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決意に満ちた青い瞳がシリウスを見つめていた。
シリウスは少しためらう。
「先ほども述べた通り、まずは体調を万全に整えることだ。今日はもともと簡単な事後報告だけで、と思っていた。ヴィーネ、君は渦中の人であり、これからの要ともいえる人だからね。……こちらも、薬草が手に入り、患者が少しでも回復し、緑の塔として機能するようになるまで、此処から動きが取れない。一つ一つ解決していくしかない。だから、焦る必要はない。私も出来るだけ、これからはこちらに顔を出す。話は、もっと体調が落ち着いてからでも良いだろう?」
宥める様に優しく言い聞かせるシリウスに、ヴィーネは首を振った。
「……確かに、最悪の事態は免れたかもしれません。けれども、今回の事態の原因は、お分かりでしょうか?」
シリウスの脳裏に継承の間で見た淡く輝く巨大な球体がよぎる――
「あれは、――――この事態の原因は、古の星の暴走、だろう? それを止めるために、君は古の封印を解き、新たな封印を――」
そこでも、ヴィーネは大きく首を振った。
「いいえ。新たな封印は施していません。新しくこの世界と繋いだのです。――今、あの子達、……いえ、古の星々は眠っています」
「新しく、繋いだ? 星々?」
ヴィーネは大きく頷き、怪訝そうなシリウスの瞳を真剣な表情で覗き込んだ。
「わたしは、あの時に得た情報を、一刻も早く他の塔へと広げなければなりません。どうか、それの手助けをして下さい。――わたしの話を、聞いて頂けますか?」
気を引き締めたシリウスは頷き、ヴィーネに向き直り寝台の側の椅子へと腰を下ろした。
そうして、ヴィーネは語りだす――あの刹那とも永遠とも思える時の中で、古の星々と七人の賢者達の想いと願いを共有し、分かった事実を……。
「……何てことだ! この騒動は、緑の塔を復活させるだけでは治まらないのか?!」
シリウスは呻いた。そもそもの前提が間違っているのならば、計画の見直しは必須だ。それも、早ければ、早いほど良い。シリウスは、何故今、ヴィーネが体調不良の身をおして話をしたかという真意を理解した。
(――莫迦な、古の星は悠久の時を生きる生命体、その胎児同然だと! しかも、双生児?! ……しかし、そうであるならば、何故緑の塔が真っ先に甚大な被害を出したのかは、説明がつく。継承の間で星々と対峙したとき、六つの属性の線が伸びていたのは、そういうわけだったのか。あの線は、各塔から送られる力――だが、そうなると……)
「残り六つの塔の古の封印を此処と同様に解き、新たにこの世界と繋ぐ――循環の輪に迎え入れなければならないのか……」
「そうです。――しかも、出来るだけ早急に」
ヴィーネは憂い顔で続けた。
「星々の力は、大きすぎるのです。……今までは、互いに生き残るのに必死で、主に生命を司る緑の塔に甚大な被害を出しましたが、これからは違う。わたしは、共に世界を分け合い、与え合うために、星々を健やかな地と結びつけました。星々は今、眠っています。今までの痛手を癒すために――星々の感覚でそれがどれ程になるのかは分かりません。けれども、目覚めたとき、二つ星の成長が始まります。その時にもまだ、古の塔の封印に縛られていたのなら……今度こそ、取り返しのつかない歪みが生じかねません」
ヴィーネがその言葉を言い終えた途端、扉の方でがたっという音がした。
そちらをちらりと見れば、ガイが蒼白な顔でこちらを見つめていた。
「……そんな顔をするな、ガイ」
シリウスは不敵に笑う。
「了解した、ヴィーネ。……体調の戻らぬ中、無理をしてでも渡してくれた情報だ。早急に、六つの塔全てに知らせよう。感謝する」
取り乱すことなく、冷静に事を受け止めたシリウスを見て、ヴィーネは目を見開いた。
そんなヴィーネにもシリウスは笑いかける。
「ここ数年の、解決方法の欠片も見当たらない状態に比べれば、何をどうすれば良いのかが分かっているだけで、どれ程ましか――古の七賢者が出来たことを、その名を力を受け継ぐ者が出来ぬ筈がない。案ずるな。滞りなく通達し、対策を練る」
今度こそシリウスは立ち上がり、退出の挨拶を交わす。
「長居をしてしまい、すまなかった。どうか、これからゆっくりと休んで欲しい。――それでは、また来る」
「……こちらこそ、ありがとうございました」
ヴィーネが頭を下げ、そして元の体勢に戻ると、二人はもはや部屋にはいなかった。
(……帰るときも、唐突なのね)
ヴィーネは苦笑したが、その顔は明るい。
(同胞ともいえる風の賢者に出会えていて、……良かった)
