緑の塔とレオナ

岬野葉々

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「よくやった――!」

 シリウスは、意識を失って崩れ落ちたヴィーネの身体を抱き留めた。

 古の封印を解く際に生じた力の放流により、ヴィーネがどんなに衝撃を受けても、またその衝撃がヴィーネを通し自身に伝わってきても、シリウスはヴィーネの右腕を、そしてディンは左腕を決して離さなかった。

 流石に魔力に免疫のないディンは、手を離さずにいる事だけで精一杯だったが、風の賢者であるシリウスは、持てる力全てでヴィーネを支えた。

(まさか古の星が原因とはね――この追い詰められた状況下で、ヴィーネは本当によくやった)

 今は炎のような輝きも失せて、ただの平凡に見せかけた姿に戻っているヴィーネの頬に、シリウスは手を滑らせ覗き込む。

 その時、ヴィーネと同じく意識を失っていたディンが、頭を振って覚醒した。
 ヴィーネの左腕は、しっかりと握ったままに――

「な、何をしている?!」

 道中には見たこともない柔らかな微笑みを浮かべ、ヴィーネをしっかりと抱きしめているシリウスに、ディンは慌てふためき食って掛かる。

 そのまま接吻でもしそうなシリウスの雰囲気と、ヴィーネとの距離の近さにますます狼狽え、訴えた。

「い、意識を失ったヴィー、いや女性に、不埒な行いをするのは、男の風上にも置けないし、騎士にあるまじき行為だっ!」

 顔を真っ赤にして言い募るディンに内心舌打ちをしながら、シリウスは平然と言い返す。

「自分と同程度でものを考えないでくれ。――勿論、全ての責任が取れて、ヴィーネが必ず幸せになるのなら、問題ない」

 自信に満ち溢れたシリウスの身勝手な論理に、ディンが身を震わせている間に、シリウスはそっとヴィーネを床に横たえ、同じように床に伏しているリーシアの様子を確かめに歩み寄った。

(リーシア=レオナ、……ヴィーネの母、か。月の光のような金の髪、白磁のような肌、整った顔立ち――ヴィーネは、母親似だったのだな。先の楽しみなことだ。……しかし、こちらも完全に気を失っているのか?)

 脈を取り状態を確かめようとリーシアに手を伸ばしたシリウスに、突然、鋭い制止の声がかかる。

「彼女に触れるな! 彼女は私が運ぶ」

 何処から現れたのか、いつの間にか白銀の髪の青年がシリウスの目の前にいた。
 薄い青灰色の瞳で睨みつけられる――その剣呑そうな雰囲気にシリウスが身構えると、

「よい、よいのじゃ。リアのことは、リアス、ほれ、そこの彼に任せておけ。リアは、――――随分と無理をしたようじゃな……。これでは、当分動けまい……看護が必要じゃ」と、導師の声が割って入った。

「ここはの、――別の次元じゃったのだが、隔離しておく必要がなくなったので、今から封鎖するのじゃ。リアスについて、皆のところへ行くぞ。ロッドもガイも大層主の心配をしていた。もちろん、キールとシャールも待っている」

 それならば、とシリウスは踵を返し、ヴィーネを抱き上げようと思ったが、こちらは既にディンがしっかりと抱え込んでいた。

「……まだ、頭がふらつくだろう? 私がヴィーネを連れて行こう」

 シリウスが手を差し伸べても、頑なに首を振り、よろめきながらも決してヴィーネを手放さないディン。
 その様子にシリウスはため息を吐いたが、ふと視界の端に床に転がった珠を見つけ、拾い上げた。

「行くぞ」

 リーシアを抱き上げたリアスの指し示す先に、ぽっかりと虹色の出入り口らしきものが現れる。
 導師を先頭に其処をくぐり抜けていく――ディンは転ばぬよう慎重に足を踏みしめながら、ヴィーネをぎゅっと抱きしめ、出来るだけシリウスとは距離を置こうとする。

(俺が、ヴィーを守るんだ! ヴィーは絶対に渡さない)

 ディンの本能はシリウスを恋敵と認識し、最大級の警鐘を鳴らしていた。 
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