緑の塔とレオナ

岬野葉々

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 こつん、と遠慮がちに扉を叩く音がした。

 リアスから既に話を聞いていたヴィーネは、落ち着いて応えを返す。

「どうぞ。お入りください」

 しばらくの間があった後、いきなり部屋の中央に現れたシリウスとガイを見て、ヴィーネは驚いた。

(な、何?! 扉から入ってくるのではなかったの?)

 実は細かな調整が面倒で、リアスは緑石を空間移動の鍵としてしまったので、シリウスとガイは二段階目で直接ヴィーネの前に現れてしまうのだ。

 一方、数日ぶりにヴィーネに会ったシリウスは、生き生きと輝くヴィーネの青い瞳から、視線を逸らすことが出来ない。

 昨日の弱弱しさ、痛々しさはもはやどこにも感じられず、少し驚いた表情ながらもこちらを真っすぐに見つめてくるヴィーネに、シリウスは足早に近づいて行く。
 そして、ガイは黙って扉の前に控えた。

「いきなりですまない。――体調はどうだろうか?」

「このままで話す分には支障ありませんが、……このような格好ですみません。まだ、起き上がると少しふらついてしまうので、あと数日は寝台で過ごすように言われていて……」

 寝台の上で背もたれにもたれかかり、申し訳なさそうに述べるヴィーネにシリウスは首を振る。

「いや、こちらこそ、無理を言ってすまない。……辛くなったら、すぐに言って欲しい。話もなるべく手短に済ませる」

「分かりました。……けれど、その前にどうかお礼を述べさせてください。ルルスから此処緑の塔まで連れて来て頂き、ありがとうございました。あと、母の珠を届けて頂き感謝しています。それと、この羽も……」

 ヴィーネは両手で銀の羽をシリウスに差し出し、柔らかく微笑んだ。

「――本当に、ありがとうございました。おかげで、とても良い夢を見ることが出来ました」

 シリウスは、差し出された羽をヴィーネの方へ、そっと押し戻した。

「礼には、及ばない。こちらの方こそ、星々と世界の安寧に力を尽くしてくれて、感謝している。――本当によくやった。ありがとう。そして、それは、君にあげたものだ。静穏を司る銀の羽――風の精霊の加護もある。これからも、君の眠りを守るだろう。気に入ってもらえたなら、何よりだ」

 それを聞き、ヴィーネは目を大きく見開いて逡巡したが、シリウスが有無を言わさず力をこめると、やがて大事そうに羽を握りしめ、頭を下げた。

「さて、これから色々と話し合わねばならないことは沢山あるが、――まずはヴィーネ、これから君は何よりも体調を万全に整えることを優先してほしい。どうかこのことを忘れないでくれ。……緑の賢者である君に、力を借りねばならぬことは山積みだが、時間はまだある。無理は禁物だ。我々に出来ることは、全て割り振ってくれて良い」

 真剣な表情で訴えるシリウスに向かって、ヴィーネはこくりと頷いた。

(そうはいっても、他の塔の封印はまだ解けていない――星々のためにも、世界の、……森の御方のためにも、早く何とかしてあげたい。……わたし、早く動けるようにならないと)

 決意を胸に秘め、シリウスを見上げるヴィーネ。
 シリウスは、やはり強い意志を感じるヴィーネの青い瞳に惹き付けられていた――

(何て綺麗な意志の輝きだ。……昨日は、あんなにも打ちひしがれていたというのに。このしなやかさ、強さは何処からくるのか? 知りたい。そして、この輝きが少しでも損なわれぬよう、私が守りたい――)

 新たに芽生えた思いを胸に、それからシリウスは、ヴィーネが疲れていないかを慎重に見極めながら、ヴィーネの倒れた後の話を語った。
 
「――――というわけで、現状は患者達に対し、あらかたの処置は終わったが、次の処置は薬草次第だ。明日の応援部隊到着を待って、ルルスへの採取部隊を編成する。先ほど述べたように、取り扱いの難しいものらしいので、実際の採取は君の友人達にしてもらい、それを折り返しこちらに届けるのにも、半月はみている。それから、癒し手に薬を製作してもらい、……とまあ、先は長い。なので、焦らずどうかゆっくりと養生して欲しい」

 真摯にこちらを気遣うシリウスの様子に、ヴィーネは深く頷いた。
 そして、そのまま話を切り上げ、退出しようとするシリウスにヴィーネは切り出す。

「わたしもお話があります」
 
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