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それから、怒涛のように三日間が過ぎた。
深刻な痛手を心配されたリーシアとヴィーネ母子は、戻ってすぐ銀の癒し手リアス直々に、リアス以外誰も立ち入る事の出来ない特別な空間へと収容された。
そして、再会を果たした主従、そしてディンと双子らは、互いの無事を確かめ合うや否や、喜び合う間もなく、リアスに顎で使われる日々が始まった。
非常に手早く的確に大勢の患者を診ていくリアスは、同時に周りに対して様々な指示を出していった。
薬の投与から雑品の補給に至るまで、事細かに――
シリウスは有事に慣れた騎士達をすぐに野営地から呼び寄せたが、それでも人手は足りなかった。
最も即座に多方面に渡っての応援要請をシリウスは出していたのだが、それらが到着するまでには幾日もかかる。
リアスは患者を症例により幾つかの段階に分けていたようで、一の間から六の間、そして広間から廊下に直置きといったように場所ごとで把握しているようだった。
しかし、彼らの魂が戻ってきて以来、リアスはまた全ての患者を診て、異なる配置を言い出した。
シリウスはそれを行った上に、さらに緑の塔関係者、他の塔の関係者(緑の塔崩壊を防ぐため、各塔より派遣されていた者)、都行政に関わる者、一般人の四つのまとまりに分けるよう、すかさず配下の騎士達に指示していた。
そうして、怒涛のような三日が過ぎた後、あらかたの患者を新たに配置し終わり、一息つきそうな気配を感じ取ったシリウスは、リアスに切り出した。
「あと数日で各方面から此処に、応援物資並びに人員が到着するだろう。それらを有効に使うためにも、今後の見通しが知りたいのだが……」
「何を言っている? 応援など、必要ない」
「必要ない? ――どういうことだ」
一刀両断でリアスに申し出を一蹴されたシリウスは、低く問い返す。
「此処はまだ、都とは別の時空に在る。……此処への送迎にずっと注意を払うのも面倒だし、どうせ出来ることももうじき尽きる」
「――それは、此処に在る大勢の患者が全快するという意味か?」
「違うな」
それで済ませようとするリアスを引き留め、シリウスはさらに容赦なく問い詰める。
流石に一度しっかりと説明せねば、後々多大な面倒事に繋がることに気付いたリアスは、渋々と説明し始めた。
「魂と肉体を繋ぐことは、全患者恙なく終えた。が、まだ誰の時も動かしていない――蘇生の術を施していないだろう? 蘇生させても、看護に割く人員が全く足りてない状況下なのも確かだが、何より生命の輝きが足りないからだ。それを補うには、この私の薬草庫にさえ数人分しか備えのない、非常に珍しい薬草が必要だ。ただでさえ貴重で数少ない種な上、独特な手順を踏まねば、決して手に入らぬ。しかも今時外に生えている薬草は、変異にやられて使い物にはなりはしない。唯一例外なのは、ルルス周辺のものだが、あの辺りにある確証はない。……まあ、どうせ疲弊した大地や樹々が元に戻れば、いずれは手に入るだろう。それまでは、あのままだな」
重大な事実を軽く言い放つリアスに愕然とし、周りで聞いていた騎士達や学び舎の三人は一気にリアスへと詰め寄った。
騒然とした中で、リアスから新たな情報を引き出すべく、シリウスは慎重に対話を重ねる。
「それは、――どれくらいかかると思う? ……一年か、それとも二年?」
「さあな。数十年もすれば、大丈夫か? ――例のないことだし分からないが……そんなことはどうでも良いじゃないか。命は、助かったのだ。多少の遅れは、仕方あるまい」
規格外の時空を操る力のせいか、並みの価値観を持たぬリアスは、とんでもないことを平然と言う。
それではすまない事を熟知している周りの人間、特にシリウスは蒼白になった。
(ここにきて現在蘇生可能な人数は、数人のみだと――?! ……少しでも円滑に復興を進めるために、万が一に備え、蘇生する順番の目安にと四つのまとまりを把握出来るよう指示はしてきたが、これでは全然足りない! ――――駄目だ。銀の癒し手に任せ、悠長に待ってはいられない。最後に無関係な筈の都の人間で一気に増えた患者数だが、元は緑の塔の要人が多く占められている。何よりもうこれ以上、緑の塔を長く閉鎖してはおけない。それこそ今度は何が起きるか、分かったものではない)
連日の疲れと新たに加えられた心労に耐えながら、シリウスは結論に達し、口を開いた。
「リアス、その薬草の特徴を詳しく教えて欲しい。――総出で探してみるしかあるまい」
