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ヴィーネがシリウスから珠を受け取ってから、七日が過ぎた。
ヴィーネはその間、時間さえあれば珠に力を注ぎ、疲れれば休み、と毎日一生懸命に療養との兼ね合いを考えながら頑張り、ついにその試作品を完成まで漕ぎ着けていた。
そして奇しくも同じ日、遅れに遅れた薬師の到着により、導師達一行がルルスへ向けて出発することとなる。
そのことを伝え聞いたヴィーネは、リアスから許可を取り、初めて隔離室から出て、導師達一行の見送りをするために急いでいた。
ヴィーネがリアスと共に大広間へ入っていくと、周りから歓声が上がる。
そして、ディン、キールとシャールが大喜びで駆けてきた。
「ヴィー! 起きられるようになったのね! 良かった……」
一番涙もろいシャールが涙声で抱きついてくる。
「心配かけて、……ごめんね。もう、大丈夫。ありがとう」
「ヴィー、体調は? 大丈夫なのか?」
心配そうにのぞき込んでくるキールとディンに、ヴィーネは笑って頷いた。
しかし、周りを見渡すと、もう既に皆の旅支度が整っているのに気がつく。
「良かった。出立前にヴィーと話せて……」
シャールの呟きに、ヴィーネの胸は寂しさで一杯になった。
(導師様、シャールとキール、そしてディン。わたしの大事な師匠、そして初めて出来た友人達――黙ってこの旅に付き合ってくれて、わたしがどんなに心強かったか……。次は、いつ会えるのだろう)
久しぶりにかけた眼鏡の下で、密かに瞳を潤ませるヴィーネに、ディンが訴える。
「俺、本当はヴィーが回復するまで待って、一緒にルルスへ帰りたかったんだけど……」
「駄目駄目。薬草採取で成功する可能性一番のディンを置いていける筈、ないでしょ?」
耳慣れない言葉にヴィーネが首を傾げると、「あ、聞いてなかった?」とキールが理路整然と命の輝きを補うことの可能な貴重で謎に包まれた薬草の説明をしてくれた。
「塔を出たところで、カーレルさんという薬師とルルスまで一緒に旅する騎士達が待ってるらしいんだ。……俺、責任重大だよな。『心の花』、『プレケス』は、俺にとっても大切な花なんだ。俺にとって、大事なことを教えてくれて、シャールとキールが一生懸命に育ててくれたもの――一輪だって、無駄になんてしたくない。だけど、やってみなくては分からないんだ」
少ししょんぼりしたディンを励ますために、ヴィーネは向き直った。
「ディン。ディンは、この塔にいる患者さん達に早く良くなって欲しい、と思ってる?」
ヴィーネの問いに大きく頷くディン。
それを見て、ヴィーネは微笑み、懐から緑石の欠片を取り出した。
「その想いを、どうか忘れないでね。どうかその子、ううん、その花を摘む前に、そうやってきちんとその想いを告げてあげて欲しいの。――そして、花を摘み終わった後には、この石を根元に埋めてあげて」
(ヴィーネ=レオナの名のもとに、感謝の意を込めて『心の花、プレケス』に生命の祝福を――)
ヴィーネは心の中で素早く守護句を唱え、淡く緑に光る欠片をディンに差し出した。
ディンは目を丸くして、それを大切に受け取り、「必ず」とヴィーネに約束した。
ヴィーネの後ろでは、そのやり取りに目を輝かせてこちらへ突撃しようとするリアスと、それを止めるシリウスという図が出来上がっていた。
ヴィーネはそれに気づかず、今度は導師に同じく懐から取り出した珠を差し出した。
「導師様。これを、この珠を緑の御方へ届けて頂けますか?」
珠を受け取った導師は、目を見開いた。
「これは、――この珠は、緑の力で満ちておる」
「公爵様の御厚意で、母様の珠を模して作って頂きました。――少しでも、緑の御方とその森、そして森に住まう者達の助けになれば、と思います。……お願い出来ますか?」
真剣に訴えるヴィーネの想いを汲んで、導師は大きく頷いた。
「了解した。必ず、届けよう。こやつらと共にルルスへと戻り、薬草採取を見届けたら、その足ですぐにでも御方に届けに行く」
導師のその言葉に、ヴィーネはほっと息を吐いた。
そして、そのまま、ディン、キール、シャールに一人ずつ別れの挨拶をしながら、抱擁を交わす。
「本当に、本当に色々とありがとう――」
ヴィーネは心の中で「今まで」とそっと付け加える――真っ赤になった三人は、照れ隠しにそれぞれヴィーネに向かって話しかけた。
「早く体調を戻して、ルルスに戻って来いよ! ……俺、迎えに来ようか?」
「本当! 待ってるわ! でも、当分無茶したら、駄目よ?」
「ドミヌス商会宛に連絡をくれたら、僕達で迎えに来るよ。その礼は、緑の力について教えてくれるっていうので、どう? ――待ってる」
ヴィーネは淡く微笑んで、敢えて返事を避けた。
これから先、緑の賢者として自分が何処へ行き、何をすることになるのかは、分からないからだ。
ルルスでの落ち着いた生活が待っている彼らとは、ここで道が分かたれる。
けれども、たとえ離れていても、いつか――――
「わたしね、あなた達に話したいことがまだまだたくさんあるの。――本当にたくさん。だから、今度会った時にゆっくり話すね。……どうか道中、気をつけて!」
そうして、導師とディン、キール、シャールはヴィーネとの別れを惜しみながらも、ルルスへと旅立っていった。
ヴィーネは、自分にとって大切な四人の姿が見えなくなるまで、緑の塔から見送った。
(――いつかきっと、きっと会いに行くから。どうか、皆、元気でいてね……!)
