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妹に問いながらも、アンソニーの脳裏にしつこく(とアンソニーは感じていた。ロシアンは特に何も感じていないようだったが……)身内のこと、特に不思議な力のある者について何度も訪ねてきた公爵一派のことがよぎる……。
「わたしが作ったの。……気に入ってくれた? お兄様」
恥ずかしそうにしながらも、無邪気に問いかけてくる妹に、アンソニーは絶句した。
まさか――――?! これをルシィが?
そして、ルシアーナが握りしめたままの、もう一つの包みに気がつく。
「ルシィ、そっちは?」
「…………これね、ロシアンお兄様のなの。ロシアンお兄様も、騎士団のお仕事で大変でしょう?……もし、もしも良かったら、アンソニーお兄様から渡してもらえない? ……もしも、気に入ってもらえそうなら……」
俯き、心細げに段々小さな声になっていく妹の姿に胸が詰まって、アンソニーは咄嗟に言葉が出てこなかった――
それでも、自らを叱咤し、優しく妹の頬を手で包んで、顔を上げさせる。
(絶対に、――絶対に考えなしのロシアンなどに、ルシィを傷つけさせたりするものか!)
そして、満面の笑みでアンソニーは告げた。
「もちろん! とても気に入った。ありがとう、ルシィ。――特にこの護符の出来栄えは、すごいね。手に取るだけで、力が湧いてきそうだ」
ルシアーナの顔がぱっと輝いた。
妹を愛しそうに見つめながら、アンソニーは続けた。
「ロシアンも絶対、とても喜ぶ。でも、こんなに素晴らしい贈り物は、ルシィが直接手渡すべきだね。――さあ、宴に出る支度をしよう? 僕が付き添っていてあげるから。美味しいものもたくさん出ている筈だよ。お昼の分まで、たくさんお食べ」
そして、懐から出した先ほどの包みを開き、慣れた手つきで妹の髪に飾った。
アンソニーのお土産は、美しく繊細な細工の白い花の髪飾りだった。
鏡を覗き込んだルシアーナは、嬉しそうに声を上げて笑う。
「なんて、きれいなの! お兄様、ありがとう!」
しかし、すぐに心配そうな表情に変わった。
「でも、……わたしなんかが宴に出ても良いのかしら?」
「もちろんさ! ――大丈夫。僕がずっとルシィについていてあげるよ。美味しいものをたくさん食べてから、また部屋に戻ればいい。さ、急いで準備しよう! 僕は、あの白い衣装が良いと思うよ」
内心、マリアーナには嫌というほど侍女や使用人がついているのに、と悪態をつく。
(この馬鹿げた騒ぎにどれ程の価値があるのか……過信して、大物狙い一択のようだが、公爵がマリアーナを気に入らない可能性を少しも考えない親戚にも胸が悪くなる。――今回の話は始めから胡散臭いが、ま、いいさ。僕には関係ない。たぶん…………。)
一抹の不安は、土産の代わりに懐へと大切にしまい込まれた、ルシアーナの護符。
もしも、妹が公爵一派の求めるものに関連しているとしたら……?
ルシィに何かあれば、とても自分は無関係と傍観してはいられない――
まさか、ね、と軽く首を振って、意識を妹に戻す。
「ルシィ、僕が着替え以外の支度を手伝うよ。自分で着替えられる?」
何でも器用にこなすアンソニーは、素早くルシアーナに着やすく可愛い衣装を見立て渡し、扉の外で着替え終わるのを待つ。
待つ間に思うのは、先程の思考の続き――
(あの公爵は有能だ。仮に見込まれたとしても、それで事態が悪くなることは万に一つもないだろう……。なら、在り得ないことだけど、――もしもルシィの方が公爵に認められたら、胸がすっとするだろうな。二度とルシィを軽く見る者はいなくなるだろうし……)
今度は遠慮なく、皆に認められ大事にされるルシアーナを夢想する。
同じ自分の妹でも、マリアーナとルシィの周りの扱いの差に、毎回苛立つアンソニーは、密かに苦笑した。
同じ双子の片割れとはいえ、自分もマリアーナとは生まれたときから男女の差以上に、周囲からの扱いに差があったと思う。
そのせいか、物心ついた頃からマリアーナとはどうしても折り合いが悪い。
もちろん、相性や性格の差もあるのだろうが……。
だから余計に苛立ち、ルシィの方に肩入れしてしまうのかもしれないな、と。
アンソニーが考えに沈んでいると、
「アンソニーお兄様! 出来たわ。――どう?」
妹が軽やかな声と共に、恥じらいながら現れた。
溌剌とした表情が愛らしい――アンソニーは髪をまとめ、王都土産である髪飾りを挿し込む。
そして、同じ系統の前回贈った白い花の首飾りと合わせると、可憐な白い花の精のような装いが整った。
アンソニーは満足げに頷いた。
「さあ、お手をどうぞ、ルシィ。――宴に出発だ」
「わたしが作ったの。……気に入ってくれた? お兄様」
恥ずかしそうにしながらも、無邪気に問いかけてくる妹に、アンソニーは絶句した。
まさか――――?! これをルシィが?
そして、ルシアーナが握りしめたままの、もう一つの包みに気がつく。
「ルシィ、そっちは?」
「…………これね、ロシアンお兄様のなの。ロシアンお兄様も、騎士団のお仕事で大変でしょう?……もし、もしも良かったら、アンソニーお兄様から渡してもらえない? ……もしも、気に入ってもらえそうなら……」
俯き、心細げに段々小さな声になっていく妹の姿に胸が詰まって、アンソニーは咄嗟に言葉が出てこなかった――
それでも、自らを叱咤し、優しく妹の頬を手で包んで、顔を上げさせる。
(絶対に、――絶対に考えなしのロシアンなどに、ルシィを傷つけさせたりするものか!)
そして、満面の笑みでアンソニーは告げた。
「もちろん! とても気に入った。ありがとう、ルシィ。――特にこの護符の出来栄えは、すごいね。手に取るだけで、力が湧いてきそうだ」
ルシアーナの顔がぱっと輝いた。
妹を愛しそうに見つめながら、アンソニーは続けた。
「ロシアンも絶対、とても喜ぶ。でも、こんなに素晴らしい贈り物は、ルシィが直接手渡すべきだね。――さあ、宴に出る支度をしよう? 僕が付き添っていてあげるから。美味しいものもたくさん出ている筈だよ。お昼の分まで、たくさんお食べ」
そして、懐から出した先ほどの包みを開き、慣れた手つきで妹の髪に飾った。
アンソニーのお土産は、美しく繊細な細工の白い花の髪飾りだった。
鏡を覗き込んだルシアーナは、嬉しそうに声を上げて笑う。
「なんて、きれいなの! お兄様、ありがとう!」
しかし、すぐに心配そうな表情に変わった。
「でも、……わたしなんかが宴に出ても良いのかしら?」
「もちろんさ! ――大丈夫。僕がずっとルシィについていてあげるよ。美味しいものをたくさん食べてから、また部屋に戻ればいい。さ、急いで準備しよう! 僕は、あの白い衣装が良いと思うよ」
内心、マリアーナには嫌というほど侍女や使用人がついているのに、と悪態をつく。
(この馬鹿げた騒ぎにどれ程の価値があるのか……過信して、大物狙い一択のようだが、公爵がマリアーナを気に入らない可能性を少しも考えない親戚にも胸が悪くなる。――今回の話は始めから胡散臭いが、ま、いいさ。僕には関係ない。たぶん…………。)
一抹の不安は、土産の代わりに懐へと大切にしまい込まれた、ルシアーナの護符。
もしも、妹が公爵一派の求めるものに関連しているとしたら……?
ルシィに何かあれば、とても自分は無関係と傍観してはいられない――
まさか、ね、と軽く首を振って、意識を妹に戻す。
「ルシィ、僕が着替え以外の支度を手伝うよ。自分で着替えられる?」
何でも器用にこなすアンソニーは、素早くルシアーナに着やすく可愛い衣装を見立て渡し、扉の外で着替え終わるのを待つ。
待つ間に思うのは、先程の思考の続き――
(あの公爵は有能だ。仮に見込まれたとしても、それで事態が悪くなることは万に一つもないだろう……。なら、在り得ないことだけど、――もしもルシィの方が公爵に認められたら、胸がすっとするだろうな。二度とルシィを軽く見る者はいなくなるだろうし……)
今度は遠慮なく、皆に認められ大事にされるルシアーナを夢想する。
同じ自分の妹でも、マリアーナとルシィの周りの扱いの差に、毎回苛立つアンソニーは、密かに苦笑した。
同じ双子の片割れとはいえ、自分もマリアーナとは生まれたときから男女の差以上に、周囲からの扱いに差があったと思う。
そのせいか、物心ついた頃からマリアーナとはどうしても折り合いが悪い。
もちろん、相性や性格の差もあるのだろうが……。
だから余計に苛立ち、ルシィの方に肩入れしてしまうのかもしれないな、と。
アンソニーが考えに沈んでいると、
「アンソニーお兄様! 出来たわ。――どう?」
妹が軽やかな声と共に、恥じらいながら現れた。
溌剌とした表情が愛らしい――アンソニーは髪をまとめ、王都土産である髪飾りを挿し込む。
そして、同じ系統の前回贈った白い花の首飾りと合わせると、可憐な白い花の精のような装いが整った。
アンソニーは満足げに頷いた。
「さあ、お手をどうぞ、ルシィ。――宴に出発だ」
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