深刻な痛手を心配されたリーシアとヴィーネ母子は、戻ってすぐ銀の癒し手リアス直々に、リアス以外誰も立ち入る事の出来ない特別な空間へと収容された。
そして、再会を果たした主従、そしてディンと双子らは、互いの無事を確かめ合うや否や、喜び合う間もなく、リアスに顎で使われる日々が始まった。
非常に手早く的確に大勢の患者を診ていくリアスは、同時に周りに対して様々な指示を出していった。
薬の投与から雑品の補給に至るまで、事細かに――
シリウスは有事に慣れた騎士達をすぐに野営地から呼び寄せたが、それでも人手は足りなかった。
最も即座に多方面に渡っての応援要請をシリウスは出していたのだが、それらが到着するまでには幾日もかかる。
リアスは患者を症例により幾つかの段階に分けていたようで、一の間から六の間、そして広間から廊下に直置きといったように場所ごとで把握しているようだった。
しかし、彼らの魂が戻ってきて以来、リアスはまた全ての患者を診て、異なる配置を言い出した。
シリウスはそれを行った上に、さらに緑の塔関係者、他の塔の関係者(緑の塔崩壊を防ぐため、各塔より派遣されていた者)、都行政に関わる者、一般人の四つのまとまりに分けるよう、すかさず配下の騎士達に指示していた。
そうして、怒涛のような三日が過ぎた後、あらかたの患者を新たに配置し終わり、一息つきそうな気配を感じ取ったシリウスは、リアスに切り出した。
「あと数日で各方面から此処に、応援物資並びに人員が到着するだろう。それらを有効に使うためにも、今後の見通しが知りたいのだが……」
「何を言っている? 応援など、必要ない」
「必要ない? ――どういうことだ」
一刀両断でリアスに申し出を一蹴されたシリウスは、低く問い返す。
「此処はまだ、都とは別の時空に在る。……此処への送迎にずっと注意を払うのも面倒だし、どうせ出来ることももうじき尽きる」
「――それは、此処に在る大勢の患者が全快するという意味か?」
「違うな」
それで済ませようとするリアスを引き留め、シリウスはさらに容赦なく問い詰める。
流石に一度しっかりと説明せねば、後々多大な面倒事に繋がることに気付いたリアスは、渋々と説明し始めた。
「魂と肉体を繋ぐことは、全患者恙なく終えた。が、まだ誰の時も動かしていない――蘇生の術を施していないだろう? 蘇生させても、看護に割く人員が全く足りてない状況下なのも確かだが、何より生命の輝きが足りないからだ。それを補うには、この私の薬草庫にさえ数人分しか備えのない、非常に珍しい薬草が必要だ。ただでさえ貴重で数少ない種な上、独特な手順を踏まねば、決して手に入らぬ。しかも今時外に生えている薬草は、変異にやられて使い物にはなりはしない。唯一例外なのは、ルルス周辺のものだが、あの辺りにある確証はない。……まあ、どうせ疲弊した大地や樹々が元に戻れば、いずれは手に入るだろう。それまでは、あのままだな」
重大な事実を軽く言い放つリアスに愕然とし、周りで聞いていた騎士達や学び舎の三人は一気にリアスへと詰め寄った。
騒然とした中で、リアスから新たな情報を引き出すべく、シリウスは慎重に対話を重ねる。
「それは、――どれくらいかかると思う? ……一年か、それとも二年?」
「さあな。数十年もすれば、大丈夫か? ――例のないことだし分からないが……そんなことはどうでも良いじゃないか。命は、助かったのだ。多少の遅れは、仕方あるまい」
規格外の時空を操る力のせいか、並みの価値観を持たぬリアスは、とんでもないことを平然と言う。
それではすまない事を熟知している周りの人間、特にシリウスは蒼白になった。
(ここにきて現在蘇生可能な人数は、数人のみだと――?! ……少しでも円滑に復興を進めるために、万が一に備え、蘇生する順番の目安にと四つのまとまりを把握出来るよう指示はしてきたが、これでは全然足りない! ――――駄目だ。銀の癒し手に任せ、悠長に待ってはいられない。最後に無関係な筈の都の人間で一気に増えた患者数だが、元は緑の塔の要人が多く占められている。何よりもうこれ以上、緑の塔を長く閉鎖してはおけない。それこそ今度は何が起きるか、分かったものではない)
連日の疲れと新たに加えられた心労に耐えながら、シリウスは結論に達し、口を開いた。
「リアス、その薬草の特徴を詳しく教えて欲しい。――総出で探してみるしかあるまい」
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