緑の塔とレオナ

岬野葉々

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「あ~あ、……任務は勿論心得ていますが、自分を餌に集まった群れを相手取るのは、難儀しそうですね……」

「情けないことを言うなよ? ロッド。中には、腕を鳴らしていた連中もいただろう? 遅れをとらないよう、頑張れ」

 平然と色仕掛けを唆す主に、ロッドは前よりも深くため息を吐く。

「普通の戦だったら、誰にも後れを取るつもりはありません。……が、打算一杯で自分に近づいてくる女やその家族の群れなら、いっそ敵前逃亡したいくらいです! ――物事、向き不向きというものがある筈なのですから……」

 そういうことは、女たらしで有名なあいつら兄弟や策略魔の主に是非お願いしたい……!

 密かに心の中で続けた呟きを感じ取ったのか、シリウスは眉を上げてロッドに問う。

「私なら、良いというのか? 私だって、代わりがいるのならば、是非とも代わって欲しいぞ。だが、今回は皆平等に人海戦術で事にあたらねば……とにかく、時間が惜しい。逃げたり、さぼったりしている暇はない」

 よりによってロッドが一番苦手とする分野での命に、まだ踏ん切りのつかない様子のロッド。
 シリウスは、挙動不審な彼に重ねて言う。

「忠告しておくが、ロッド、くれぐれも言質を取られるなよ? ここは、商人の街として名高いルルスだ。取引ごとに関しては、海千山千の輩がうようよいるぞ。――迂闊な真似をすれば、あれよあれよという間に婚約式をすっ飛ばして、結婚式が執り行われるかもな?」

 ロッドは心の中で悲鳴を上げ、ふらりとよろめいた……。

「手始めは、今夜の歓迎の宴とやらからか。――淡い月光のような金の髪、海のような真っ青な印象的な瞳、……華奢で美しい少女、不可思議な力を持つ者、その一族等々、何でも良い、全ての情報をかき集めろ! そして最終的には、絶対に何としても、彼の者を見つけ出すのだ!」

 いつも泰然とした主の、滅多にみない力の込められた命に、ロッドはおずおずと切り出した。

「それでは、リチャード殿の長女、マリアーナ嬢など如何ですか? 例の兄弟の血筋な上、大変な美少女だとか……」

「確かに、ロシアンが何度も自慢していたらしいな。……しかし、瞳の色が違う。それに、何らかの能力持ちとも聞いていない。まあ、今夜、嫌でも直に会えるだろう。館の奥方は、押し付ける気、満々だったからな……。例えそうでも、そんなに簡単に会えるものなら、どんなに手間が省けるか――」

 しかし、よく当たるシリウスの勘は、事はそう簡単に運ばない、と告げていた――




 一方、シリウス達の話題の主、マリアーナは、朝方から夜の宴に向けて、様々な支度に専念していた。

 入浴し、マッサージを受け、香りを肌にすり込む――目もくらむような豪華な衣装に身を包み、髪をこの上なく美しく、手間をかけて結い上げ、自然にかつ最も効果的な化粧を丹念に施す――仕上げは、それら全てを引き立たせる宝飾品で飾り立てるのだ。

 今はその最後の仕上げに向けて、何十人もの使用人がかかりっきりだった。

「お嬢様、公爵様は、大層ご立派で大変お美しい方でした」

「周りを固める騎士様方も、うっとりと見とれるような男前なお方ばかり……」

 次々と興奮気味に情報を持ち帰る女達を見て、マリアーナも少し興奮気味だった。

「あら。わたしは、周りの騎士達などどうでもいいわ。――もっと、公爵様の情報を持ってきて頂戴」

 自分の美貌に絶対的自信を持つマリアーナは、最初から騎士達は雑魚として眼中にない。

 頭の中にあるのは、昨夜、伯父達から聞かされた話――――数多の富と権力を持つ、王都でも有数の大貴族、かつ現国王の片腕とも呼ばれる、美しくも若きウェントゥス公爵家現当主シリウスのこと。

 そのお方が、今、わたしと同じ屋敷にいらっしゃる。
 しかも、しばらく滞在されるというお話……!
 わたしと会いさえすれば、きっと彼の心はわたしのもの。
 そして、今日の歓迎の宴で出会いは約束されている――――これ以上の玉の輿はないわ。

 何という幸運に恵まれたのか――マリアーナは、もう自分が公爵の花嫁に選ばれる未来を、信じて疑わなかった。
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