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頭の中で早くも王都への手助けを請う手順などを算段しつつ、シリウスはリアスにその薬草についての情報を求めた。
しかし、リアスは気の乗らない様子だった。
「私は無駄が嫌いだ。――その薬草は、別名『心の花』ともいう。滅多なことで手に入れられるものではなく、また例え発見出来たとしても、花の許しがなければ摘んでも意味はない」
「どういうことだ? さっぱり分からない。貴殿は、言葉が曖昧すぎる」
挑戦的に、かつ諦める気配が皆無なシリウスの態度を見て、リアスは深々とため息を吐いた。
(ため息を吐きたいのは、こちらの方だ――!)
心の中で毒づきながら、シリウスはリアスをひたと見据える。
自らの望みを叶えるまでは絶対に追及の手を緩めない、というシリウスの心構えを見て取り、リアスはまたもや渋々と口を開いた。
「必要な薬草の正式名称は『プレケス』――祈りの意を持ち、特徴的な葉と世にも美しい花を咲かせるものだ。薬として必要なのはその花だが、見出すことよりもさらに採取が難しい。まず最初にすべきことは、花若しくはそこに宿る何かの許しを得ることだと言われている。――この薬草は謎が多く、何かの化身だと主張する学者もいるくらいだ。何を持って許しを得たことになるのかは、不明だがな。そして、次に採取だが、……邪なる者が私利私欲で花に触れた瞬間、花はその絶大で稀なる効力を失うという――これが、採取が難しいとされる所以だ」
眉をひそめ、莫迦な、と信じがたい表情を見せたシリウスに、リアスは念を押す。
「本当だ。花の許しを得、無私でかつ完全に他人を思いやって採取した場合のみ、花は効力を発揮するというのが、この薬草における通説となっている」
「――仮に採取出来たとする。花一輪で、何人分だ?」
「数十人は堅いだろう」
それを聞き、シリウスの意志は固まった。
「ならば、やらぬ手はない」
リアスはもう一度ため息を吐き、しばらく姿を消した後、古文書を手に現れた。
リアスが差し出した古文書には、『プレケス』の絵と詳しい説明が載っていた。
真剣に読み進めるシリウスの横から、ひょいっと学び舎の三人が覗き込もうとする。
「おいっ! 邪魔をするな」
慌ててガイがディンを取り押さえた。
「いや、ルルス周辺の森なら、僕達よく知っています」
「見かけたことがあれば、時間の短縮になるでしょう?」
口々に訴える双子に、シリウスは古文書を差し出した。
「気になるならば、念のため見てみるが良い」
差し出された古文書を仲良く覗き込んだ三人は、驚愕の表情のまま、固まった。
「あっ! これは、……」
「あの花、なのか……?」
それ以上後の言葉の出ないキールとディンの後を継いで、シャールは言い切った。
「あの、その薬草は、うちの庭で栽培されています……!」
思わぬ事態にシリウスは目を見開き、詳しく問いただそうとした瞬間、物凄い勢いでリアスが食いついてきた。
「栽培――? この『プレケス』をか?! そう思える根拠は何だ? 特徴を述べろ。そして、採取場所並びにその採取前後の出来事を事細かに説明してもらおうか」
まず、双子らがその植物の特徴を述べると、リアスは頷き、
「信じられないことだが、――本物である可能性は高い」と呟いた。
しかし、双子らは逆に顔を曇らせて、申告する。
「――ただ、一つ懸念があるとすれば、……初めて見たとき、花は白かったのです。ところが、年々少しずつ色づいてきて――土壌の違いのせいでしょうか?」
「何? 色まで、だと?! 何色なのだ!」
興奮したリアスの様子に、シリアスは問う。
「色付きだと、何かあるのか?」
「色付きなど、ここ数十年と見かけたことはない! 色付きの効能は、色なしの数倍だぞ。それで、何色か?!」
いつにないリアスの食い気味の勢いに呑まれつつ、シャールが答えた。
「明るい、橙色です」
リアスは軽く頷き、キールとシャール、ディンを見据えた。
「それでは、事細かに、思い出せるだけ採取前後の話を聞こうか」
キールとシャール、そしてディンは互いに顔を見返した後、三人で説明を始める――それは、五年前の湖でマリアーナが強請った、あの花だった。
しかし、リアスは気の乗らない様子だった。
「私は無駄が嫌いだ。――その薬草は、別名『心の花』ともいう。滅多なことで手に入れられるものではなく、また例え発見出来たとしても、花の許しがなければ摘んでも意味はない」
「どういうことだ? さっぱり分からない。貴殿は、言葉が曖昧すぎる」
挑戦的に、かつ諦める気配が皆無なシリウスの態度を見て、リアスは深々とため息を吐いた。
(ため息を吐きたいのは、こちらの方だ――!)
