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――ヴィーネが、風と出会った……。
あの者ならば、ヴィーネを此処まで無事に連れてくることが出来る――
束の間だけ覚醒した意識は、またすぐに巨大な意識に包まれて、沈んでいく――
もう何時からこうしているのか、分からない。
ただ限界が近づいているのだけは、ひしひしと感じていた。
――緑の、生命の賢者の力と名を受け継いだ筈の、このリーシア=レオナが、この体たらくとは情けない……。
もう、自分の力だけでは、この状態から抜け出せない――
リーシアはもう一度自分の名を繰り返し、何とか自我を保とうとした。
――塔の異変の原因が分かった。そして、その解決方法も……。しかし、それを行う力が、私には、もう、ない。
何とかして、ヴィーネに伝えなければ……。
意識をひたすら自分とヴィーネを結ぶ珠へと集中する。
残された手は、もはや死力を尽くして、珠に介して呼びかけを行うしかなかった――
夜半遅く、ようやく自分の寝床へ倒れ込んですぐに、ヴィーネは身動きもせずに深く眠っていた。
煮え切らない態度の精霊達も、何故か心に残る公爵の紫の瞳も、寝具に倒れ込んでしまえば、瞬く間に心から遠ざかった。
連日の疲れを癒すため、休息を求め、深く、深く眠る――そんなヴィーネの意識が徐々に浮上したのは、懐かしい母の呼び声のせいだった。
――ヴィーネ=レオナ、ヴィーネ=レオナ、お願い、応えて……。
――母様? 母様なの? どうして? ……これは、夢――?
――良かった。ようやく通じたのね? ヴィーネ=レオナ、よく聞いて……助けてほしいの。風の者と共に、どうか緑の塔まで来て……母様は、もう迎えに行けない。……許して。森の御方に協力と指示を仰いで――時間が、時間がないの。とにかく、急いで……!
――どういう事なの? 母様! 今、何処にいるの?
動揺するヴィーネにも、母の緊迫した様子は、十分すぎる程伝わった。
しかし、問いただす間もなく、今度は急激に母の気配が遠ざかっていく――まるで、一瞬合った波長がずれていくかのように……
――母様! お願い、どうか教えて……!
――み……どりの、……塔で、まっている……か、ら……
ヴィーネは、寝具から跳ね起きた。
額を押さえ、今感じた出来事を反芻する――今のは、夢? それとも……?
全身が薄く汗をかいていた。
切羽詰まった母の声が、まだ耳元で聞こえるような――――違う、今のはただの夢ではない。
奇妙な確信が心の中で広がっていく――
窓の外を見れば、夜明けが近い。
(今から、森の御方に会いに行く時間はあるだろうか? ――いや、母様は時間がない、急いで、と……助けてっと……! 迷っている場合ではない。今すぐに、跳んでいかなくては!)
心を決めたヴィーネは部屋を抜け出し、緑の路を司る庭の樹の元へと急いでいた。
(母様……! 一体何があったの?)
二年も音信不通だった母の助けを求める接触に、ヴィーネの心は千々に乱れる。
一刻も早く森の御方の元へ、と急ぐヴィーネ。
しかし、あと一歩で樹の元へたどり着くという時に、いきなり腕を捕まれ、驚いた。
「君がヴィーネ? ちょっと、聞きたいことがあるんだ」
物柔らかな声と共に腕を引かれ、ヴィーネは顔を上げた。
ヴィーネを引き寄せたのは、昨夜大広間の中央で見かけた美貌の青年――シリウス。
彼はそのまま、有無を言わさずヴィーネの眼鏡に手を伸ばす――咄嗟に身を躱そうとしたヴィーネだったが、青年の周りに集う力に気付き、固まった。
(これは、風――?)
あの者ならば、ヴィーネを此処まで無事に連れてくることが出来る――
束の間だけ覚醒した意識は、またすぐに巨大な意識に包まれて、沈んでいく――
もう何時からこうしているのか、分からない。
ただ限界が近づいているのだけは、ひしひしと感じていた。
――緑の、生命の賢者の力と名を受け継いだ筈の、このリーシア=レオナが、この体たらくとは情けない……。
もう、自分の力だけでは、この状態から抜け出せない――
リーシアはもう一度自分の名を繰り返し、何とか自我を保とうとした。
――塔の異変の原因が分かった。そして、その解決方法も……。しかし、それを行う力が、私には、もう、ない。
何とかして、ヴィーネに伝えなければ……。
意識をひたすら自分とヴィーネを結ぶ珠へと集中する。
残された手は、もはや死力を尽くして、珠に介して呼びかけを行うしかなかった――
夜半遅く、ようやく自分の寝床へ倒れ込んですぐに、ヴィーネは身動きもせずに深く眠っていた。
煮え切らない態度の精霊達も、何故か心に残る公爵の紫の瞳も、寝具に倒れ込んでしまえば、瞬く間に心から遠ざかった。
連日の疲れを癒すため、休息を求め、深く、深く眠る――そんなヴィーネの意識が徐々に浮上したのは、懐かしい母の呼び声のせいだった。
――ヴィーネ=レオナ、ヴィーネ=レオナ、お願い、応えて……。
――母様? 母様なの? どうして? ……これは、夢――?
――良かった。ようやく通じたのね? ヴィーネ=レオナ、よく聞いて……助けてほしいの。風の者と共に、どうか緑の塔まで来て……母様は、もう迎えに行けない。……許して。森の御方に協力と指示を仰いで――時間が、時間がないの。とにかく、急いで……!
――どういう事なの? 母様! 今、何処にいるの?
動揺するヴィーネにも、母の緊迫した様子は、十分すぎる程伝わった。
しかし、問いただす間もなく、今度は急激に母の気配が遠ざかっていく――まるで、一瞬合った波長がずれていくかのように……
――母様! お願い、どうか教えて……!
――み……どりの、……塔で、まっている……か、ら……
ヴィーネは、寝具から跳ね起きた。
額を押さえ、今感じた出来事を反芻する――今のは、夢? それとも……?
全身が薄く汗をかいていた。
切羽詰まった母の声が、まだ耳元で聞こえるような――――違う、今のはただの夢ではない。
奇妙な確信が心の中で広がっていく――
窓の外を見れば、夜明けが近い。
(今から、森の御方に会いに行く時間はあるだろうか? ――いや、母様は時間がない、急いで、と……助けてっと……! 迷っている場合ではない。今すぐに、跳んでいかなくては!)
心を決めたヴィーネは部屋を抜け出し、緑の路を司る庭の樹の元へと急いでいた。
(母様……! 一体何があったの?)
二年も音信不通だった母の助けを求める接触に、ヴィーネの心は千々に乱れる。
一刻も早く森の御方の元へ、と急ぐヴィーネ。
しかし、あと一歩で樹の元へたどり着くという時に、いきなり腕を捕まれ、驚いた。
「君がヴィーネ? ちょっと、聞きたいことがあるんだ」
物柔らかな声と共に腕を引かれ、ヴィーネは顔を上げた。
ヴィーネを引き寄せたのは、昨夜大広間の中央で見かけた美貌の青年――シリウス。
彼はそのまま、有無を言わさずヴィーネの眼鏡に手を伸ばす――咄嗟に身を躱そうとしたヴィーネだったが、青年の周りに集う力に気付き、固まった。
(これは、風――?)
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