ヴィーネはその間、時間さえあれば珠に力を注ぎ、疲れれば休み、と毎日一生懸命に療養との兼ね合いを考えながら頑張り、ついにその試作品を完成まで漕ぎ着けていた。
そして奇しくも同じ日、遅れに遅れた薬師の到着により、導師達一行がルルスへ向けて出発することとなる。
そのことを伝え聞いたヴィーネは、リアスから許可を取り、初めて隔離室から出て、導師達一行の見送りをするために急いでいた。
ヴィーネがリアスと共に大広間へ入っていくと、周りから歓声が上がる。
そして、ディン、キールとシャールが大喜びで駆けてきた。
「ヴィー! 起きられるようになったのね! 良かった……」
一番涙もろいシャールが涙声で抱きついてくる。
「心配かけて、……ごめんね。もう、大丈夫。ありがとう」
「ヴィー、体調は? 大丈夫なのか?」
心配そうにのぞき込んでくるキールとディンに、ヴィーネは笑って頷いた。
しかし、周りを見渡すと、もう既に皆の旅支度が整っているのに気がつく。
「良かった。出立前にヴィーと話せて……」
シャールの呟きに、ヴィーネの胸は寂しさで一杯になった。
(導師様、シャールとキール、そしてディン。わたしの大事な師匠、そして初めて出来た友人達――黙ってこの旅に付き合ってくれて、わたしがどんなに心強かったか……。次は、いつ会えるのだろう)
久しぶりにかけた眼鏡の下で、密かに瞳を潤ませるヴィーネに、ディンが訴える。
「俺、本当はヴィーが回復するまで待って、一緒にルルスへ帰りたかったんだけど……」
「駄目駄目。薬草採取で成功する可能性一番のディンを置いていける筈、ないでしょ?」
耳慣れない言葉にヴィーネが首を傾げると、「あ、聞いてなかった?」とキールが理路整然と命の輝きを補うことの可能な貴重で謎に包まれた薬草の説明をしてくれた。
「塔を出たところで、カーレルさんという薬師とルルスまで一緒に旅する騎士達が待ってるらしいんだ。……俺、責任重大だよな。『心の花』、『プレケス』は、俺にとっても大切な花なんだ。俺にとって、大事なことを教えてくれて、シャールとキールが一生懸命に育ててくれたもの――一輪だって、無駄になんてしたくない。だけど、やってみなくては分からないんだ」
少ししょんぼりしたディンを励ますために、ヴィーネは向き直った。
「ディン。ディンは、この塔にいる患者さん達に早く良くなって欲しい、と思ってる?」
ヴィーネの問いに大きく頷くディン。
それを見て、ヴィーネは微笑み、懐から緑石の欠片を取り出した。
「その想いを、どうか忘れないでね。どうかその子、ううん、その花を摘む前に、そうやってきちんとその想いを告げてあげて欲しいの。――そして、花を摘み終わった後には、この石を根元に埋めてあげて」
(ヴィーネ=レオナの名のもとに、感謝の意を込めて『心の花、プレケス』に生命の祝福を――)
ヴィーネは心の中で素早く守護句を唱え、淡く緑に光る欠片をディンに差し出した。
ディンは目を丸くして、それを大切に受け取り、「必ず」とヴィーネに約束した。
ヴィーネの後ろでは、そのやり取りに目を輝かせてこちらへ突撃しようとするリアスと、それを止めるシリウスという図が出来上がっていた。
ヴィーネはそれに気づかず、今度は導師に同じく懐から取り出した珠を差し出した。
「導師様。これを、この珠を緑の御方へ届けて頂けますか?」
珠を受け取った導師は、目を見開いた。
「これは、――この珠は、緑の力で満ちておる」
「公爵様の御厚意で、母様の珠を模して作って頂きました。――少しでも、緑の御方とその森、そして森に住まう者達の助けになれば、と思います。……お願い出来ますか?」
真剣に訴えるヴィーネの想いを汲んで、導師は大きく頷いた。
「了解した。必ず、届けよう。こやつらと共にルルスへと戻り、薬草採取を見届けたら、その足ですぐにでも御方に届けに行く」
導師のその言葉に、ヴィーネはほっと息を吐いた。
そして、そのまま、ディン、キール、シャールに一人ずつ別れの挨拶をしながら、抱擁を交わす。
「本当に、本当に色々とありがとう――」
ヴィーネは心の中で「今まで」とそっと付け加える――真っ赤になった三人は、照れ隠しにそれぞれヴィーネに向かって話しかけた。
「早く体調を戻して、ルルスに戻って来いよ! ……俺、迎えに来ようか?」
「本当! 待ってるわ! でも、当分無茶したら、駄目よ?」
「ドミヌス商会宛に連絡をくれたら、僕達で迎えに来るよ。その礼は、緑の力について教えてくれるっていうので、どう? ――待ってる」
ヴィーネは淡く微笑んで、敢えて返事を避けた。
これから先、緑の賢者として自分が何処へ行き、何をすることになるのかは、分からないからだ。
ルルスでの落ち着いた生活が待っている彼らとは、ここで道が分かたれる。
けれども、たとえ離れていても、いつか――――
「わたしね、あなた達に話したいことがまだまだたくさんあるの。――本当にたくさん。だから、今度会った時にゆっくり話すね。……どうか道中、気をつけて!」
そうして、導師とディン、キール、シャールはヴィーネとの別れを惜しみながらも、ルルスへと旅立っていった。
ヴィーネは、自分にとって大切な四人の姿が見えなくなるまで、緑の塔から見送った。
(――いつかきっと、きっと会いに行くから。どうか、皆、元気でいてね……!)
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