緑の塔とレオナ

岬野葉々

文字の大きさ
28 / 69

27

しおりを挟む
 公爵一行の出迎えとその後の歓迎の宴のために、館は朝からずっとざわめいていた――

 
 リチャードの末娘、ルシアーナは、目が覚めてすぐに館の慌ただしさを感じ取り、いつになく走り回る使用人達の気配に、自分が邪魔にならないよう自室に留まることにした。

(何かあったのかしら――? お兄様方は?)

 疑問を感じながらも起き上がり、自分一人で身なりを整え静かに自室で待っていると、駆け足で使用人のリサが軽食をルシアーナの部屋まで持ってきた。

「おはよう、リサ! ――何かあったの?」

 忙しそうに手早くお膳を横机に並べる古参の使用人リサに、ルシアーナはためらいながらも尋ねた。
 リサはちらっとルシアーナを見ると、言葉少な気に説明し、やはり足早に去って行った。

 何でも兄達の帰省は、館に思わぬ波紋を投げかけたみたいだ。
 昨夜帰宅したのはアンソニーのみだったが、今日から兄達の、雲の上のような立場の上司――公爵様御一行が急に館へ滞在することになったらしい。

 幼いルシアーナにも、事の重大さは良く分かった――このことが、一族挙げての大騒動になることも……。

 そのため、聡いルシアーナは、出来るだけ他の使用人達の手を煩わせないように、これからはずっと部屋で大人しく本を読んで過ごすことに決めた。

 そうして、本を読み続け、……いつの間にか、辺りが夕暮れ時の光に包まれる時間になったことに、気がついた。

――昨日、ヴィーお姉さまと笑いながらお菓子を焼いたのが、夢みたい……。ヴィーお姉さまは、どうしているのかしら?

 人恋しさと共にヴィーネのことを思い出していると、部屋をトン、と叩く音がした。

「どうぞ」

 ルシアーナの応えと共に扉を開けて入ってきたのは、帰りを待ち望んでいた次兄、アンソニーだった。

「アンソニーお兄様! お帰りなさい」

 驚き、喜んで兄の元に走り寄ったルシアーナ。

「ただいま、ルシィ。元気にしてた?」

 飛びついてきた妹を難なく胸の中で受け止めながら、アンソニーは続けて話す。

「熱烈大歓迎! って感じだね? ……僕も久しぶりにルシィと会えて嬉しいけど、小さな淑女とは思えない作法だね」

 くすくす笑うアンソニーに、ルシアーナは頬を赤らめた。

「……だって、まさか今日、お部屋まで来てくれるなんて、思わなかったの。すっごく嬉しくって、つい……」

「お土産があってね。――ずっと、ばたばたしていたのだけど、やっと渡せる!」

 抱き留めていた妹を床に下し、頭を撫でながら、懐から包み紙を取り出すアンソニー。
 そのとき、ふと机に山と積まれた本に気がつき、不思議そうな顔をした後、顔をしかめた。

「――まさか、朝からずっと本を読んでいたのか?」

 本の山の理由に思い当たったアンソニーの目元は、心なしか険しくなった。
 慌ててルシアーナは、言い訳を始める――

「ち、ちがうの。――ずっと読みたいと思っていた本が溜まっていて、今日は絶好の機会だったのよ。誰にも邪魔されずに読書出来るのだもの……」

「……と、いうことは、……今日は誰も部屋に来なかったの?」

「ううん、ちゃんと朝ご飯をリサが持ってきてくれたわ」

 ルシアーナがあっと思った時には、遅かった――兄、アンソニーの形相が変わっている。

「昼は? もうすぐ、宴が始まる時間だぞ?! 朝一度、リサが来ただけだ、なんて! 皆、何をしているんだ! ――何も食べていないのか?」

「い、いいの。あんまりお腹は空いてないし、一人でお菓子とお茶を楽しんだから……」

 美味しかった、と昨日ヴィーネと焼いたお菓子を食べたのを思い出したルシアーナは、目を輝かせた。

「わたしもお兄様に贈り物があるの!」

 机の引き出しから、大切そうに包みを二つ取り出し、一つをアンソニーに手渡す。

 受け取って中身を見たアンソニーは、驚いた。
 包みの中身は、可愛らしくリボンで包まれた焼き菓子と、――見事な護符。
 持つだけでも力が流れ込んでくるような護符に、アンソニーは驚きを隠せなかった。

「これは? ルシィ、一体何処で手に入れた?」


 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

処理中です...