ヴィーネは、シリウスとの出会いに感謝した。
シリウスは少しためらう。
「先ほども述べた通り、まずは体調を万全に整えることだ。今日はもともと簡単な事後報告だけで、と思っていた。ヴィーネ、君は渦中の人であり、これからの要ともいえる人だからね。……こちらも、薬草が手に入り、患者が少しでも回復し、緑の塔として機能するようになるまで、此処から動きが取れない。一つ一つ解決していくしかない。だから、焦る必要はない。私も出来るだけ、これからはこちらに顔を出す。話は、もっと体調が落ち着いてからでも良いだろう?」
宥める様に優しく言い聞かせるシリウスに、ヴィーネは首を振った。
「……確かに、最悪の事態は免れたかもしれません。けれども、今回の事態の原因は、お分かりでしょうか?」
シリウスの脳裏に継承の間で見た淡く輝く巨大な球体がよぎる――
「あれは、――――この事態の原因は、古の星の暴走、だろう? それを止めるために、君は古の封印を解き、新たな封印を――」
そこでも、ヴィーネは大きく首を振った。
「いいえ。新たな封印は施していません。新しくこの世界と繋いだのです。――今、あの子達、……いえ、古の星々は眠っています」
「新しく、繋いだ? 星々?」
ヴィーネは大きく頷き、怪訝そうなシリウスの瞳を真剣な表情で覗き込んだ。
「わたしは、あの時に得た情報を、一刻も早く他の塔へと広げなければなりません。どうか、それの手助けをして下さい。――わたしの話を、聞いて頂けますか?」
気を引き締めたシリウスは頷き、ヴィーネに向き直り寝台の側の椅子へと腰を下ろした。
そうして、ヴィーネは語りだす――あの刹那とも永遠とも思える時の中で、古の星々と七人の賢者達の想いと願いを共有し、分かった事実を……。
「……何てことだ! この騒動は、緑の塔を復活させるだけでは治まらないのか?!」
シリウスは呻いた。そもそもの前提が間違っているのならば、計画の見直しは必須だ。それも、早ければ、早いほど良い。シリウスは、何故今、ヴィーネが体調不良の身をおして話をしたかという真意を理解した。
(――莫迦な、古の星は悠久の時を生きる生命体、その胎児同然だと! しかも、双生児?! ……しかし、そうであるならば、何故緑の塔が真っ先に甚大な被害を出したのかは、説明がつく。継承の間で星々と対峙したとき、六つの属性の線が伸びていたのは、そういうわけだったのか。あの線は、各塔から送られる力――だが、そうなると……)
「残り六つの塔の古の封印を此処と同様に解き、新たにこの世界と繋ぐ――循環の輪に迎え入れなければならないのか……」
「そうです。――しかも、出来るだけ早急に」
ヴィーネは憂い顔で続けた。
「星々の力は、大きすぎるのです。……今までは、互いに生き残るのに必死で、主に生命を司る緑の塔に甚大な被害を出しましたが、これからは違う。わたしは、共に世界を分け合い、与え合うために、星々を健やかな地と結びつけました。星々は今、眠っています。今までの痛手を癒すために――星々の感覚でそれがどれ程になるのかは分かりません。けれども、目覚めたとき、二つ星の成長が始まります。その時にもまだ、古の塔の封印に縛られていたのなら……今度こそ、取り返しのつかない歪みが生じかねません」
ヴィーネがその言葉を言い終えた途端、扉の方でがたっという音がした。
そちらをちらりと見れば、ガイが蒼白な顔でこちらを見つめていた。
「……そんな顔をするな、ガイ」
シリウスは不敵に笑う。
「了解した、ヴィーネ。……体調の戻らぬ中、無理をしてでも渡してくれた情報だ。早急に、六つの塔全てに知らせよう。感謝する」
取り乱すことなく、冷静に事を受け止めたシリウスを見て、ヴィーネは目を見開いた。
そんなヴィーネにもシリウスは笑いかける。
「ここ数年の、解決方法の欠片も見当たらない状態に比べれば、何をどうすれば良いのかが分かっているだけで、どれ程ましか――古の七賢者が出来たことを、その名を力を受け継ぐ者が出来ぬ筈がない。案ずるな。滞りなく通達し、対策を練る」
今度こそシリウスは立ち上がり、退出の挨拶を交わす。
「長居をしてしまい、すまなかった。どうか、これからゆっくりと休んで欲しい。――それでは、また来る」
「……こちらこそ、ありがとうございました」
ヴィーネが頭を下げ、そして元の体勢に戻ると、二人はもはや部屋にはいなかった。
(……帰るときも、唐突なのね)
ヴィーネは苦笑したが、その顔は明るい。
(同胞ともいえる風の賢者に出会えていて、……良かった)
ヴィーネは、シリウスとの出会いに感謝した。
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