていた――
一方、シリウス達の話題の主、マリアーナは、朝方から夜の宴に向けて、様々な支度に専念していた。
入浴し、マッサージを受け、香りを肌にすり込む――目もくらむような豪華な衣装に身を包み、髪をこの上なく美しく、手間をかけて結い上げ、自然にかつ最も効果的な化粧を丹念に施す――仕上げは、それら全てを引き立たせる宝飾品で飾り立てるのだ。
今はその最後の仕上げに向けて、何十人もの使用人がかかりっきりだった。
「お嬢様、公爵様は、大層ご立派で大変お美しい方でした」
「周りを固める騎士様方も、うっとりと見とれるような男前なお方ばかり……」
次々と興奮気味に情報を持ち帰る女達を見て、マリアーナも少し興奮気味だった。
「あら。わたしは、周りの騎士達などどうでもいいわ。――もっと、公爵様の情報を持ってきて頂戴」
自分の美貌に絶対的自信を持つマリアーナは、最初から騎士達は雑魚として眼中にない。
頭の中にあるのは、昨夜、伯父達から聞かされた話――――数多の富と権力を持つ、王都でも有数の大貴族、かつ現国王の片腕とも呼ばれる、美しくも若きウェントゥス公爵家現当主シリウスのこと。
そのお方が、今、わたしと同じ屋敷にいらっしゃる。
しかも、しばらく滞在されるというお話……!
わたしと会いさえすれば、きっと彼の心はわたしのもの。
そして、今日の歓迎の宴で出会いは約束されている――――これ以上の玉の輿はないわ。
何という幸運に恵まれたのか――マリアーナは、もう自分が公爵の花嫁に選ばれる未来を、信じて疑わなかった。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜
加瀬 一葉
ファンタジー
王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。
実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?
過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる