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公爵一行の出迎えとその後の歓迎の宴のために、館は朝からずっとざわめいていた――
リチャードの末娘、ルシアーナは、目が覚めてすぐに館の慌ただしさを感じ取り、いつになく走り回る使用人達の気配に、自分が邪魔にならないよう自室に留まることにした。
(何かあったのかしら――? お兄様方は?)
疑問を感じながらも起き上がり、自分一人で身なりを整え静かに自室で待っていると、駆け足で使用人のリサが軽食をルシアーナの部屋まで持ってきた。
「おはよう、リサ! ――何かあったの?」
忙しそうに手早くお膳を横机に並べる古参の使用人リサに、ルシアーナはためらいながらも尋ねた。
リサはちらっとルシアーナを見ると、言葉少な気に説明し、やはり足早に去って行った。
何でも兄達の帰省は、館に思わぬ波紋を投げかけたみたいだ。
昨夜帰宅したのはアンソニーのみだったが、今日から兄達の、雲の上のような立場の上司――公爵様御一行が急に館へ滞在することになったらしい。
幼いルシアーナにも、事の重大さは良く分かった――このことが、一族挙げての大騒動になることも……。
そのため、聡いルシアーナは、出来るだけ他の使用人達の手を煩わせないように、これからはずっと部屋で大人しく本を読んで過ごすことに決めた。
そうして、本を読み続け、……いつの間にか、辺りが夕暮れ時の光に包まれる時間になったことに、気がついた。
――昨日、ヴィーお姉さまと笑いながらお菓子を焼いたのが、夢みたい……。ヴィーお姉さまは、どうしているのかしら?
人恋しさと共にヴィーネのことを思い出していると、部屋をトン、と叩く音がした。
「どうぞ」
ルシアーナの応えと共に扉を開けて入ってきたのは、帰りを待ち望んでいた次兄、アンソニーだった。
「アンソニーお兄様! お帰りなさい」
驚き、喜んで兄の元に走り寄ったルシアーナ。
「ただいま、ルシィ。元気にしてた?」
飛びついてきた妹を難なく胸の中で受け止めながら、アンソニーは続けて話す。
「熱烈大歓迎! って感じだね? ……僕も久しぶりにルシィと会えて嬉しいけど、小さな淑女とは思えない作法だね」
くすくす笑うアンソニーに、ルシアーナは頬を赤らめた。
「……だって、まさか今日、お部屋まで来てくれるなんて、思わなかったの。すっごく嬉しくって、つい……」
「お土産があってね。――ずっと、ばたばたしていたのだけど、やっと渡せる!」
抱き留めていた妹を床に下し、頭を撫でながら、懐から包み紙を取り出すアンソニー。
そのとき、ふと机に山と積まれた本に気がつき、不思議そうな顔をした後、顔をしかめた。
「――まさか、朝からずっと本を読んでいたのか?」
本の山の理由に思い当たったアンソニーの目元は、心なしか険しくなった。
慌ててルシアーナは、言い訳を始める――
「ち、ちがうの。――ずっと読みたいと思っていた本が溜まっていて、今日は絶好の機会だったのよ。誰にも邪魔されずに読書出来るのだもの……」
「……と、いうことは、……今日は誰も部屋に来なかったの?」
「ううん、ちゃんと朝ご飯をリサが持ってきてくれたわ」
ルシアーナがあっと思った時には、遅かった――兄、アンソニーの形相が変わっている。
「昼は? もうすぐ、宴が始まる時間だぞ?! 朝一度、リサが来ただけだ、なんて! 皆、何をしているんだ! ――何も食べていないのか?」
「い、いいの。あんまりお腹は空いてないし、一人でお菓子とお茶を楽しんだから……」
美味しかった、と昨日ヴィーネと焼いたお菓子を食べたのを思い出したルシアーナは、目を輝かせた。
「わたしもお兄様に贈り物があるの!」
机の引き出しから、大切そうに包みを二つ取り出し、一つをアンソニーに手渡す。
受け取って中身を見たアンソニーは、驚いた。
包みの中身は、可愛らしくリボンで包まれた焼き菓子と、――見事な護符。
持つだけでも力が流れ込んでくるような護符に、アンソニーは驚きを隠せなかった。
「これは? ルシィ、一体何処で手に入れた?」
リチャードの末娘、ルシアーナは、目が覚めてすぐに館の慌ただしさを感じ取り、いつになく走り回る使用人達の気配に、自分が邪魔にならないよう自室に留まることにした。
(何かあったのかしら――? お兄様方は?)
疑問を感じながらも起き上がり、自分一人で身なりを整え静かに自室で待っていると、駆け足で使用人のリサが軽食をルシアーナの部屋まで持ってきた。
「おはよう、リサ! ――何かあったの?」
忙しそうに手早くお膳を横机に並べる古参の使用人リサに、ルシアーナはためらいながらも尋ねた。
リサはちらっとルシアーナを見ると、言葉少な気に説明し、やはり足早に去って行った。
何でも兄達の帰省は、館に思わぬ波紋を投げかけたみたいだ。
昨夜帰宅したのはアンソニーのみだったが、今日から兄達の、雲の上のような立場の上司――公爵様御一行が急に館へ滞在することになったらしい。
幼いルシアーナにも、事の重大さは良く分かった――このことが、一族挙げての大騒動になることも……。
そのため、聡いルシアーナは、出来るだけ他の使用人達の手を煩わせないように、これからはずっと部屋で大人しく本を読んで過ごすことに決めた。
そうして、本を読み続け、……いつの間にか、辺りが夕暮れ時の光に包まれる時間になったことに、気がついた。
――昨日、ヴィーお姉さまと笑いながらお菓子を焼いたのが、夢みたい……。ヴィーお姉さまは、どうしているのかしら?
人恋しさと共にヴィーネのことを思い出していると、部屋をトン、と叩く音がした。
「どうぞ」
ルシアーナの応えと共に扉を開けて入ってきたのは、帰りを待ち望んでいた次兄、アンソニーだった。
「アンソニーお兄様! お帰りなさい」
驚き、喜んで兄の元に走り寄ったルシアーナ。
「ただいま、ルシィ。元気にしてた?」
飛びついてきた妹を難なく胸の中で受け止めながら、アンソニーは続けて話す。
「熱烈大歓迎! って感じだね? ……僕も久しぶりにルシィと会えて嬉しいけど、小さな淑女とは思えない作法だね」
くすくす笑うアンソニーに、ルシアーナは頬を赤らめた。
「……だって、まさか今日、お部屋まで来てくれるなんて、思わなかったの。すっごく嬉しくって、つい……」
「お土産があってね。――ずっと、ばたばたしていたのだけど、やっと渡せる!」
抱き留めていた妹を床に下し、頭を撫でながら、懐から包み紙を取り出すアンソニー。
そのとき、ふと机に山と積まれた本に気がつき、不思議そうな顔をした後、顔をしかめた。
「――まさか、朝からずっと本を読んでいたのか?」
本の山の理由に思い当たったアンソニーの目元は、心なしか険しくなった。
慌ててルシアーナは、言い訳を始める――
「ち、ちがうの。――ずっと読みたいと思っていた本が溜まっていて、今日は絶好の機会だったのよ。誰にも邪魔されずに読書出来るのだもの……」
「……と、いうことは、……今日は誰も部屋に来なかったの?」
「ううん、ちゃんと朝ご飯をリサが持ってきてくれたわ」
ルシアーナがあっと思った時には、遅かった――兄、アンソニーの形相が変わっている。
「昼は? もうすぐ、宴が始まる時間だぞ?! 朝一度、リサが来ただけだ、なんて! 皆、何をしているんだ! ――何も食べていないのか?」
「い、いいの。あんまりお腹は空いてないし、一人でお菓子とお茶を楽しんだから……」
美味しかった、と昨日ヴィーネと焼いたお菓子を食べたのを思い出したルシアーナは、目を輝かせた。
「わたしもお兄様に贈り物があるの!」
机の引き出しから、大切そうに包みを二つ取り出し、一つをアンソニーに手渡す。
受け取って中身を見たアンソニーは、驚いた。
包みの中身は、可愛らしくリボンで包まれた焼き菓子と、――見事な護符。
持つだけでも力が流れ込んでくるような護符に、アンソニーは驚きを隠せなかった。
「これは? ルシィ、一体何処で手に入れた?」
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