心の中で毒づきながら、シリウスはリアスをひたと見据える。
自らの望みを叶えるまでは絶対に追及の手を緩めない、というシリウスの心構えを見て取り、リアスはまたもや渋々と口を開いた。
「必要な薬草の正式名称は『プレケス』――祈りの意を持ち、特徴的な葉と世にも美しい花を咲かせるものだ。薬として必要なのはその花だが、見出すことよりもさらに採取が難しい。まず最初にすべきことは、花若しくはそこに宿る何かの許しを得ることだと言われている。――この薬草は謎が多く、何かの化身だと主張する学者もいるくらいだ。何を持って許しを得たことになるのかは、不明だがな。そして、次に採取だが、……邪なる者が私利私欲で花に触れた瞬間、花はその絶大で稀なる効力を失うという――これが、採取が難しいとされる所以だ」
眉をひそめ、莫迦な、と信じがたい表情を見せたシリウスに、リアスは念を押す。
「本当だ。花の許しを得、無私でかつ完全に他人を思いやって採取した場合のみ、花は効力を発揮するというのが、この薬草における通説となっている」
「――仮に採取出来たとする。花一輪で、何人分だ?」
「数十人は堅いだろう」
それを聞き、シリウスの意志は固まった。
「ならば、やらぬ手はない」
リアスはもう一度ため息を吐き、しばらく姿を消した後、古文書を手に現れた。
リアスが差し出した古文書には、『プレケス』の絵と詳しい説明が載っていた。
真剣に読み進めるシリウスの横から、ひょいっと学び舎の三人が覗き込もうとする。
「おいっ! 邪魔をするな」
慌ててガイがディンを取り押さえた。
「いや、ルルス周辺の森なら、僕達よく知っています」
「見かけたことがあれば、時間の短縮になるでしょう?」
口々に訴える双子に、シリウスは古文書を差し出した。
「気になるならば、念のため見てみるが良い」
差し出された古文書を仲良く覗き込んだ三人は、驚愕の表情のまま、固まった。
「あっ! これは、……」
「あの花、なのか……?」
それ以上後の言葉の出ないキールとディンの後を継いで、シャールは言い切った。
「あの、その薬草は、うちの庭で栽培されています……!」
思わぬ事態にシリウスは目を見開き、詳しく問いただそうとした瞬間、物凄い勢いでリアスが食いついてきた。
「栽培――? この『プレケス』をか?! そう思える根拠は何だ? 特徴を述べろ。そして、採取場所並びにその採取前後の出来事を事細かに説明してもらおうか」
まず、双子らがその植物の特徴を述べると、リアスは頷き、
「信じられないことだが、――本物である可能性は高い」と呟いた。
しかし、双子らは逆に顔を曇らせて、申告する。
「――ただ、一つ懸念があるとすれば、……初めて見たとき、花は白かったのです。ところが、年々少しずつ色づいてきて――土壌の違いのせいでしょうか?」
「何? 色まで、だと?! 何色なのだ!」
興奮したリアスの様子に、シリアスは問う。
「色付きだと、何かあるのか?」
「色付きなど、ここ数十年と見かけたことはない! 色付きの効能は、色なしの数倍だぞ。それで、何色か?!」
いつにないリアスの食い気味の勢いに呑まれつつ、シャールが答えた。
「明るい、橙色です」
リアスは軽く頷き、キールとシャール、ディンを見据えた。
「それでは、事細かに、思い出せるだけ採取前後の話を聞こうか」
キールとシャール、そしてディンは互いに顔を見返した後、三人で説明を始める――それは、五年前の湖でマリアーナが強請った、あの花だった。
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